8-10
ネクマロン、そして渋々ながらテイルが味方に付いた事で、まだ実験段階の一風変わった装備品やアイテム、そして世界樹魔法が大量に支給される事になった。
どんな堅い相手にも必ず1ダメージを与える【アウラの針】。
敵のシールドや防御壁魔法の破壊に特化した【ヴァントフェアの槍】。
敵から受けた攻撃を威力に上乗せ出来る【レフレクの矢】。
一度だけあらゆる攻撃を防ぐけど、その一度で壊れる【マウエルの盾】。
イーターの周囲だけを破壊する魔法【アオセン】。
あらゆるイーターの嗅覚を刺激するアイテム【ドゥーグリアの実】。
正直戦略に組み込めるような有効性のある物はないし、役に立つかどうかはわからないけど、それでも何かに使えるかもしれない。
ありがたく頂戴する事にした。
更に、これまでに開発したオーケストラ・ザ・ワールド(聴け! 我が宴)、ビリビリウギャーネット、世界樹の旗もラインナップに加えたところで――――
「これより、イーター討伐別働隊の第一回ディスカッションを開始します!」
リッピィア王女の部屋に招かれた俺、メリク、リッズシェアの五名、ネクマロン、そして――――
「……」
ステラの計九名は、進行を務めるリッピィア王女を前にリラックスした体勢で話を聞いていた。
幾ら影武者とはいえ、王女という立場にいる人物の前で各々普通に座っている。
そして、本物の王女であるステラもそれを全く咎めようとしない。
傍目には物凄くシュールな光景だろうけど、今更二人に対して王族扱いするのは無理だ。
「まずは、他国から私達ヒストピア人に力を貸してくれる事になったメリクさん、貴方に心から感謝します。お父様に別働隊への支援を許可されたのは、貴方のお陰です。本当にありがとう」
「……いえ…………僕は何も……」
リッズシェアとの合流は既定路線だったとはいえ、メリクが謁見の際にこの事を上手く伝えてくれたお陰で、何の支障もなく許可が下りた。
彼を一人で陛下の元に行かせたのは、正直賭けに近いところもあったんだけど、無事上手くいって本当に良かった。
ここまでは順調。
でもあくまで、俺達はイーター討伐のサポートをする権利を得たに過ぎない。
そこで何をやれるか、何をしなければならないかは、これから行う会議で煮詰めていく必要がある。
「で、私達はこれから討伐隊の支援を担当する事になるんだけど……詳しい話はシーラがしてくれるから! 後はお願いねシーラ」
……ん?
いや聞いてないけど!? 何その無茶振り! そんな予定一切なかっただろ!?
「シーラ君、大丈夫ですか? あまり人前で話すのに慣れていないんじゃないですか?」
全くその通りだけど、リズは俺以上に慣れてないから『心配してくれるのなら代わって』とは言えない。
この中で、そういうのが得意そうなのは……いないんだよな。
リズは言わずもがなとして、エルテは会話が筆記だから説明に時間かかるし、アイリスはあの意味のわからない例えを逐一挟まれたら鬱陶しいし、シャリオやメリクが円滑に説明する姿は想像も出来ない。
ネクマロンは……
「シーラきゅんガンバってー★」
……そもそも事情を良く知らない。
仮に知っていても、説明役には向かないだろう。
結局、消去法で俺になる運命なんだ。
こういう時、ブロウがいれば丸投げしたのに。
本隊に高レベルの実証実験士が一人でも多くいるべきなのは言うまでもないけど……こっちにとっては痛手だ。
「……わかりました」
まあ、全員顔見知りな上に嫌な性格の奴は一人もいないから、別に問題はない。
もしあのウォーランドサンチュリア勢を交えたイーター討伐作戦会議で発言しろって言われたら本気で嫌がってただろうけど。
「えー、取り敢えず確実にやらなきゃいけない事をまず言っておきます。本隊の監視は必須です」
「しつもーん★ 本隊って今回結成されたイーター討伐隊の事だよね? なんで監視するのかな★」
大した説明もしないまま付いて来る事になったネクマロンからすれば、当然の疑問だ。
にしても、テイルがよく彼の遠出を許可したな。
流石に戦場には連れて行くなって念を押してたけど。
「本隊に裏切り行為を働く人間がいるかもって懸念があるんだ。それを払拭する為に監視役を担う、ってのがそもそもの別働隊の結成理由だったから」
「へー★ やっぱり心を一つにするって難しいね」
今の説明で簡単に理解するあたり、ネクマロンの地頭は相当良いんだろうな。
研究者だし、呑み込みが早いのは当然かもしれない。
普段の脳天気な言動からは想像も出来ないけど……
「そして、もう一つ必須の仕事があって、本隊と情報を交換し合う連絡係は確実に必要。この二つを、俺が受け持とうと思うんだけど」
一瞬、室内が騒然となる。
まあ、言ってみればどっちも面倒な雑用であって、それを俺が全部やるって言うんだから、ラッキーくらいに思って貰えれば良いんだけど……
『それは客観的評価による適材適所なのか、それとも自己犠牲なのか、エルテは舌鋒鋭く質問を記すわ』
別に鋭くはない気がするけど、当然の確認だよな。
もし俺が、この女性陣ばかりのチームに気を使って、面倒事を全部引き受けたとしよう。
それをごく当り前のように受け取る人間もこの世界には沢山いるだろうけど、ここにいる面々は、そういう気の使われ方を好まない人達ばかりだ。
「勿論、前者。俺には刹那移動があるから、隠密活動や暗躍には向いてるんだよ」
特に連絡係に関しては、俺がやれば格段に時間を節約出来る。
本隊には顔見知りも多いし、問題なくやれる筈だ。
俺は戦闘面では全く戦力になれない。
裏方として頑張らないとな。
『了解したと、エルテは賛同を記すわ』
「私も問題ないと思います。シーラ君は監視得意そうです」
……リズさん?
その根拠は何?
なんかモヤモヤしたけど、アイリスとシャリオからも異論反論はなく、メリクも納得したため、全会一致で俺が監視役 兼 連絡係を請け負う事になった。
ま、早かれ遅かれこの件は自分から言い出そうって思ってたから、早めに決まって良かった。
「……」
「シャリオ、どうした?」
「……」
次の議題に入ろうとしたところで、シャリオがアイリスに何か耳打ちし始めた。
まさか、『監視を自ら買って出るなんて怪しい。スパイなんじゃないか?』とか言い出さないだろな……
「ふむふむ。そうだな。そうしよう」
「えっと……何?」
「ああ。我々は別働隊であって本隊の支援が主な任務だが、直接イーターと戦う事になった時の事も考えておいた方が良いと思う」
それは、まあその通りだ。
別働隊とは言っても、イーター討伐に出る以上、いつイーターと遭遇するかはわからない。
本隊が先行している中、後ろから突然襲われるかもしれない。
そうなった時、何も事前に話し合っていなかったら即座に陣形は乱れ、パニックになるのは必定。
混乱を防ぐ為にも、事前にどう動く決めておいた方が良い。
「もし…………僕たち別働隊だけがイーターから襲撃を受けた時には……僕が防御を引き受けます」
頼もしい答えを唱えたのは勿論、メリク。
防御専門の彼でなければ、この世界のイーターが繰り出す強烈な攻撃は防げないだろう。
「マウエルの盾……でしたね。よろしければ僕に使わせて貰えない…………でしょうか」
控えめながら、強い意志を宿した目でメリクは問いかけてくる。
断る理由はないけど――――
「愛用している盾じゃなくて良いのか? まさか盾を二つ装備する訳じゃないんだろ?」
「その…………まさか……です」
今度はメリクが室内をザワ付かせた。
盾の……二刀流?
いやこの場合二盾流って事になるのか。
両手で盾を装備しているメリクを思い浮かべてみる。
かなりシュールだ。
ただ……
『メリクの盾は全身が隠れるくらい大きいのに、片手で持てるとは到底思えないとエルテは空気読まず顰蹙を買うのを覚悟で記すわ』
エルテ、そういうの気にしてたのか……
それは兎も角、実際エルテの指摘通り、メリクの盾はとても片手で持てそうなシロモノじゃない。
一体どうやって……
「ご心配には……及びません。盾は僕の一部ですから……」
次の瞬間、メリクはまるで大剣を背負うソルジャーのように、大盾を掴みそれを肩で担いでみせた。
なんて腕力。
どうしても顔の幼さがイメージを邪魔するけど、彼はどうやら俺の想像より遥かに豪腕らしい。
「一度しか……防御出来ないけど…………一度は確実にどんな攻撃も防ぐ盾……なんですよね?」
「そだよー★ 防ぐっていうより無効化って感じかな★ でも、どんな攻撃でも一撃で壊れるから、扱いがかなり難しいかな」
例えば、投石レベルの貧弱な攻撃であっても、それを盾で防いだ瞬間に壊れるんだろうか。ネクマロンの言動から察するに、その可能性はかなり高い。
確かに、相当に扱いは難しそうだ。
「……………………ありがとう……ございます。扱いなら……大丈夫です。僕の盾では防げない攻撃を……このマウエルの盾で……防ぎます」
二つの盾を使い分けるって言う事か。
といっても、マウエルの盾は一度の防御で壊れる訳だから、決断はかなり難しい。
メリクにとって切り札になるのは間違いないだろうけど、悩みのタネを一つ増やしている感じもする。
「不意の一撃で……全てが終わらないように」
それでも、メリクが懸念していたのはイーターの全方位攻撃。
これを仕掛けて来るイーターは結構いるらしく、一撃で身体の周囲全域を破壊するほど凶悪な攻撃との事。
そういう不可避の攻撃に対し、マウエルの盾は効能を発揮するんだろう。
心なしか、マウエルの盾を受け取ったメリクは、誇らしそうにも嬉しそうにも見えた。
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