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 一応、プレノートなんてものを作っている手前、家庭用ゲームを制作しているゲームメーカーはほぼ網羅している自信がある。

 でもオンラインゲーム、ソーシャルゲームのメーカーについては正直チェックが甘い自覚がある。

 特にソシャゲを作る会社は、有名なところも勿論あるけど、メガヒット作を生み出しているのに無名ってケースが結構あるんだよな……


「えっと……どんなゲーム出してる会社なのかな」


「まだ一作も出してないんだって!」


 えぇぇ……無名以前の問題じゃんそれ。

 いやでも、そんな会社の名前をここまで自信たっぷりに出す以上は何か根拠がある筈。

 実際には単なる空元気で『それが星野尾流!』とか言いそうでもあるけど。


「甘い甘い、バターと砂糖混ぜてあんことハチミツ乗せたくらい甘い! 良い? もう名前が知れ渡ってるメーカーとコラボしたところで、反響なんて大してないでしょ? 世間を揺るがすバズり方するのは、いつだって新勢力! そういう所と星野尾は組んだの。小さいバズより大きい炎上。マーケティングの基本よ!」


 いや、そんな基本はない。

 っていうか炎上されたら本気で困る。

 もし迷惑系YoreTunerみたいな連中ばっかの会社だったら、即関係を絶って貰わないと……


「心配しなくて大丈夫だよ兄ーに。クリティックルってメーカー、まだ一作目を作ってる途中みたいだけど、代表の人は有名なゲーム会社で社長やってた人なんだって」


 ……それ、まさか会沢社長じゃないよな?


「その作ってる途中のゲームって、コンシューマ? ソシャゲ?」


「えっと、ネトゲ。前にも言ったよね」


 そう言えば、うっかり漏らしたの聞いたんだっけ。

 でも、確かその時『人気ゲーム』って言ってなかったっけ……聞き間違いかな。


 会沢社長が今進めてるゲームは、レトロゲーを題材にしたコミュニケーション型のRPGって話だった。

 恐らくPBWじゃないと思うから、社長の会社の株式会社プロムナードからリリースする事はないだろう。

 大手企業が出資してるらしいから、そこが主導権を握って開発元を募るか、自ら開発するのかのどっちかだと思う。


 仮に前者で、そのゲームを作る為に会沢社長をトップに据えた新ブランド『クリティックル』を立ち上げる予定たとしたら、一応辻褄は合う。

 でも、そこまで話が進んでるんだったら俺にも何かしらの情報が下りてきても良さそうだけどな……一応関係者なんだし。


 もしも来未達が俺とは別のラインで会沢社長とコンタクトを取っていて、コラボを確約させていたとしたら、ちょっとヤバいな。

 同じカフェで黙って二つの宣伝企画を押し進めていた事になる。

 信頼関係にヒビが入りかねない。


「星野尾達のコラボは凄いんだからね! 今開発中のゲームの中に、このカフェと全く同じカフェを作るの! どう? 凄い宣伝になるでしょ?」


 そういえば、前に『ゲームの中にウチのカフェを出す』って言ってたな。

 あれ、そのまんまの意味だったのか。


 ゲーム内に実在する店を登場させる系のコラボは珍しくない。

 人気シリーズ『臥龍が如き人生』をはじめ、いろんなゲームでその手の企画はやってる。

 まあ、殆どのケースでは有名チェーン店とのコラボで、ウチみたいな無名な店がコラボするケースは聞いた事ないけど。


 となると、ますます会沢社長のゲームの可能性が増してきた。

 無名店でもコラボ出来る要素が、このカフェにはある。

 ミュージアムの存在だ。


 レトロゲーを題材にするというゲームと、レトロゲー博物館のミュージアムとの相性は当然抜群。

 知名度度外視でコラボ相手に選ばれても不思議じゃない。


 とはいえ、カフェの名前が同じって時点で被りが判明しそうなもんだよな。

 余りにも無名だから、担当者が店名を覚えてなくて、違うコラボ相手として話を進めてたのかも……?


 幾つか疑問に思う点はあるけど、ここまでの話を聞く限りだとコラボ相手が被ってる可能性はかなりある。

 早急に事実を確かめて、コラボ企画を一本化しないと。


「あの、星野尾さん、来未、実は……」


「それだけじゃないんだからね! ゲーム内でカフェを利用したユーザーには、実際に同じメニューをこのカフェで頼むと割引が利くクーポンを配布するの! 来未のコスプレも再現して、来未が演じるアイドルのキャラがいろんな衣装着て歌って踊る感じになるって!」


「それ面白いな! 上手くゲームのキャラとリンクさせれば、来未がアイドルになる可能性まであるな!」


「CDデビューとかしちゃうかも」


 両親が身を乗り出すレベルで食いついた!

