第4話『森からの出現者』
シュナちゃんは、先ほど語られた理由でいつも村のみんなの前では非実体化の固有能力しか見せていない。まぁそんな理由だったとは俺もついさっき知ったのだが。
そのため、かよわい女の子として村のみんなには認識されている。
だがその本当の強さを知る俺からすると、シュナちゃんはバジュラ最強と言われている戦士頭のザックよりも遥かに強いと思う。マキュリスもザックの名誉のために力を隠してはいるが、実際は強いだろう。
正直、俺からすればこの二人の強さはチート級だ。
とまぁその話はさておき、今は今日の仕事をどうやって進めていくかを話し合ったところ。
シュナちゃんが魔法を使ってダッシュで支柱を埋めていくから、俺は村から誰か来ないかを見張ることになった。そのため、今は一人で村のほうを向いてカカシのごとく突っ立っている。
なんか、すっげぇ悪いことしてる感じなんですが…。
でもまぁ、シュナちゃんが魔法を使って作業を進めるこのやり方が、この仕事を最速で終わせる方法なので黙っておく。
俺はしばらく村のほうを観察していたが、誰もこちらに来る者はいないし、村の外れということもあって村人たちの姿も見られない。これなら大丈夫だろうと、俺はシュナちゃんに声をかける。
「よし、周りにはだれもいないよ。はじめちゃって!!」
「わかった!!」
俺の合図でシュナちゃんが予定通りに作業を開始する。
まぁ警戒するとはいっても、こんなところには誰も来ないっしょ、なんて思っていた時期が僕にもありました。
シュナちゃんが作業を開始したやいなや、ピカッと辺りに紫色の閃光がほとばしる。
そしてーー
“ ドッガァアァァァァァァァァン!! ”
――俺は、後方からまるで雷がその場に落ちてきたかのようなすざましい爆音と地響きに突如襲われる。おそらくシュナちゃんの紫電の魔法だろうが、ド迫力すぎるだろ。
シュ、シュナさんこれは何かあったんじゃないかと不安に思った村人の1人や2人おびき寄せてしまいやすぜ…と俺が内心でこれはやばいなと思っているうちにも、辺りに轟く爆音とビリビリと体を揺らす地響きは続いていく。
うーん、これはなんと言い訳したものか。
いやぁ雷がね、目の前にめっちゃ落ちてきたんですよ!!
今日は晴天である、却下。
と俺がひとりで頭を悩ませている間もピカッピカッと紫の閃光は輝き、その爆音と地響きは止まらない。
こういうのはこそっとやるからいいんじゃないのか。
これじゃあまるで、大声で「今から万引きしまーす!」と宣言しながら万引きしている友人のために店員さんからバレないよう見張っているような気分だ。誰かに見られたらまずいんじゃなかったのか…。
この様子じゃ間違いなくだれか来るなと思って、もう半ば諦めながらもいちおう見張りは続けておく。ビビりがちな俺は、後方から大きな音がバンバン響いてくるのでその度にビクっとしてしまう。
これは心臓に悪いぞと思って、もはや見張りの意味もないだろうからせめてビックリはしないようにシュナちゃんが魔法を放つところを見ておこうと思って後方を振り返る。完全な仕事放棄だ。
すると森の方から、遠くなので姿形まではわからないが人型のモンスターのようなものがこちらに接近してきているのが見えた。
ちなみに魔界では一定以上の知性を持つものを魔物、知性を持たないものをモンスターと区別する。そのため森から一匹でやって来るぐらいだから知性のないモンスターだろうなということで俺はそれをモンスターだと判断したのだ。
シュナちゃんは作業に夢中になっているのか、気づいている様子はない。一応、俺は見張りということになっているのでシュナちゃんの方に歩み寄ると声をかける。まぁ、見張っている方向が逆なのはどうなのだろうかとも思うが気にしないでおく。
「シュナちゃん、森のほうから何かきてるよ!!」
俺が近くで声をかけても、シュナちゃんは意に介したそぶりも見せず、作業を続ける。カッと怪しい光に一瞬俺の視界が包まれたかとおもうと、シュナちゃんの左手には、彼女の腕の長さほどの小さな紫電の槍が握られている。槍の周囲には、バチバチと無数の火花が飛び散っている。
「《ミニマイズマジック・デスピアーライトニング/最弱化魔法・黒き電撃槍》」
シュナちゃんがその槍を無造作ともとれるような動作で、地面に投げつける。またしても、衝撃。鼓膜が破れんばかりの爆音に耳がキーンとする。
「ねえ、何か来てるんだってば!!」
この爆音で耳がやられてしまったシュナちゃんは俺の声が聞こえていないのだろうかと思った俺は、先ほどよりも大きな声で叫ぶ。
「そんなに大きな声出さなくても聞こえてるし、とっくに気づいてるわよ。それにあんなに離れてたんじゃ何もできないじゃない」
どうやら、シュナちゃんは俺が声をかけるまでもなく近づいてくる存在には気づいていたようだ。
あれ、もしかしてこれ完全に見張りいらないんじゃ…というとても不安な予感が頭をよぎった。
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