第43話『タツキvsザギュートⅣ』
ザギュートの持つハルバードから、地獄の業火のような、どす黒い赤色のオーラが噴出する。その莫大なオーラ量は、先ほどみたそれとは大違いだった。
ハルバードの刃が、ドス黒い赤色のオーラにその全身を包まれる。
それは、まるで地獄の炎を灯した巨大な松明のよう。
しかし、その光が照らし出すのは闇に包まれた俺の勇者への道ではない。その光が照らし出すのは、決して見たくもなかった俺の死へとつながる一本道だ。
俺の末路を照らし出すかのように、ハルバードから放出されたオーラが怪しく揺れる。やけに長く感じられた一瞬の貯め時間を終えて、とうとうハルバードが俺に目がけて襲い掛かてくる。
一撃目――ザギュートのハルバードが、もはや捉えられないほどの速度で繰り出されるが、さきほどの『カラミティ・スラッシュ/惨禍の斬撃』とその軌道が同じであったことが幸いし、俺はその初撃に合わせて、グロッセスメッサーを縦に据えることに成功する。しかし、その威力は絶大だ。完全に受け止めることには失敗し、受け止めた右手からビキリと嫌な音が鳴る。衝撃のあまり、筋が何本か持っていかれたのだろう。そして勢いを殺しきれなかった俺は上空に打ち上げられてしまう。
二撃目――追撃せんと襲い掛かるハルバードだが、一撃を防げたおかげで俺は少しの余裕をもって待ち受けることが出来ていた。とはいっても、その余裕とはごくわずかなものだ。並大抵の魔物ならば気づきもしないほどのわずかな隙。しかし、俺はそのわずかな間にこの危機的状況をなんとかすべく武技を発動させる。
「《フライングエッジ/飛翔する惨劇》!!」
右腕に鈍い痛みが走る。だが、先の一撃をうけ大きく後ろに弾き飛ばされていた右腕が、異常ともいえるような態勢からザギュートの攻撃に合わせるようにして振り下ろされた。
これは武技を利用することによって無茶苦茶な姿勢でも攻撃をくりだすことができるというコンバットスキルの一種である。
なぜ、戦いなどしたこともない俺がこんなことができるのかは謎だが、いまはそんなことどうでもいい。
俺の武技により生じた青白色の斬撃が、ドス黒い赤色の斬撃と激突する。正反対の二色を持つ激突した両撃は、すなわち灰色の爆発と化す。
その爆発に巻き込まれた俺は、少なくないだけのダメージを受けるが、至近距離にてその爆発を食らったザギュートのほうがダメージは大きいだろう。両者の渾身の一撃同士によって生じた爆発によって、辺りに灰色の煙が爆散し、俺の視界を奪う。
なんとかしのぎ切ったか。さすがに先ほどの爆発を至近距離で食らってはザギュートといえど無事ではいられまい。
ある程度の限界を超えるダメージを負った場合には武技は途中で中断されてしまう。だから、先の爆発を間近で食らったザギュートはとっくにその武技を中断しただろうと思ったのだ。
しかし、俺は即座にその認識が甘かったことを思い知らされる。
俺の視界に、己の存在を示すがごとく一筋の閃光が瞬く。
それは真紅の光。
まだ血が浴びたいと高らかに叫ぶ、黒い赤光だ。
ザギュートの放った武技『ジェノサイド・ヘルスラッシュ/殲滅の地獄斬撃』はまだ終わってなどいなかった。
俺は背筋に冷たいものが走るのを感じる。
『フライングエッジ』を放とうにも、そんな時間は俺に残されていなかった。俺の戦意を刈り取るべく、とどめの三撃目が迫る。
三撃目――真紅の光を宿したハルバードが俺の胸のあたりを、砂でもすくうように容易くえぐり取り、俺の体はさらに上空に切り上げられた。俺の頭は、そのあまりの激痛に耐えられなかったのか、意識を手放そうとする。このまま意識を飛ばしてしまえば、きっと楽になれるだろう。
しかし、俺にはその覚悟はもうできていた。最初の一撃から立ち上がった時に、俺は既に痛みなど覚悟していたのだ。
痛みごときで心を折られてはいけない。痛みごときで心を折られる魔物は戦いの場に立つ資格すらないのだ。
そして俺の憧れていた勇者は、皆が絶望的な状況を覆す、そんな鬼気迫るような諦めない心を持っていた!俺は、勇者になるんだ。こんなところで絶対にあきらめていいはずがない!
俺は身体が手放しかけた意識を、もう二度と手放すまいと強く抱き寄せる。
そして、俺はほぼ手放しかけていた意識を再びつなぎとめることに成功する。そして、グロッセスメッサーを振おうと、眼下に浮かぶザギュートを必殺の眼で睨みつける。
しかし、ザギュートの口元に浮かぶのは俺が倒れなかった驚きではない、まるでよくぞここまで倒れなかったという称賛の笑みである。しかし、それは己の必殺技を以てして相手を仕留めきれなかった者が浮かべる笑みではない。まるで、まだ別の必殺技をまだ秘めているような。
俺は頭上から、得体のしれない恐怖を感じる。
その正体は――――
――――俺の頭上に浮かぶハルバードの、真紅の輝きを放つ刀身。それは、まるで己にため込んだエネルギーを抑えることが出来ないとでも言うように、真紅のエネルギー濁流のごとく放出させている。俺が気付いた時には全てが遅すぎた。刹那、その刀身が俺を目がけて振り下ろされる。
四撃目――もういかなる回避も間に合わない。円弧状の軌跡を真っ赤な光で描くハルバードが俺の身体を引き裂く。激痛と衝撃。そして自らの血の気がさぁっと引いていくような感覚。
そこで俺の意識は途絶えた。
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