第41話『タツキvsザギュートⅡ』

 俺はその場から、一切の予備動作もなく跳躍すると一気にザギュートへ切りかかる。


 だが、その程度の攻撃をザギュートがどうにかできないはずもない。


 容易くその槍のような武器で受け止められ、交錯した両者の武器から火花がはじける。


 ならば、と俺はグロッセスメッサーを握る手に左手を加え、そのまま力で押し切ろうと両腕に力を籠める。両腕の筋肉が躍動し、上腕三頭筋が硬く収縮する。


 しかし、それにザギュートも抵抗するように武器を両手持ちに変えてきた。


 俺は本気で押し込んでやろうと力を込めるが、ギギギと両者の武器は軋む音を立てるだけで押し込むには至らない。


 このグロッセスメッサーで押し込んでも、ザギュートの操る槍のような武器にはヒビも入らないことに俺は驚きを覚える。グロッセスメッサーと対等の勝負が可能なこの槍のような武器の強度はいかほどなのか。


 これほどの武器を伊達ヤリなどと呼んでいた自分の至らなさを痛感させられる。


「くそっ!!」


 このままでは埒があかないと俺は剣を引き、ザギュートから距離をとるように後方へ飛び下がる。


「すさまじい剛剣だな。お前ほどの使い手に出会ったのは初めてだ」


 ザギュートは素直に称賛するかのような口調でささやく。


「ハン、あいにくこちとらお前がガチで戦う相手ってのは初めてでね。ぶっちゃけ、初めてのことだらけで困っているぜ」


 これはあながち嘘でもない。俺が戦いと言える戦いをするのは今回が初めてなのだ。


「なるほど、強者との出会いに恵まれなかったということか…」


 まぁ正確に言うと、ほんの少し前の俺からすれば、自分と比較すれば周りには強者しかいなかった。だから、強者との出会いには恵まれすぎていたぐらいなのだが…。ここは正直に答える必要もないだろう。俺はずっと聞きたかったことを聞いてみる。


「ひとつ聞きたいことがあるんだが、お前の持っているその武器、ただものじゃないだろ。俺のグロッセスメッサーと互角ってどういうスペックしてやがる。何ていう武器なんだ」


 その俺の質問に対し、ほう、とザギュートは感心したかのように息を漏らす。


「やはり、貴様は武器を見る目も持つようだな。これは伝説級のハルバード、名前をカタストロフという。カタストロフとは、突然の大変動を意味する言葉。そして、この帝国に革命をもたらす我らが反乱軍カタストロフの名前の由来となったものだ」


 まぁなんとなくそれっぽい感じで聞いてみたが、本当に聞きたかったのは名前の由来がうんぬんかんぬんとかじゃなくて、その武器の分類上の名前だ。槍に斧がくっ付いた武器のことは何と呼ぶのが正解なのか、これが聞きたかったのだ。


 幸運なことに、その俺の知たかった答えもザギュートは教えてくれた。さきほどの情報によると、あの武器はハルバードというらしい。これは勉強になったな、などと思っていると、ザギュートが動き出す。


「来ないならこちらからいくぞ?《リバースサイドレーン/魔の通り道》」


 ザギュートは残像を伴うような速度で、こちらへと一気に距離を詰めてくる。


 だが、俺からすればそれは格好の的でしかない。


「《フライングエッジ/飛翔する斬撃》!!」


 俺へと直進して来るのだからそれに合わせて攻撃を放てば、百発百中だ。


 グロッセスメッサーより三日月状の斬撃が、うなりを上げてザギュートを目がけて放たれる。


 狙いは正確。外すはずもない。


 俺の放った斬撃がザギュートの身体をとらえ、その鋼のごとき身体をいかなる障害物もなかったかのように通過する。この斬撃にかかればザギュートの肉体であれ、そう簡単には防げない。


 だが、斬撃を食らったというのにザギュートの足取りは鈍らない。いや、全く鈍ってなどいなかった。ザギュートの身体は無傷だ。先ほどの斬撃が容易くザギュートの身体を通り抜けたものは、そもそも当たってなかったから…。


「無敵状態になる武技か!!」


 ザギュートは何の苦も無く移動してのけ、ハルバードの絶好の間合いへと距離を詰めると、右上段から大振りでハルバードを振り下ろしてくる。


 それを迎撃すべく、俺は腕を大きく伸ばすと体の遠心力も加えて右下からグロッセスメッサーを思いっきり振り上げる。淡い光を放つグロッセスメッサーが三日月状の軌跡を描きながら奴のハルバードと激突。


 何かが壊れたような硬い音が響く。だが、両者の武器には無傷。


 時を移さずにザギュートは次の攻撃を繰り出してくる。しかし、俺の反応速度もそれに劣らない。次の攻撃もまた弾く。弾く。弾く。弾く。


 しかし、どれほど弾いたところでザギュートは俺よりも早く、次の攻撃を繰り出してくる。その怒涛のラッシュはいつまでも終わることがないように思われ、その猛攻はまさに嵐のごとしだ。


 しかし、俺は条件反射ともいえるような反応速度でその攻撃をすべて迎え撃つ。そこに思考のつけ入る余地などない。ただ無心にグロッセスメッサーを奮うだけだ。


 俺は攻勢に転じることはできない。


 だが、その武器の打ち合いは俺の気分を高揚させる。自分が高速で剣を奮い続けているのが楽しくて仕方ない。


 だが、俺は決して負けるわけにはいかないのだ。


「うおおおおおおおおお!!!!」


 俺は吠える。更なる段階へと俺の剣速を引き上げるために。


 そんな俺の思いに答えてくれたのか、グロッセスメッサーがその速度をさらに上昇させる。その一体感は、もはやグロッセスメッサーが体の一部に感じられるほど。


 そして、対するザギュートも自分の力を解放できる喜びに満ちた残酷な笑みを浮かべると、そのハルバードの速度がまた一段と高まる。








 輝剣とハルバード、二者は止まることなく振るわれ続ける。


 ハルバードを振い続ける反乱軍統領と、輝剣でその攻撃をさばき続ける勇者の間には、武器の衝突によって生じた火花が次々とほとばしっては消えていく。


 その光景は、見るものに「武」なるものの美しさを感じさせる感動的な光景であった。


 その戦いを見つめる村人の中には、まるで心を奪われたかのごとくその戦いを食い入るように見つめるものも少なくない。


 二者はその後もその戦意を少しも萎えさせることなく、さらにボルテージを上げていく。

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