8-9
国王への報告をメリクに頼んだ手前、俺も自分の役割をしっかりとこなさなくちゃならない。
彼との信頼をより強固にする為にも。
俺の役割は、仲間を増やす事。
そして、自分自身が戦力になる事。
まずはこの二つだ。
仲間……か。
取り敢えず、リッピィア王女が束ねているリッズシェアの五人は、別働隊と連動して動いてくれる筈だ。
元々、彼女達も討伐隊の支援をする為に結成されている訳だから、別働隊そのものと言っても過言じゃない。
順序的には寧ろ、俺達がリッズシェアに合流する形の方が筋が通っている。
とはいえ、メリクの報告を受けたビルドレット国王が直々に俺達を別働隊に指名するだろうから、現実にはこっちが向こうを吸収する事になる。
まあ序列については、正式に合流が決まってからで良いだろう。
俺は別に主導権を握りたい訳じゃないし、メリクも同じだと思う。
他に仲間に引き入れる事が出来そうなのは……ステラなんかどうだろう?
でも、真の王女であるステラがイーター討伐隊に加わる許可は流石に下りないだろう。
勿論、ブロウやエメラルビィらを本隊から引き抜く事は出来ないし、その本隊とケンカ別れしたウォーランドサンチュリア勢も同様だ。
後は……
――――キリウス。
一瞬、その名前が浮かぶ。
いや、何を考えてるんだ俺は?
奴やフィーナ、そしてアポロンは俺達とは違う組織の中でイーターを狩ろうとしている連中だ。
そんな連中を引き入れたら、この国に対する裏切り行為にしかならない。
知り合いが少ないから、つい知ってる名前がそのまま出て来てしまうな。
この際、城の中にいる強いのに本隊に選ばれていない高レベルの実証実験士を見繕って、片っ端から声を掛けてみるしかないか。
勝算は低いけど――――
「……申し訳ない。その提案には乗れない」
案の定、か。
これで誘った人数はちょうど十人目。
その全てに断られてしまった。
「やっぱり正式決定がまだだと心許ないですかね」
「いや、そういう問題じゃない。仮に陛下から正式に受理されたとしても、君の言う別働隊に加わるつもりはない。他の連中も同じだと思う」
俺よりも年上の、老け顔の実証実験士は眉間に皺を寄せてそう述懐した。
「器が小さいと思われるかもしれないが……もし別働隊に入れば、本隊に選ばれた連中とは明確に立場の差が出来てしまう。向こうが上、こちらが下、とな。今後の事を考えても、それだけは避けたい」
……サポートに回る事をそう解釈するのか。
正直、俺には今一つ理解出来ない。
でもそれなら、本隊に選ばれなかった時点で差は明らかなんじゃないのか……?
「選ばれなかっただけなら、選出する側の問題と納得も出来る。今回の討伐は国民を奮起させる為のもので、より見栄えの良い、派手な戦いが望まれている……とかな。だが自ら支援する立場に志願するとなれば、話は違ってくる。そういう事だ」
思いの他、老け顔の実証実験士は赤裸々に内情を告白してくれた。
ここまで言わせてしまった以上、自分の価値観で彼を責める事は出来ない。
「わかりました。理解が足りず、言い難い事を言わせてしまって誠に申し訳ありません」
「いや、良いんだ。誰かに求められるのは、悪い気はしないし……ね」
そう言いながらも、寂しそうに去って行く。
他の実証実験士も彼と同じ思いだとしたら、これ以上声を掛けるのはどうにも躊躇われるな。
仕方がない。
出来れば最後まで候補から外したかったけど……あの二人を頼るしかないか。
ここから普通に移動するには遠いし、今はルルドの指輪もあるから、刹那移動で行こう。
……頼むから壊れないでくれよな――――
「――――急に来ないで欲しいの。ビックリするの」
特に驚いたような顔でもないけど、内面はそうでもないのか、テイルの声は若干上擦っていた。
「実際に使ってるところを定期的に見せておかないと、実験サボってるって思われそうだし」
「君の刹那移動の使用回数と精度は、こっちで確認出来てるの。心配ないの」
個人情報盗まれまくってるな。
まあ、低リスクで瞬間移動を使わせて貰っている手前、その程度じゃ文句も言えないけど。
「ただ、今回は実験の報告だけが目的じゃない。頼みがあって来た」
「却下なの。奴隷の言う事なんて聞く必要ないの。あたしが格上なの。あたしが命じる立場なの。お願いされても知ったこっちゃないの」
前からこういう態度だった気はするけど、ステラ絡みの一件以降、なんか余計に態度が大きくなった気がする。
普通逆だと思うんだけど……借りを作ったのを認めるのが嫌で偉そうにしているんだろうか?
