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 一度プレイし始めたゲームから、クリアしないまま一週間以上離れるという経験は殆どない。

 小学生の頃、肺炎で一週間入院した時くらいだ。

 あの時中断したのは確か『ロードロード』の派生作品、『ロードクリエイターズ』だったっけ。


『ロードクリエイターズ』は、本編シリーズの1作目『ロードロード』の世界観を再現したゲーム。

 でもリメイクじゃなく、その世界が魔王に滅ぼされた数百年後を舞台とした『もう一つの物語』だ。

 勇者が魔王に唆され、世界の半分を受け取る代わりに魔王を放任するという選択をしたその後が描かれている。


『ロードロード』は全作品オリジナル、リメイク共にプレイ済みだから、この作品には結構感情移入していた。

 まあ、親父の方はオリジナル版をほぼリアルタイムでプレイしていたらしいから、俺よりずっと刺さっていたみたいだけど。


 それなりに思い入れもあったから、中断せざるを得なかった一週間は結構辛かった。

 でも、プレイ出来ない分色々な事を想像したり、あの場面のあのキャラはどんな心情だったのか……などの考察をする時間もあったから、空白の期間もそれなりに楽しんでいた。

 当時はまだガキだったから、拙い想像ではあったけど、今の俺にはない感受性や想像力で色んな事を思ったりした。


 結局、あのゲームについて一番覚えているのはその一週間。

 実際、その前後でゲームに対する考え方というか思考回路が少し変わった気がする。

 プレイしたくても出来ないもどかしい期間も、今にして思えばステップアップの為の大切な時期だったのかもしれない。


 そして今、裏アカデミであの時以来となるブランクを味わっている。

 ちょうど良い機会だから、プレノートに纏めながらこれまでを振り返ってみよう。


 このゲームをプレイする事になったのは、ミュージアムにあった一枚の書き置き。

 手書きで記されたその文章は、アカデミック・ファンタジア内における施設ソル・イドゥリマで待つという一方的な内容だった。


 ログインしてその場所へ行くと、フィーナと名乗るキャラがいた。

 そのフィーナに案内されるがままに、謎の空間へと転移する。

 そこはアカデミック・ファンタジアの舞台『サ・ベル』の10年後の世界だった。


 その10年で世界は大きく変容し、敵勢力である"世界樹を喰らう者"イーターは人間の手に負えないほど巨大化・凶悪化していた。

 たった一体のイーターも倒せず、人類は敗北寸前まで追い詰められ、あまりの人材不足から過去の実証実験士を募るまでになっていた。

 その『過去の実証実験士』の一人が、俺ことシーラだ。


 そこで同じ境遇のリズ、エルテ、ブロウと出会い、ラボ(パーティ)を組む事に。

 ラボの名称はモラトリアム。

 レベル10台の俺とリズ、87のエルテ、そして150のブロウというかなり歪な編成ながら、俺達は揉める事なく和気藹々と旅を続け、その途中でテイルという謎の研究者と出会った。


 テイルは特殊な武器やアイテムを開発していて、シーラはその実験台にされてしまう。

 けどその見返りとして、瞬間移動――――刹那移動を覚えた。

 それによって、低レベルであっても様々な戦略を駆使する事が可能となり、小型イーターの打倒も果たした。


 そんな俺達が旅の果てに辿り着いたのは、人類最後の希望の地・王都エンペルド。

 王城を研究所とし、巨大な凶悪イーターを倒す為に様々な研究と開発を行っていて、王族さえもその為の一ピースとなっていた。


 そこで出会ったのが、リッピィア王女とステラ。

 リッピィア王女は本当は王女じゃなく、研究者として活動しているステラの方が実際の王女で、二人は意図的に立場を入れ替わっていた。

 つまりは影武者だ。


 当初は影武者を辞めて隠居したがっていたリッピィア王女だったけど、キリウスと名乗る謎の人物に騙されたのをきっかけに、今の立場でやれる事をやろうという気概が芽生える。

 片や悠々自適な研究ライフを満喫していたステラも、リッピィア王女への罪悪感や王女としての責任を放棄した訳じゃなく、自分の能力を最大限発揮してリッピィア王女を支えようとしていた。


 そして時が流れ、次第にこの世界の謎が明らかになってくる。


 ステラとテイルが実は同一の存在である事が判明。

 それには、この世界の生い立ちが大きく関わっていた。


 サ・ベルとは、世界樹を培養するために生まれた世界。

 世界樹がその内部に新たな世界を構築する事を考えると、サ・ベルとは文字通り母なる大地と言えるのかもしれない。


 その中の世界樹の一つが、誤って自分の中に創っていた内部世界を外側へと廃棄してしまった。

 滅びた世界を破棄して新たな世界を構築するのが世界樹本来のシステムだけど、滅びていない世界を破棄してしまった事で、その世界樹が創った世界が同時に二つ存在する事になった。

 その二つの世界はお互い引かれ合い、やがて折り重なるようにして統合した。

 

