5-6
「あらヤッダ正統派イケメン! 残念ね~、もっとムッチリしてるかガチムチかじゃないとアタシの好みじゃないのよ~。でもストライクじゃなくてもイケる口だしイイかもね~」
「は、はあ」
……幸い、再訪した直後にエメラルヴィ氏はブロウに興味を示してくれたんで、今回はブロウにデコイ化して貰う事にした。
変態は変態を呼ぶって標語もある事だし、こういう流れも必然だよな、きっと。
さて、こっちはフィーナとお話だ。
『はじめまして。シーラの仲間のエルテプリムよ。貴女の事はシーラから聞いていると牽制気味に記すわ』
「万物の霊長は人間に非ず。我が名はリズ、この世界を観測する女神なのです」
終夜はもう俺達以外にも女神キャラで押し通すと決意したらしく、いつの間にかガチガチにキャラを固めていた。
まあ、直ぐにボロを出しそうだけど……
「フィーナです。皆さんもそうだと思いますが、実証実験士です」
「あの、ちなみにLv.は……」
「144です」
Lv.144……!
ブロウには及ばないものの、カンスト一歩手前か。
150じゃないところが如何にもNPCっぽいけど……
「それではシーラさん。質問をお願いします」
「あ、はい」
自己紹介もほどほどに、早速本題か。
ここに来るまでにするべき質問はエルテ達と話し合って決めてるから、戸惑いはない。
「まず、貴女についてもう少し詳細を教えて貰えると嬉しいです。特に俺の場合は、貴女と10年前の世界で知り合っていますし」
設定を守らなくてはいけない為、『貴女は俺をここへ連れて来た』とは言えない。
向こうにもそれは伝わっただろう。
「わかりました。ただそれをお話するには、私の目的やこの世界に関する説明も必須なので、少し長くなると思いますが」
「構いません。子供じゃないんで、話が長いからって眠ったり文句言ったりはしませんよ」
「それを聞いて安心しました。では、まずこの世界『サ・ベル』についてお話します」
ようやく――――〈裏アカデミ〉の本質に迫る事になる。
終夜も水流も、今の俺と同じような心持ちだろう。
緊張よりも遥かに大きな関心、そして猛烈な好奇心が胸の中で暴れている。
「この世界は世界樹の心が反映されている、という一文はご覧になりましたか?」
「はい。強化したアナライザをイーターに使ったら表示されました」
「強化、ですか? それはどういう?」
初めて見る、フィーナの困惑。
イベントシーンじゃなくチャットを使った普通の会話だから、それを表情で読み取る事は出来ないけど、言葉から一目瞭然だ。
『このバズーカはリズが着想してテイルっていう研究者が開発した物で、ユグドマを増幅する効果がある兵器だと端的に記すわ』
「そうだったんですか」
……返答こそ普通だけど、二の句が継げない時点で相当な動揺が伝わってくる。
これ、もしかして……向こうが用意した段取り無視しちゃったのか?
よくよく考えたら、偶然思い付いて開発したバズーカで偶然試したアナライザによって表示された隠しメッセージみたいなものが正規の攻略方法とリンクしてる訳ないよな……
「すいません、少し混乱しましたけど大丈夫です。私はてっきりあなた方が『クワイア』を使ったとばかり」
「クワイア?」
「この世界の情報を得る為に10年もの歳月を使って開発されたユグドマです。アナライザの上位魔法と言っても差し支えないですね」
クワイアなんて魔法、全く知らないぞ。
まあ開発に10年かかったって事は、多分この〈裏アカデミ〉だけの魔法なんだろう。
〈アカデミック・ファンタジア〉における魔法――――ユグドマはYデバイスという出力装置を装備していれば誰でも使えるけど、全てのユグドマをいきなり使える訳じゃない。
各魔法にはそれぞれの『Yコード』と呼ばれる識別子が存在していて、それをYデバイスに読み込ませる事で使用可能となる。
つまり、クワイアって魔法を使えるようになるにはクワイアのYコードが必要だ。
でも、俺達はこの世界に来てから一度もYコード自体見かけた事がない。
新しい魔法を開発してもいないし……
「あの、クワイアのYコードは一体どこに? 」
「ソル・イドゥリマにいる研究者が教えてくれる筈ですが」
「おかしいな。テイルはそんな事、一言も言ってなかったような」
「先程もエルテプリムさんが言っていた、その兵器の開発者ですね。残念ですが、私はテイルという人物に心当たりがありません。クワイアを開発したのは別の研究者です」
……何だって?
ちょっと待て、これは予想外だ。
兎に角、落ち着いて状況を整理しよう。
フィーナの話では、どうやらソル・イドゥリマでアナライザの上位魔法の『クワイア』って魔法を習得出来る筈だった……と思われる。
そういうイベントシーンが用意されていたのかもしれない。
でも現実には、俺達が行ったソル・イドゥリマにいたのはテイルって研究者で、そいつはクワイアの存在なんて一言も口にしなかった。
もしかして棟違いだったのか……?
テイルがいたのは文化棟だったけど、魔法棟が正規ルートだったんだろうか。
いや、でもそういう分岐を用意してるんならフィーナがテイルを知らないってのはちょっと考え難いよな……
「えっと、よくわからないんですけど、アナライザをバズーカで増幅させた結果、クワイアって魔法と同じになったって事ですか?」
「恐らくそうだと思います」
いやいや……理屈ではそうなんだろうけど、ゲームとしてそれは流石に無理があるだろ。
そんな柔軟にプレイヤーのアドリブを拾えるゲームなんてあり得るか?
