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親の責任

 私達は眞辺理沙の告別式に来ていた。

 立派なビル(セレモニーホール)にスーツを着た大人達が大勢いた。豊田先生によると、皆眞辺理沙の両親の会社の関係者らしい。

「すごいね。皆、娘さんが亡くなった理由知ってるのかな?」と橘くんが呟いた。

 それを聞いた三木先生がこう答えた。

「急死だって伝えてるみたいだけど、既にテレビで報道されているし生徒達も真実を知ってるから広まってると思うわ」

「そうだよね。でもなんで学校には本当の事を言ったんだろう」

「それは学校側のせいにしたいからじゃないかな。実際発見された日に、父親がすごい剣幕で担任や校長に連絡してきたらしいし」

「まじか。まぁそもそも親が理由を知らないんじゃそうなるか…」


 受付を済ませた豊田先生と三木先生は、私と橘くんを引き連れて参列者の列に並んだ。

 前方を見ると、校長と担任が居て、眞辺理沙の両親に向かって深々とお辞儀をしていた。それに対して父親の目は睨んでいるように見えた。

 そして20分くらい経ってやっと順番が回ってきた。真正面には笑顔の眞辺理沙の遺影と棺桶が現れた。

 それを見た私は、本当にこの世から居なくなったんだと改めて実感した。

 それでも遺影から見つめてくる眞辺理沙を凝視出来ずに逸らしてしまった。

 心臓が高鳴る。


 ──なぁ、あたしが死んで清々してるだろ?


 死んでもまだ私の頭の中に入ってくる。

 もうお前は居ない!私の頭の中から消えろ!


 私は先生達の焼香を行う動作を、震える手で頑張って、見様見真似でやり遂げた。


「茜ちゃん、大丈夫?ごめんね、頑張ったね」

 三木先生が戻ってきた私にそういうと、私の手を優しく握ってくれた。嬉しかった。それだけで気持ちが落ち着いた。


 その後、三木先生と豊田先生は何度か姿を消していたが、気づくと二人で何か話し合っていた。

 椅子に座って待っている私の傍で、橘くんもずっと一緒に居てくれて、私に気づいた生徒が何人か居たけど、橘くんが居てくれていたおかげで何か言われたりとかもなく、ホッとした。


 しばらくして二人が戻ってくると、告別式が完全に終わる前に帰ることになった。

 豊田先生の車に皆乗ると、途中ショッピングモールで買い出しをしてから、豊田先生の家に集まった。


 そして夕食を食べている時に、橘くんがこう切り出した。

「でさ、お二人共、真剣に調査してたみたいだけど、何かわかったの?」

 三木先生と豊田先生が見つめ合うと、三木先生の方が口を開いた。

「うん。すぐに分かったよ。それと、やっぱり亡くなったのは学校側の原因でも無かった」

「えっ!じゃあ何だったの?」

 それには豊田先生が答えた。

「親よ。全ては家庭環境だったの」

 親……。

「まじか…、最悪じゃん。でもだからって、自分が苦しんでたからって虐めをしていい訳もないけどな!」

「そうね。彼女は頭が良かったはずだけど、悪い方にばかり使ってしまったのは、親への精一杯の反発だったのかも」


 眞辺理沙が何かやらかしたとしても、親が全てを揉み消してくれるから、今まで平気で悪い事をやってたんじゃなかったの?


 彼女の放っていた言葉が頭に蘇る。

 ──大人が嫌いだ。

 あれは親の事も含めて言ってたってこと?

 だとしたら、私とほとんど同じ気持ちだった。。


 未だに父親からは何も音沙汰がない。

 前から分かっていた。あの家に私は要らないって。

 もう今では腹が立つのを通り越して、呆れている。

 でもこのまま面倒事から逃げてズルズル進むのは良くないのも分かってるし、豊田先生にお世話になり続けているのも申し訳ないし…。

 私からちゃんと父に思ってる事告げないとな…。


 そして父からは離れて、十六歳になったら一人でどこか、住み込みで働いて、三木先生みたいになれるように勉強もしながら…。

 一人で考えこんでいると、三木先生が声をかけてきた。

「茜ちゃん。親の事で考えちゃったかな」

「茜ちゃん、大丈夫よ。お父さんの事は近いうちに、私が直接家に行って伝えるつもりで考えてるから、心配しなくて大丈夫よ」

「え、な、何を伝えるんですか?」

「私が茜ちゃんを引き取りますって言いに行くの」

「わぉ、凄い!豊田先生かっこいい〜」

「で、でも、ずっと居座るなんて、申し訳ないです…」

「今更何言ってるのよ。もう茜ちゃんを放っておくつもりもないし、家族同然としてみてるんだから良いの!余計な事を考える必要ないからね」

「良かったね、佐藤さん」

 そんな…嬉しすぎて涙が溢れてきた。

「すみません…ありがとうございますっ…」

 改めて私は心から皆に出会えて良かったと思った。

「…でも、私十六になったら働きます。豊田先生に甘えてばかりは嫌なので、自分でやれる事は頑張ってやります」

「偉いね。茜ちゃんは、焦らずに少しずつやれる事をやっていけばいいよ」

「はい!」

「ほら、ご飯冷めちゃうよー、食べて食べて」

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