諦めずに
茜と友梨と三木の3人は、電動車椅子サッカー全国大会の、準決勝が行われる試合会場にいた。
今までが色々ありすぎて、まともに試合を見に行けたことがなかった私は、今回初めて橘くんの試合を見れるのがとても嬉しく楽しみだった。
試合会場の体育館には、全国から来たと思われる沢山の観客が居た。そもそも全国大会に出れる橘くんが凄すぎる!しかも準決勝まで勝ち残ったって聞いた時は驚愕した。電動車椅子サッカーは老若男女を問わずに誰でも出来ると言ってたけど、全ては橘くんの努力の成果だと思った。
「こんなに人凄いんだねー!びっくり!」
そうお姉ちゃんが驚きながらもワクワクしていた。
それに対して三木先生がこう言った。
「普段知らないだけで、障害者の方を支援する人や応援する人は沢山いるんだよ。こうやって見に来る事で募金にもなるからね」
「それってとても良いですね」
「あら、豊田先生?」
そう急に後ろから声をかけられたお姉ちゃん。振り向くと知り合いだったらしい。
「あ!お久しぶりです〜!ホープくんのお母様、とお父様は初めましてですね!」
えっ、橘くんのご両親!?初めて対面した。
優しそうなお父さんと、橘くんにそっくりなお母さんだった。私とも目が合った。
「この子は私の妹で、ホープくんと超仲良しでもある茜ちゃんでーす♡」
といきなり私を紹介するお姉ちゃん。
どぎまぎしながらも私は挨拶をした。
「は、初めまして。茜です。橘くんとは仲良くさせてもらっていて…、今日は全力で応援しに来ました!」
「貴方が茜ちゃんね。いつもホープが貴方の事を沢山話してくれるのよ。仲良くしてくれてありがとうね」
え?いつも私のことを話してる?!って何を話してるんですか!!超気になる──!
そろそろ試合が始まるからと、自由席だった為、橘くんの両親と一緒に並んで座る事にした3人。
…まだ気になって仕方なかったけど、橘くんが表に登場してからは、応援することに集中出来た。
橘くんのお父さんが親切に、電動車椅子サッカーについて説明をしてくれた。プレー時間は前後半20分で計40分。プレー人数は1チーム4名で合計8名で行われる。主にジョイスティック型のコントローラーを使って電動車椅子を操りながら、足元を囲む鉄製フットガードで1.5倍あるサッカーボールを蹴ったり防いだりをする。
サッカーと大きく異なるルールは、3パーソン(ペナルティエリアにディフェンスが3人以上入ってはいけない)と2on1(ボールに対して半径3m以内に各チーム1人しかプレーに関与してはいけない)がある。
ゴールには黄色いポールが両サイドに立っており、その中心にゴールキーパーがいる。
よく見ると、両チーム共重度の障害を持った人が何人かいた。
ふと、前に橘くんが言っていた言葉を思い出した。
──僕よりも、遥かに不自由で日常生活を送るのが大変な人は、大勢いる。
僕はマシな方なんだ。呼吸器も必要ないし、首も腕も自由に動かせる。会話だってできる。それがどんなに幸せか。チームの皆に出会うまで分からなかった。
皆の方が苦しいはずなのに、でも懸命に生きて、こうしてサッカーを楽しんでいる。僕にとってチームの皆は、尊敬する人達ばかりなんだ。
笛が鳴り響くと、試合が始まった。
先行チームのシュートが入るが、すぐに周りにいた選手達のガードに当たって、交互にボールが弾き飛ぶ。
ホープが回転シュートを決めたり、仲間にパスをしてゴールに近づくが、ゴールキーパーにガードされて中々点が入らなかった。
そのまま後半戦になり、残り時間が5分と迫った時だった。ホープのチームの選手がゴールキーパーの隙間を狙ってシュートを打った。そして見事にゴールを決めた。拍手喝采と共に終了の笛が体育館に鳴り響いた。
「わー!凄い凄い!橘さんおめでとうございます〜」
と涙目でお姉ちゃんは言った。
「素晴らしい試合でしたね!ドキドキしました」三木先生も感極まっていた。
「あんなにいい試合が見れて本当に良かったです。おめでとうございます!」と私も心臓が高鳴りながらも橘くんのご両親に言った。
「いやぁ、ほんとに良かった。まずはよく頑張ったと言ってやりたいな」とお父さん。
「えぇそうね…皆さんも本当に応援ありがとう」と涙を流しながらお母さんは私達に言った。
このまま決勝戦が明日に行われる為、私達3人はビジネスホテルに泊まることになった。
そして翌日、同じ会場で決勝戦が行われた。
昨日にも増して、観客はいっぱいだった。また橘くんのご両親と一緒に観戦をした。
今回は決勝なだけあって、対戦相手はとても強く、橘くんのチームは苦戦していた。前半戦で一点を取られたまま、後半戦に…。そしてそのまま一点も取れずに試合終了の笛が鳴って、遂に終わってしまった。
しばらくして、試合が終わった橘くんが皆の前に来てくれた。
「…皆、見に来てくれて、応援してくれて、ありがとうございました。最後は、カッコ悪い所を見せちゃってごめんね」と橘くんが照れ臭そうに私達に言った。
「何言ってんのぉ!ホープくんすごく良かったわよ!ねっ茜ちゃん!」
「う、うん!めちゃめちゃカッコよかったよ…」
「ほんとに感動しました。いい試合を観させてくれてありがとう。今日はゆっくり休んでね」と三木先生。
「あ、これ差し入れ。あとで食べてね」と私は橘くんに色々栄養のある物が入った紙袋を渡した。
「わざわざありがとう。また学校でね」
「うん、またね!」
「落ち着いたら今度は皆でお祝いしましょーね♪」
皆と別れて、ホープは両親と共に過ごした後、この試合を経験して、これからも諦めずに戦い続ける事を誓った。
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