第17話『窮地』
何を言っているのかわからない。モルガンと反乱軍カタストロフがグル?信じられないような話だ。しかし、3人の様子を見ているとそれが事実のように思える。こいつは、バジュラを反乱軍に売り渡したというのか。腐ってやがる。
そんな俺の様子を見て何を思ったのか、モルガンが面白そうに話を続ける。
「何を言っているのかさっぱり分からないという顔をしているね。つまりはこういうことだよ。シュナ君が隠し持っている帝国の失われし秘宝を私はずっと狙っていたんだ。ロサンゼルス様に捧げる貢物としてね」
ロサンゼルス。以前シュナちゃんがその魔物について話していたのを思い出す。確か今の帝国で実質一番の権力を持つ魔物だったはずだ。そして、そいつが今の退廃した帝国の原因でもある。
しかし、結局何を言っているのかわからない。シュナちゃんが持つ帝国の失われし秘宝?そんなものは聞いたこともないし、それが何でモルガンがそれを知っていて狙っているのか、また何でそれがロサンゼルスにつながるのか全く分からない。確かなことは一つ、こいつは反乱軍にバジュラを売り渡し、シュナちゃんの家に盗みを働こうとするクソ野郎だっていうことだ。
「君は本当に何も知らないようだね。彼女はただの村娘などではないのだよ。本当は先……っとここまで無駄話に時間を使うのももったいないか。すまない、無知な輩に知識を垂れるのが好きなものでついね」
モルガンは楽しそうに笑う、だが俺としては何も楽しくないし、情報力が多すぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
だが、現実というものはそんな俺が完璧に理解するまで待ってくれるほど甘くない。
「さて、タツキくん」
モルガンは雰囲気を変えると、改めて俺に話しかけた。
「先ほども少し言わせてもらったが、今回シュナ君の家に空き巣などという姑息な真似を働いたのは反乱軍カタストロフなんだ。そういうことになっている。つまりだね、私がここにいた事実を知るものがいてしまっては困るわけだよ」
俺の額から一筋の滴が零れ落ちる。
こ、この流れはまずい。この流れは、よく物語の中で出てくる流れだ。
俗にいうところの、口封じに殺されてしまう可哀そうなキャラといったところか。物語の中ではよくある話だ。
だがしかし、いざそれが自分の身に降りかかってきたらどうだろうか。たかだか情報一つのために自らの命が奪われるなど理不尽極まりないことである。
だから俺は必死に生き残るすべを探す。
「大丈夫です!!絶対に口に出したりしませんからっ」
だが、そんな俺の侮蔑を抑え込んだ必死の訴えもモルガンには届かない。
「それを信じるのは愚か者のすることだよ、タツキ君」
俺の着ている服が自分の汗でじんわりとにじんでいくのを感じる。自分の欲望のために村を売り渡すようなやつのことだ、おそらく、何を言ったとしてもこの男は自分の話を聞いてはくれないだろう。
「君に恨みはないんだよ、タツキ君。それどころか、私は君には好感を抱いていた。ただ、君には運がなかった。恨むのなら自分の運のなさを恨んでくれ」
そう言うと、モルガンは元の戸棚に戻ると再びシュナが持つという秘宝を探しはじめる。もはや、俺への興味は完全に失われてしまったように。
すると二人並んで立っていたホブゴブリンの片割れが俺のほうへ距離を詰めてくる。それは「死」がホブゴブリンという実際の形をもって俺に近づいてくるようだった。
なんたる不条理だ。
村を売り渡すようなクソ野郎の犯行現場を発見したかと思えば、情報封じのために殺される?納得のいかない話である。
これも全部俺が弱いせいだ。俺に力があれば、こんなことにはならなかった。こいつらをとっちめてやることだってできたろう。
何でこんなに自分は弱いのか、なんでシュナちゃんの家に訪れただけで殺されなくてはならないのか…。
「あぁぁああぁぁぁぁあぁあぁああ!!!!」
俺は人生最速の速度で、唯一の出入り口である扉に向かって駆け出す。しかし、ホブゴブリンは特に気にした様子もない。おかげで俺は捕まるよりも前に扉までたどり着く。しかし…
「え!?あかない!!」
そう、扉には鍵がかかっていた。内側からも鍵がないと開けられないタイプのものである。
だがここで諦めるわけにはいかない。俺は鍵が閉まっていることことも構わず、そのドアを開けようと何度も何度も何度もドアを強く引く。その度にドアのきしむ音がするものの、ドアが開かれることはない。
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇええぇえぇ!!!!」
俺は誰かの助けを求めて絶叫した。近くに誰かいれば様子を見に来てくれるかもしれない。しかし、反応するのはそんな様子を面白がるように眺めていたホブゴブリンだけだった。
「ガガガガガ、もうこの辺りには誰もいねぇよ。みんな逃げちまったさ」
そういうとホブゴブリンは俺の背後まで歩を進め、俺の首をその手でわしづかみにして持ちあげる。その握力によって俺の気道が一気に締め上げられ、俺の口からうめき声が漏れた。
苦しい。
あまりの苦しさについ涙が出てしまう。俺の首を絞める手をほどこうともがくが、俺の力ごときではホブゴブリンの拳はピクリとも動かなかった。
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