第42話『タツキvsザギュートⅢ』
「ハアッ!!」
ザギュートがハルバードを豪速で薙ぎ払う。その威力は絶大だ。
「うるぁぁぁぁぁああ!!」
だが、俺も負けじと、かすれ切った絶叫ともとれるような叫び声をあげてグロッセスメッサーを振う。
打ち合わされた両者の武器から、鋭い衝撃音が鳴り響く。
どれほどの間打ち合っているか、もはやどれだけの時間が過ぎているのか全く分からない。永遠ともいえるような間、剣を振り続けているようにも感じるし、あっという間の出来事のようにも感じる。
その後も打ち合いは続く。
だが、両者ともに譲らない。
そんな中、俺とザギュートの全力が込められた武器同士が衝突し、今度は弾け合うのではなく、思いがけず互いにその威力を殺しあった。グロッセスメッサーとカタストロフは再びしばしの拮抗状態へと移行する。
俺は少しでも押し込んでやろうと両手でグロッセスメッサーを握り、全力で剣に力を込めてやるが、俺の渾身の力が込められたグロッセスメッサーは、小さな悲鳴のような音をたてながら微かに震えるだけで、押し込むことはできない。
しかし、グロッセスメッサー越しに伺えるザギュートの表情も必死そのものだ。歯を懸命に食いしばり、必死の形相で俺をにらんでいる。
俺たちの筋力は完全に拮抗しているようだ。
つまりは、精神勝負。
俺は少しでもザギュートの気を引こうと、ニヤリと笑みを浮かべて言葉を投げかける。
「ハッきつそうだな、ザギュートォ!」
「そういう貴様も中々だぞ。だがこれでこそ、この村に私自ら攻めて来た甲斐があったというものだ」
その言葉に、俺が胸の内にため込んでいた怒りが噴出した。
「はぁ!?というか、なんでお前たちは攻めてきたんだよ?村を襲撃して支配下に入れるってタチ悪すぎだろうが!!ふざけんじゃねぇ!!」
俺の怒りの念によって、グロッセスメッサーを握る腕に更なる力が籠った。ギチリ、という音と共に俺のグロッセスメッサーが奴のハルバードをわずかに押し込む。
だが、そんな状況にも関わらず、ザギュートの口元が笑みを浮かべるように歪められた。
「何故この村に攻め込んできたかだと?知れたこと」
ここまで言うと、ザギュートは急にまじめな顔になる。
「それはな、この帝国を変えるためだ」
ザギュートは静かな声だった。だが、その静かな声の下には万感の思いが込められているように感じられる。軽い気持ちの一言じゃない、そういういうことを感じさせるような声だったからだ 。
「なに?」
予期しなかった答え。もっと悪党にふさわしい答えが返って来ると思っていた。それを聞いた俺は動揺してしまったのか、少しばかり剣が押し込まれる。
自分で心理戦を挑んでおいてなんて様だ。
「村を襲ってきた反乱軍ごときが何をきれいごとを抜かすな!!」
だが、俺は沸々と湧いてきた怒りを剣に乗せる。だが、押し込むには至らない。
「綺麗ごとか…。確かにそうかもしれない。だが、私は皆が楽しく平和に暮らせるこの帝国の未来を本当に望んでいるのだ。現に、我々はどの村の侵略においても村人たちに一人の犠牲者も出してなどいない!」
「この悪党がぁぁぁあああ!!調子の良いことを言ってんじゃねぇぞぉぉぉぉおおおおぁ!!!!」
俺はザギュートの言葉をかき消すように必死に叫ぶ。
村の皆を手にかけたこいつが良い奴であってたまるものか。こいつのハッタリにごまかされてはならない。
「私は事実しか述べていない。他の村の魔物達だって、共にこの帝国に暮らす仲間ではないか、私たちは傷つけあうべきではない。皆で手を取り合うべきだ。私は、そんなこの国の未来のために戦っているのだぁ!!」
まずい。
ザギュートの言葉を聞けば聞くほどに、剣に力が籠らなくなってしまう。俺の心が迷っているとでも言うのか。
「てめぇはこの村の敵だぁぁあぁああああ!!!!」
俺は絶叫をあげて、さらに一歩踏み出し、前傾姿勢をとると、全身の力をグロッセスメッサーに乗せる。もっと、もっと力を載せるんだ。そうしないと…。
村の敵はこの手で殺してみせるんだよ。
だが、そんな俺の様子を見たザギュートは勝ち誇ったかのような獰猛な笑みを浮かべると言葉を続ける。
「私が戦うのは、この腐りきった帝国の腐敗の根源たる魔導准帝カーラストを討ち、この帝国に繁栄をもたらすためだ!!!!今までに沈んでいった仲間たちの思いにも応えるために、私はここで負けるにはいかない!!!」
とたんにザギュートの握るハルバードから先ほどまでとは比べ物にならないほどの力がかかる。
奴の心の力が俺のそれをはるかに上回ったのだ。
それを俺はなんとなく直感で悟った。
何故だ、何故俺の怒りを奴の感情が上回るんだ。考えても分からない。いや、考えたくなかったからか。
俺も必死の抵抗を試みるが、もはや後の祭り。ザギュートのハルバードを受けきれなかった俺は大きくはじかれてしまう。
まずい。
大きくはじかれるということはそれだけそこにスキが生じるということに他ならない。
ザギュートが、そのスキを見逃すような魔物ではないことは今までの経験からすれば明らか。武技で姿勢を戻そうにも奴の斬撃の方が早い。
「《ジェノサイド・ヘルスラッシュ/殲滅の地獄斬撃》!!」
ザギュートはここで勝負を決めん、といった表情で切り札たる武技を発動させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます