変更

 佐藤茜の戸籍は豊田家に入ることになった。

 そして佐藤から豊田に苗字が変更になり、茜は友梨の妹となった。

 友梨の両親も、茜を快く家族として迎え入れてくれた。茜は亡くなった妹さんの仏壇の前に正座すると、線香をたいて、挨拶をした。

 生きていれば茜ちゃんと一つしか変わらない年になっていた。凛もきっと、喜んでくれているはず。と、友梨は茜に言った。

 このまま実家ここで暮らしてもいいんだよと、友梨のお父さんに言われたが、友梨が自分家からのが学校近いし、しばらくは一緒に暮らすって決めてるから会いたい時はうちに来てよと言っていた。

「これからは私の妹なんだから、呼び方変えないとね!ほら、私の事、お姉ちゃん♡って呼んでみて♪」

 そう呼ばれたかったかの様な雰囲気だった。

 茜は恥ずかしそうに小声で答えた。

「…ぉ、お姉ちゃん…」

 今までずっと豊田先生と呼んでいたから違和感半端ない、けど…。

「うふふふ♡やばい、久しぶりにお姉ちゃんて呼ばれた!興奮がやばーい!どうしよ!嬉しすぎっ」

 満面の笑みで舞い上がってるのみて茜も微笑んだ。

「私は茜って呼ぶね♪また三木ちゃんに報告するのが楽しみだなぁ〜♡」



 ***



 改めて豊田茜として、これからを生きていく。

 中学も残り一年。途中で苗字が変わって担任とクラスメイトは少しだけ反応したが、それよりも生徒が立て続けに亡くなった後で、更に今度は、女子生徒が窃盗罪で捕まったという事件が起きていて、皆そちらに気を取られていた。

 噂によると、常習犯だった新井遥と家族全員が大型スーパーで万引きGメンにばれて逮捕されたという。

 仲の良かった宮田愛は、何も知らなかったとしか発言しなかった。



 三年に上がった頃には、校長が変わり、担任の杉野は退職した。そして茜はクラス替えで橘ホープと同じクラスになっていた。

 今では殆ど保健室に行くことはなくなっていたが、代わりに新しく入った一年生達の間でいじめがないか、相談窓口として三木が立ち上げたサイトを、プリントアウトして掲示板に貼ったり配ったりと、茜も一緒になって手伝っていた。


 そんな意欲的に頑張っている茜を、いつも隣でみていたホープはある日、二人きりになったのを確認して車椅子を止めると、茜にこう話し出した。

「茜ちゃん、本当に変わったね。出会った頃とは大違い。今の君は輝いてる。眩しいくらい」

「そうかな?…まぁ、出会った頃はホント酷かったと思う」

「あの可愛いカバーの本。僕が拾って君に出逢えた」

「あの時はびっくりしたけど嬉しかったなぁ…好きな本が同じだ!って」

「凄く喜んでたよね。懐かしいなぁ」

「ふふ、懐かしいね」


「…ねぇ今度さ、最後の大会があるっていったじゃない?」

「うん、言ってたね」

「それに勝てたらさ…僕と付き合って欲しいんだ」

「え、それって…」

「僕と、真剣に交際してほしい」


 障害者になって、恋愛なんか相手に迷惑だし、するべきじゃないと思っていた。でも、障害者ではなく人として接してくれる君は、今も変わらず優しくて、素敵で、笑顔で居てくれる君を離したくないと思った。それにいつの間にか、他の男子と会話してるだけで胸が締め付けられるくらいの嫉妬までしてしまう程、君を好きになっていた。


「じゃあ、応援しにいくから、頑張ってね」

 その言葉をきいて絶対に勝つと僕は気合が入った。



 ***



「お姉ちゃん!橘くんに告白されちゃった!!」

 茜はホープと別れた後、すぐに保健室へ行って友梨にそう打ち明けていた。

「え!ほんとに?!」

「ついさっき!凄くびっくりして!」

「良かったじゃない!で、なんて言われて答えたのよ?」

 茜はホープに伝えられた事を全部友梨に話した。

「大会に勝ったらねぇ。良いじゃない♪楽しみね♡」

「…うん。凄く、嬉しかった」

「こっちはずっと焦れったく見てたんだからねー。やっと告白してくれて良かったわよ」

「え、それって橘くんが私の事好きなの気づいてたってこと?」

「もうとっくのとうによ!じゃなきゃ、あんなに毎日一緒にくっついてないでしょう?」

「…そうだったんだ」ずっと心臓の音がやばかった。

 前から私の事好きだったんだ…友達だからじゃなかったんだ。両思い…。

 そう思ったらニヤニヤが止まらなかった。

 いつからか、私も橘くんの事を好きになっていて、ずっとあの綺麗な瞳に見つめられると耐えられなくなって逸らしてしまう。あの緊張感。茜ちゃんって初めて呼ばれた時も、ふと手が触れた時も…。

 これは恋なんだと、恋愛小説を読んで知った。


 全力で応援しに行くに決まってる。

 差し入れも用意しておこう。

 今から楽しみだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る