 来未も満更でもなさそうだ。


 この空気を乱すのはちょっと勇気要るなあ……

 実際、向こうのプランも悪くない、いや寧ろより魅力的かもしれない。


 こっちにはrain君っていう強い味方がいるから、集客力では勝ると思うけど……来未がバーチャルYoreTunerみたいなノリでゲームのアイドルキャラを演じて、このカフェで同じように接客するとなると、マジでバズるかもしれない。

 来未の容姿はそこまで際立って整ってはいないけど、身内贔屓を抜きにしても素朴な可愛さがあるし、芸能人の星野尾さんにもそう引けを取ってない。

 下手にアイドル然とした容姿だと仕込み感が強すぎて拒絶反応起こされそうだけど、絶妙に素人臭さがある来未だったら、二次元好きの嗜好にハマるかも……


「いや、両者とも素晴らしい企画を立ち上げてくれた。カフェのオーナーとして感謝を申し上げたい。ありがとう」


 急に立ち上がった親父が、涙ぐみながら一人で拍手をする。

 延々とそれを続けるけど、母さんがそれに続こうとはしなかったから、次第に拍手の音は小さくなっていった。

 ちょっと不憫。


「どちらも甲乙付けがたいが、勝ち負けは付けないとな。俺は星野尾さん達の宣伝企画に一票だ! 母さんはどうだ?」


「私は深海に一票。rain先生を引っ張ってきたのは息子グッジョブ過ぎて最高」


 え、母さんrain先生のファンか何かだったの……?

 あんなに酷評してたのに。

 いや、あのネーム書いた人の正体知らせてなかったから仕方ないんだけどさ。


「引き分けかー。でも良い勝負だったよね」


「星野尾も納得よ。来未のお兄様、名勝負をありがとう。星野尾をここまで本気にさせたのは貴方が初めて」


 いや、もっと本気になれよ……とは言わず握手に応じる。

 取り敢えず、これで勝負の件は決着。

 それより、さっき有耶無耶にされた例の事を確認しないと。


「では、各々今のプランを推し進めてくれたまえ。先方に粗相のないようにな」


「はーい」


 ……ん?


 今の親父の物言いだと、来未達も既に両親へ世話になるゲーム会社を紹介したっぽい……?

 なら当然、親父と会社との間で契約が交わされている筈。

 大分具体的な話が出てたし、担当者同士の意見交換って段階じゃなさそうではあったけど……だったら、もしコラボ相手が俺の方と被ってたら向こうも気付くよな。


「親父。来未達の企画って、もう契約は交わしてんの?」


「いや、そこまで話は進んでいない。俺もスマホで挨拶と今後についての話を少ししたくらいだな」


 話はしたのか。

 なら自己紹介も当然してるだろう。


「俺の持ってきた企画のコラボ相手と、来未達のコラボ相手って被ってない? 同じ会社って事はないかな?」


「いや? 全然違うが。お前の方の企画で電話をくれたのは、確か……会沢社長だったろ。来未達の方も代表自ら連絡をくれたが、違う名前だったぞ」


 なんだ……俺の取り越し苦労か。

 焦って損した。


 でも、だとしたら別の疑問が浮上する。

 会沢社長案件じゃないのなら、来未達がコラボするゲームはレトロゲーを題材にしている訳じゃないだろう。

 なのに、どうしてウチのカフェとコラボするって話になったんだ?


「フフン。その社長、星野尾の知り合いなんだよね! どう? この人脈。人脈を制する者は世界を制するんだから!」


 確かに星野尾さん、いろんな人と知り合っていそうではある。この性格だし、いつか大物になるかもしれない。


 でも、それより今は――――


「その社長の名前、わかる?」


 コラボ相手の素性を調べておきたい。星野尾さんを信用していない訳じゃないけど、この人コロッと騙されそうだし……


『有名なゲーム会社で社長やってた人』ってさっき言ってたから、名前さえわかれば調べるのは簡単だ。


「ちょっと待ってて。スマホに登録してるから」


 ……覚えてないのか。

 相変わらず記憶力ガバガバだな。


「えっと、確か……あ、着信履歴あった。名前は――――」


 不意に、寒気がした。

 これが俗に言う嫌な予感ってやつなのかと、妙に納得してしまった。



「終夜京四郎」



 その名前を星野尾さんから聞いた瞬間に。



 そして同時に、彼の立ち上げた壮大かつ歪なプロジェクトに巻き込まれていく自分を、なんとなく予感していた。



 そして――――



『ゲームは娯楽であり、それ以上でもそれ以下でもない』



 自分の絶対的なその価値観が、試される時がやって来るのを。



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