7-19
ウォーランドサンチュリア人を交えた決起集会は終始和やかな雰囲気で行われた。
四城騎士の四人以外の面々とも二言三言ではあるけど話せたし、ある程度の人となりというか、大枠の性格・性質については把握出来たと思う。
好青年で隙のない20代前半の男性ドエム。
陽気で常にハイテンションの20代後半の男性ラモネース。
小柄だけどガッチリした身体付きの20代前半の男性ペケルツ。
いじめっ子のような外見で凄く優しい30代男性ジョー。
大柄で育ちの良さそうな20代前半の男性オニック。
華やかな容姿でプライドが高く裏表のない10代後半の女性サーシャ。
強気で若干口汚いけど頼れそうな20代前半の女性ジェメド。
策士で抜け目のない10代後半の女性ステフ。
真面目過ぎて泣き虫の20代後半の女性ムルーニャ。
優しく包容力のある30代女性のエナーノ。
そして唯一の10代男性、メリク。
この面々に四城騎士を加えた15人がウォーランドサンチュリア人の生き残りだ。
一方、ヒストピア人の方も初対面の実証実験士が数多くいた。
無口で殆ど言葉を発しない10代男性ノルティック。
強面な外見そのままに粗暴で筋骨隆々な40代男性グレストロイ。
自己中心的な20代男性ヴェオボロ。
意味深な事ばかり呟く30代男性ハーロン。
傲慢で他人の言う事を聞かない20代女性エリシア。
高飛車で他人の言う事を聞かない10代女性シャンテリージャ。
横柄で他人の言う事を聞かない30代女性イライザ。
……なんか癖の強い奴が多いな。
女性陣はみんなキャラ被ってるし。
でも、これくらい個性というか自我が強くないと、レベル100を超える猛者にはなれないのかもしれない。
「では、今日はこの辺で解散としよう。明日早朝の鐘が鳴る時間より、イーター討伐作戦会議を行う。全員王城一階の会議室に集まって欲しい。本日はありがとう! 解散!」
エルオーレット王子の号令で、決起集会は閉幕。
どっちかというと懇談会のような雰囲気だったけど、大勢の強者が集った事で討伐隊らしい雰囲気は出て来た。
これから大きな事を成し遂げようという、全体の意思統一も感じられた。
俺の場合、戦力外だから正直疎外感はある。
でも、この場にいられたのは率直に嬉しい。
こんな俺でも何かの役に立てればいいんだけど。
「シーラちゃーん!」
アポロンが一直線でこっちに向かってくる。
相変わらず人懐っこいというか、良い笑顔だ。
「悪い。これから色々積もる話でもって思ってたんだけど、先輩方が怪しい集会開くらしいから、そっちに出席しなきゃいけなくなっちまったよ」
「ああ、こっちは構わないよ。どうせなら祝勝会で語らおう」
「その方が良いかもな。んじゃ、またな! 会えて嬉しかったぜ!」
去り際も気持ちが良い。
彼の存在があったからこそ、俺はこうして実証実験士を続けられたとつくづく思う。
当時の思い出話とかしたかったけど、それは後のお楽しみにしよう。
「明るくて良い人そうだね、彼」
背後からスッと現れたブロウが、感情のこもらない声で囁きかけてくる。
何故そんな態度……?
「ようやく終わったな。修練直後に浴びた冷水だ。心地良く身が引き締まるという意味だが」
「長かった」
アイリスとシャリオも合流してくる。
なんとなく、アイリスもシャリオも満足感を抱いているような印象だ。
それだけウォーランドサンチュリア人が頼もしく見えたんだろう。
「……お疲れ様でした」
シャリオが寄ってきた瞬間にメリクが現れた。
……ストーカー気質じゃないよな?
「お疲れ様でした。頼もしい仲間が得られて嬉しいよ」
「そう言って貰えると嬉しいです……みんなで頑張りましょう」
短いながらも熱の入った挨拶を交わし、今日のところは別れる。
メリクは本当に有望株らしく、ガーディアルさん達四城騎士の輪の中に入っていった。
あのメンツに可愛がられてるって、何気に凄いな。
「さて、これからどうしようか」
周囲の人気が疎らになったところで、ブロウが誰にともなく問う。
決起集会では軽食も出たけど、正直味わう余裕なんてなかったから、小腹は空いているけど、これから食事って空気でもないな。
「私達はこれからリッピィア王女と合流しなければならない。稽古の続きをしなければならないのでな」
「稽古か……それを見に行くのはアリ?」
思わず聞いてみた。
明日大事な会議がある以上、キリウスやディルセラムの件は一先ず保留にしとかないといけないから、今日はもうやる事がない。
ならこの時間を使って、リズ達が何をしているのか見ておきたい。
「構わないんじゃないか? そもそも私達を王女に紹介したのは君だしな」
「……でも恥ずくない?」
珍しくシャリオが感情を露わにした。
ナイトメアの効果が少しずつ薄れてるのかもしれない。
そうなるとメリクの好みから外れそうだけど。
「どうせいずれは人前に立つだろう。なら今の段階で彼に見て貰うくらいが丁度良い」
「……そんなに恥ずかしい事してるの? 踊りと歌だよね?」
「まあ、正確には擬闘だな。戦っているような動作と踊りを融合させつつ、セリフにメロディを乗せて歌う。しかし演劇とは違い、本気で戦闘を行う」
え……?