……もしあるとしたら、それは無限の可能性を持ったゲームだ。
例えば、極めて自由度の高いオープンワールド等のオンラインゲームでさえも、基本は制作側が用意した設定とストーリーに沿って進めていくのが原則。
プレイヤー側のプレイに合わせてゲームシナリオが逐一変化するゲームが存在するとしたら――――
それはもう究極のゲームなんじゃないだろうか?
「話が少し逸れてしまいましたが、貴方がたが見たその文章の通り、サ・ベルは世界樹の心が反映された世界のようです。検証の結果、そう結論付けられました」
『どういう検証だったのかとエルテは疑問を記すわ』
「検証と言うよりは観測と言うべきかもしれません。この世界には複数の世界樹がありますけど、その中の一つがイーターから喰い付かれた際、天変地異が起こりました」
「天変地異?」
「世界中で地震、落雷などが頻発したんです。それも唐突に。そういう現象が三度起こりました」
三度目の正直、か。
確かにそんな偶然が三度起こるのはあり得ない。
「つまり……サ・ベルで起こる自然災害は、特定の世界樹の心の悲鳴と言うのですか?」
「その通りです、リズさん。世界樹とこのサ・ベルには関連が認められます。それも非常に強い関連性が」
『それはどこにある世界樹なのかと、エルテは逸る気持ちをそのまま記すわ』
「国内です。このヒストピアの中にあります」
それは容易に想像出来た。
メタ的な視点で言えば、少なくとも〈アカデミック・ファンタジア〉ではサ・ベルの全ての国が実装されてる訳じゃなく、その中の一国であるヒストピアだけが舞台になっているから。
『もしかして、王都にあるっていう世界樹がそうなのとエルテはほぼ確信を持って記すわ』
「はい。王都エンペルドにそびえる世界樹こそが、このサ・ベルの命運を左右する『世界の心臓』です」
……そういう事か。
これで王都の閉鎖も納得がいった。
もしその『世界の心臓』がイーターによって喰われてしまったら、世界が滅ぶ可能性が高い。
だからイーターの侵略を防ぐのはこの国の、そして世界の最優先事項なんだろう。
各地域の復興を後回しにしてでも、そっちに予算や労力をかけざるを得ない……ってところか。
「その検証結果を受けて、エンペルドは完全閉鎖を行使しました。現在、王都は急造ながら巨大な壁で囲まれていて、出入管理が徹底されています。イーターでなくとも、世界の心臓に害をなそうとする不届者はいますので」
現状に満足出来てない人間の中には、それならこんな世界滅んでしまえば良いと考える奴もいるだろうしな……
その流れは必然だ。
「ならば、王都へ入るのは難しいのですか?」
「いえ。貴方がたであれば問題なく入れます。寧ろ歓待される筈です」
……どういう事だろう。
「私達の事をお話します。私やエメラルヴィ、その他にも何人かいるのですが、私達は世界樹の研究を行っている『オルトロス』という機関に属する実証実験士なんです」
ようやく――――フィーナの正体が判明した。
彼女は世界樹の研究機関の所属だったのか。
〈アカデミック・ファンタジア〉にはオルトロスという機関は確かなかった。
一応終夜にSIGNで聞いてみるか。
『裏設定として存在している機関です』
……やっぱり。
まあ、世界樹と研究を前面に打ち出してる世界観なんだから、世界樹を研究する機関があるのは当たり前だよな。
「オルトロスはこのヒストピアだけではなく、全世界の世界樹を調査・研究しています。特に本部がある訳ではないですが、私達の組織はヒストピア支部といったところですね」
『仕事内容を知りたいとエルテは率直に記すわ』
「世界の心臓の存在を知るまでは、貴方たちとほぼ同じ。発明品を実証実験して、データを収集する。その蓄積が世界樹の調査・研究に寄贈されるというだけ」
「なら、今は違うのですね」
リズの言葉に、フィーナはコクリと頷いた……という事にしておこう。
表情はなくても、彼女のそういう感情は画面越しに伝わってくる。
「ここからは歩きながら話しましょうか。貴方たちも王都を目指しているのでしょう? 目的地は同じです」
「でも、ここから先にはイーターがいるんじゃないですか? 話しながら移動なんて危険なんじゃ」
「その点、心配は無用です。エメラルヴィがいますので」
あのオカマキャラ、やっぱり重要人物枠だったのか。
流石にこの世界のイーターを一人でやっつけるなんてのは想像出来ないけど、何か特殊な技能があるんだろうか?
「エメラルヴィ、そろそろ行きましょう」
「えェ~? もうちょっと遊び~た~い~」
デコイ役を担ってくれたモラトリアムの有能イケメン枠、ブロウはエメラルヴィとずっと密着状態だった。
ある意味、ゲームに入り込んでなくて良かったかもしれない。
あの姿を克明に想像していたら精神が汚染されていたかも……
「本気じゃないですよね?」
!?
なんだろう……今の。
別に刺々しい言葉でもないし特殊な演出があった訳じゃないのに、寒気が……
「冗談よォ。冗談なんだから、冗談冗談。本気じゃないから。ね? フィーナってば怒ってる? 怒らないでよもう、謝るから」
ギリギリでキャラ崩壊させてはいないけど、エメラルヴィの焦燥が恐ろしいほど鮮明に伝わってくる。
フィーナって……怒らせるとヤバい人なんだろうか。
笑顔で人を殺すみたいな。
『あのひと恐いです』
SIGNで送られてきた終夜のメッセージに全面同意せざるを得なかった。
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