「ならアンタはいい。助手を俺に貸してくれ」
「……何なの?」
「これから俺達、っていうかエンペルドはイーター討伐を行う予定だ。それに力を貸して欲しい」
テイルの現在の立場は理解している。
彼女は王城内の研究者達と袂を分かった身。
言うなれば、ケンカ別れした古巣だ。
当然、良い気はしないだろう。
手を貸したいなんて思う筈もない。
「もし手を貸してくれるなら、俺とステラで王様に頼むつもりだ。テイルをお城で研究させろって」
だから、条件を提示するしかない。
彼女の抱える大きなデメリットを上回る、超巨大なメリットを。
「……そんなの、実現できる訳ないの」
嫌とは言わない。
城への復帰は、彼女も望んでいる事なのか。
なんだかんだ、辺境の地で研究なんてロクに進められないだろうしな。
「あたしとステラは、極力同じ空間にいないようにすべきなの。あたしの復帰なんて、誰も喜ばないの」
「ステラは来て欲しいって言ってたよ」
「……」
若干脚色入ってる気もするけど、そういう意図の言葉は聞いている。
間違ってはいない筈だ。
「一応聞いておくけど、長い間一緒にいたら勝手に融合する……みたいな話じゃないよな?」
「ないの。もうあたしとステラは別人格だし、身体もこの世界に定着してるの。だからくっつく心配はないの」
だとしたら、懸念の理由は――――
「でも、感化はされるの。ある物事に対して、自分の考えが二つある時、一つを考えるともう一つにも自然に影響が出るように、ステラと同じ空間に長くいたら、ステラの考え方や価値観が伝染するの。向こうも同じなの。それは凄く嫌なの」
……確かに、そういうものかもしれない。
例えば、テイル達を仲間に引き入れたい俺と、負担を掛けたくない俺が頭の中に同居しているとして、前者の根拠となる理由が明白になるほど、当然だけど後者は小さくなっていく。
それと同じ事が起こるとすれば、存在理由にまで影響を与えかねない。
それなら、こうするしかない。
「なら、ステラをここか城下町に住まわせば良い」
そう答えた俺に対し、テイルは――――今まで見せた事ないくらい、目を大きく見開いた。
「……本気なの?」
「あくまで、ステラが首を縦に振った場合な。ムリヤリはさせない。でも、ステラはずっと城にいて、アンタはずっと辺境にいたって事実を考えたら、そろそろ逆になっても良いんじゃないかって思うんだけど」
当然、その場凌ぎの提案じゃない。
ステラとテイルが同一人物だって実感があるからこそ言える提案だ。
一見すると、ステラに不利な条件だけど、実はそうじゃない。
ステラはステラで、城の中にいてストレスとか色々と溜め込んでしまっているように見えるからだ。
じゃなきゃ、如何なる理由があっても俺に付き合ってディルセラム島には行かないだろう。
王女としての立場は望んでいないステラにとって、城は居心地が悪い。
だから、城の外に彼女を出すのは、決して悪条件じゃない。
「どうだ? 交渉の余地はあると思うんだけど」
「……意外だったの。君はあたしよりステラの方が好きだとばかり思ってたの」
「好きも嫌いもあるかよ。人格で言えば雲泥の差」
当然、ステラの方が好ましい性格をしている。
というか、テイルが嫌な性格をしている。
それは揺るぎない。
でも人間、良い面もあれば悪い面もある。
そして、それは相対する他人にとって、必ずしも良い面が良い面、悪い面が悪い面のまま認識される訳でもない。
たまたま、俺との相性が良いのがステラだったって話だ。
「それでも、この世界の事を全くわかっていない、凡人レベルの力しかない俺が、今こうして何か役立つ事を出来るかもしれないって動けているのは、テイルのお陰でもあるからな」
憎もうにも憎みきれないのが正直なところだ。
「……あれだけコキ使われて、そんな事を言えるなんて信じられないの」
「その自覚があるなら、もう少し丁寧に接して欲しいよね」
「善処はしないの。でも、わかったの」
お、これって脈アリって事か?
だとしたら、大きな戦力に――――
「君が、いやお前があたしの事を好きで好きで大好きでたまらないって事は、よくわかったの」
「いや普通に嫌いだけど」
「……」
「……」
「照れ隠しに迷いがないの。嫌いじゃないの」
本音しか叩き付けてないけど?
まあでも、好意的に受け取ったと解釈すれば良いか。
「で、具体的には何をどう手伝えば良いの?」
「その説明をする前に、出来れば助手も呼んで欲しいんだけど」
「仕方ないの。少し待ってるの」
……なんか、微妙に高圧的な感じが消えているような。
ずっと不遇な扱いされてたからやさぐれていただけで、根は案外素直なのかもしれない。
ステラも純粋無垢って感じだし、それがきっと彼女の本質なんだろう。
「シーラきゅん久し振り★ オーケストラ・ザ・ワールド(聴け! 我が宴)の調子はどう!?」
少しの間待っていると、助手のネクマロンが猛烈な勢いで部屋に入ってきた。
「全く使ってないから埃被ってると思う」
「酷っ! 酷っど! あれ凄くイイ出来なんだから使ってよー!」
「その舞台がこれから整う。だから力を貸して欲しい」
「いいよー★」
……すんなりと、まあ。
ともあれ、別働隊は新たな仲間を得た。
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