ちょっと思っていたのと違うな。
「本気の戦闘って……リズは雑魚だしエルテは魔法中心だから、二人とも酷い事にならないか?」
「それがならないんだ。あの王女、相当入念な用意をしてきたらしい。だからこそ私達も真面目に付き合っている」
な、なんか思っていた以上に本格的というか、想定を遥かに超えたスケールで計画が動いているような……もっとなんというか、俗っぽいと言うと失礼だけど『歌と踊りで観る人を感動させます!』みたいなノリだと思ってた。
「わ、わかった。取り敢えず見せて貰おう」
「僕もお願いしたいね。エルテ様に失礼な事をさせているようなら、幾ら王女と言えど一言物申したい」
幾ら影武者とはいえ、王女って立場にいる相手にそこまで強気になれるブロウが怖い。
こいつ、ロリババアの為なら国王でも殺しそうだ……
「では行くとしよう」
明らかに嫌がっているシャリオを引きずるようにして、アイリスが食堂から出て行く。
俺達も行くとしよう。
擬闘……か。
一体どんな状況なのか――――
「ひぃあ! ひぃあ! ふいぃ! えうぃ! とゅたー!」
リッピィア王女率いる女神同盟『リッズシェア』のレッスンは、王女が極秘で研究班に作らせていた四階の特別実験室で行われていた。
この部屋は決して広くはない。
標準的な実験室と同じくらいの面積で、五人が一度に踊るくらいは問題なく出来るけど、舞台を大きく使って動き回るような事は出来ない。
そして実際、そのような練習は行われていない。
今、俺の目の前で繰り広げられているのは、リズが一人でステッキを持ち、クルクル回しながら様々な動きを繰り広げている……という個人レッスン。
パッと見た限りだと寸劇に見えるんだけど、実は違う。
リズの持つステッキが回る度にキラキラと星屑を生み出していて、彼女の周囲を舞っている。
「あれは【星屑のステッキ】。見ての通り、回転する事で星屑を生成して、持ち主をガードしてくれるの。あの星屑がイーターの視覚を鈍らせて、視認出来なくする筈よ!」
仁王立ちしながら腕を組み、リッピィア王女は堂々と宣言した。
「本当にそんな効果が? 実証は行ったのですか?」
「まだしてない。これからする」
……相変わらずブロウに対する対応が素っ気なさ過ぎる。
どんだけ嫌われてるんだ。
「はい! そこまで! リッズ、大分仕上がってきたね! 次はエッル、貴女の番よ!」
なんか変な呼称で呼ばれてるな、ウチのパーティの皆さん。
この傾向だとアイリスは……アッイ、シャリオはシャッリなのか?
ちょっとピンと来ないけど。
『まだ心の準備が出来ていないとエルテは率直に記すわ』
「戦場でイーターは待ってくれないよ! さー早く!」
『鬼だとエルテはここに記すわ』
気の所為か、リッズよりエッルの方が気負っているというか、やり難そうにしている。
「まー見てなさいシーラ。私の作った女神同盟の凄みを感じるのはここからよ!」
自信たっぷりに解説役を買って出てくれたリッピィア王女に頷きつつ、エルテの勇姿を拝む。
格好はリズ同様、普段と同じ。
でも所持しているのは――――鞭だ。
「あれは『プリズムウィップ』。虹を作り出す鞭よ」
やたら『ッ』推しだな……自分の名前がリッピィアだからか?
それは良いとして、当然虹を作るだけじゃない筈だ。
「その顔、『虹を作るだけではないのだろう?』って言いたい顔ね。御名答! この鞭をしならせて作り出した虹は、イーターの嗅覚を刺激して、雨が降ってるって錯覚させるの!」
雨の匂いを感じさせる……?
それに何の意味があるんだ?
意図は不明だけど、エルテが上下左右に鞭をしならせる所作はとても滑らかで、思わず見とれてしまう。
そして、その鞭が発する虹は確かに虹そのもので、彼女の周りは楽園とでも言うべきカラフルな衣をまとっていた。
「綺麗だな……」
『……』
あ、照れた。
今は紙とペンを持っていないから、セリフを発する事が出来ないのも影響しているのかもしれないけど、いつもの自信満々な感じと違って新鮮だ。
「そう言えばエルテって、最初に会った時に『世界一のアイドル実証実験士になる』って言ってなかったっけ」
「あっれ? そうなの? だったら今の貴方は夢を叶えつつあるじゃないエッル! もっと喜びを表現していいのよ!」
『――――!』
口が利けないし筆談も出来ないから言われ放題。
ちょっと意地悪だったかな……でも一応事実だし。
何を思ってあんな事言ったのかは未だに不明だけど。
『こんな屈辱生まれて初めてだとエルテはここに殺意を記すわ』
演舞終了後、エルテは割とガチめに呪いの言葉を書いた。
「さーて、次はアイリッス、貴女よ!」
えー……
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