 このような事態を引き起こした犯人が存在する。

 そしてシーラは、その犯人を捜すように頼まれた。

 世界樹を支配する、実質的な神――――【九幹】たる盟主の一人、アスガルドに。


 元々、裏アカデミをプレイし始めた当初から、ラスボスがこの世界の何処かに存在している事をテイルから示唆されていた。

 随分とメタ的な説明だったけど、それにも何か意味があるのかどうかはわからない。

 また、テイルの言うラスボスがアスガルドの捜している犯人と同一かどうかもわからない。


 いずれにしても、シーラの目的は世界を混沌に導いた人物を見つけ出す事。

 その一方で、モラトリアムとしての目的は『他の実証実験士達と協力してイーターを一体でも多く倒す事』だ。

 その両立をしながら、時にソロ、時にチームを組んで戦っている。


 最新の戦闘では、その二つの目的に大きな進展があった。

 凶悪イーターの討伐。

 国をあげての大捕物に見事成功した。


 同時に、それを妨害しようとした勢力も判明する。

 首謀者と思われる人物は、エルオーレット王子だ。


 だが、討伐後の祝賀パーティーで意外な事実が判明する。

 支配者の証を持つ者が発光する魔法リューゲを使用したところ、ビルドレット国王陛下に反応があった。

 つまり、アスガルドが捜していた『自分以外の世界樹の支配者』は国王だった訳だ。


 って事は、ビルドレット国王陛下は何らかの理由で世界樹をバグらせ、内部世界を破棄させた。

 その後の統合まで狙い通りなのかどうかは不明だけど、少なくとも本来の支配者であるアスガルドの意向を無視して、別の世界樹の支配者がアスガルドの支配下にある世界樹をおかしくしたのは間違いない。

 アスガルドへの私怨なのか何なのか、動機は本人に直接聞くしかないだろう。


 流石に別の世界樹の支配者が人間の王になる事はない。

 つまり、人間の王に擬態――――化けている。

 本物のビルドレット国王陛下が無事かどうかも調べなくちゃならない。


 まだまだ謎は多い。

 例えばフィーナ。

 現実世界でもゲーム世界でも、俺を裏アカデミへと引き込んだ人物だ。


 ゲーム内の彼女は、人類側の組織『オルトロス』の幹部と思しき立ち位置にいたけど、世界を守ろうとするのではなく、新しい世界を創り出す事を目的としていた。

 そして彼女は、アポロンと共にキリウスが代表を務める組織『アンフェアリ』に属している……とほぼ断定できる状況にある。


 俺に書き置きを残した人物が、フィーナを操作している人物と同一かどうかは断定できないけど、関係者なのは間違いないだろう。

 エルテを操作している水流は、ソウザ――――朱宮さんの操作キャラに案内されたと言っていた。

 朱宮さんも"スタッフ側"なのは確認済みだ。


 そのフィーナ以上に謎多き人物がキリウスだ。

 でも先日、ついに奴の尻尾を掴んだ

『白い建物』に関する情報だ。


 裏アカデミを始めて、何度か集落内で目にした白い建物。

 それはアンフェアリが建てている事がわかっている。

 つまり、代表者であるキリウスの意向だ。


 そしてその白い建物の正体は、天使のトップに君臨しているエイルから聞かされた。

 あれは世界樹の心象風景であり、世界樹が自分を見失わないようにという配慮で建てられた、世界樹を守る為の施設。

 世界樹が二度と自分の中の世界を破棄しないようにする為の配慮……と考えられる。


 この事実を聞いた時点では、まだキリウスに対する悪印象を払拭するまでには至らなかった。

 でも、国王の正体が世界樹に悪さをした犯人だったとしたら、一気にひっくり返る。


 今までは王国の軍や研究者、オルトロスという組織を『人類を守る為にイーターと戦おうとしている勢力』と決め付けていた。

 だって人類を代表する立場なんだから当然だ。


 でも、王国軍や王城の面々が世界樹を混乱させた犯人に支配されているのなら――――彼等こそが敵勢力で、俺達はそんな連中に協力しているって事になる。

 表向きはイーターを討伐しようと頑張っているけど、実際にはそうではなく、人類を不利な立場に追いやろうとしている。

 実際、エルオーレット王子はイーター討伐を邪魔しようとしていた。


 だとしたら。

 キリウスがリッピィア王女を引き入れようとしていたのは、人類の敵たる王城から彼女を救い出す為?

 俺を助けたのも、気まぐれでも何でもなく、純粋に同じ人類の仲間だと見なしていたから……?


 そういう仮説が成り立つ。


 敵だと思っていたのに、実は一番心強い味方だった。

 そんな存在に対し、何故このゲームは『キリウス』という名前を与えたのか?


 現実世界におけるキリウスは、不正アクセスを行った疑いを持たれている謎のハンドルネーム。

 でもその実態は明らかになっていない。

 不評や醜聞だけが一人歩きして、その正体は長年不明のままだ。


 だから、どうしても結びつけたくなってしまう。

 何らかの狙いがあって、終夜父は敢えてキリウスという名前を使ったんじゃないかと。

 悪であるキリウスの名前を話題性目的で使うのなら、悪役のままの方がイメージに合致するのに、敢えてこんな回りくどい『正義の味方』に設定している事に、何かしらの意図が隠されていると思うのは……陰謀論を信じるような突拍子もない発想だろうか?


 終夜父は、このゲームを精神医療と結びつけている。

 その事も、何か関係あるんだろうか?


 想像は尽きない。

 この何日間かずっと考えて、俺なりに何かを掴みかけている。

 何かが……あと少しで繋がりそうな、そんな気がしていた。


「……ん?」


 SIGNが来た。

 もしかして……水流だろうか。

 ちょっと緊張するな。


 あ、違う。

 終夜か。

 なんかホッとしたような、肩透かしくらったような……いや女子からのSIGNで肩透かしってのも変な話だけど――――



『相談があります』『エルテがいなくても、アカデミを進める事は可能でしょうか』



 そんな俺の心を嘲笑うように、届いた文章からは強烈なまでに終夜の意思と決断が伝わってきた。





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