目指す場所
二人共まりえの家には初めて入ったが、物で溢れていたり、散らかっている様子はなく、むしろ埃さえなかった。
今でも最悪な父親とここで三人で暮らしているのは知っていたが、今は両親とも留守のようだった。
二人はまりえの部屋がありそうな二階へ向かった。
階段を上がった先には、左右と正面にドアがあった。
先程ベランダのあった部屋が右側だったから、正面か左のどちらかだった。まず、愛が正面のドアに向かってノックをした。が、何の反応もなかった。恐る恐る、愛はドアを開けた。すると部屋からほんのり甘い匂いがした。みるとドレッサーと沢山の洋服が掛けてあるだけだった。
それを見た遥は直ぐに左のドアに向かって、まりえ!と言いながらドアを激しく叩いた。そして開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「まりえ!そこに居るんでしょ!なんで連絡無視するの?…何があったの?理沙となにかあったんでしょ?!ねえ!」
「まりえ、家の中勝手に入っちゃってごめんね!まりえが心配だったからっ、大丈夫なの?お願い、返事して!」
二人とも耳をすませるが、物音一つ聞こえなかった。
遥は鍵の部分をみて、良くあるマイナスにみえるタイプの鍵だと気づくと制服のポケットから財布を取り出し、小銭入れから十円玉を掴むと、鍵の溝にぴったりと嵌った。そのままゆっくり左に回すと簡単に鍵が開いた。
そして遥がドアノブを引くと、何かの重みで押されて中途半端に開き、そこから頭部が見えた瞬間、二人は悲鳴をあげ尻もちを着いた。
まりえがドアノブに紐をくくりつけて、首を吊って死んでいた。
二人は全身が震えてそこからしばらく動く事が出来なかった。
愛は泣きながら嘔吐していた。
「ゲホッゲホッ、やだよ…まりえまで…うぇっ」
「な、んで……嘘だ、こんな事って…」
まりえは制服姿のままだった。
これは後追い自殺か。
もしかしたらまりえは、理沙の死体を発見してしまって、同じ状態で同じ事を行ったのかもしれない。
まりえなら有り得る行動だと、そう遥は思った。
程なくして玄関の開く音がした。
咄嗟に二人はパニックになったが、この状況は第一発見者であり、不法侵入でもあった為、疑われない様に素直にまりえの親には全て説明をしようと二人は小声で話し合った。
「ただいまー。まりえー?二階にいるならちゃんと鍵閉めておきなさいって言ったわよねー?お友達来てるのー?」
まりえのお母さんだ。ビニール袋の擦れる音が聞こえたので、買い物から帰ってきたのだろう。
意を決して愛が甲高い悲鳴をあげた。
その声を聞いて慌てて二階に上がってきたまりえのお母さんは、まりえの変わり果てた姿と尻もちを着いて怯えている二人の女の子が居るのをみて目を見開いた。
「…嘘でしょ!まりえ!そんな、駄目よ!まりえ!」
急いで紐の輪っか部分からまりえを引き離すと、冷たくなった体を抱きしめて泣いた。
「あぁっ…なんでっ、どうしてなの……」
まりえのお母さんが二人を見てこうなった原因を聞いてきたので、私たちは今までの経緯を全て話した。するとまりえのお母さんは、まりえが今日学校を休んでいた事も知らず、部屋に居たのなら助けられたかもしれないのにと嘆いていた。
そして警察を呼び、事情聴取もされた。
警察の人も、昨日も同じ学校の生徒が自殺をしたという事をまりえのお母さんに話していて、恐らく後追い自殺ではないかとも説明していた。
夜の7時頃になってようやく解放された二人。遥は親から心配のメールがきていて帰ったら事情を話すと伝えた。愛は妹が一人で留守番しているから早く帰ってあげないと、また明日ね、といって別れた。
***
今日は昨日よりも増して教室が騒がしかった。
茜は何事かと、慌てて教室に入るとみんなを見た。
あちこちで原が、原さんが、原さんも死んだって!と聞こえた。
えっ?!…原まりえも死んだ──?
昨日学校に来なかったから、あまりのショックで部屋に引きこもってるのかと思っていたけれど……。
眞辺理沙を追って自殺をしたのだろうか。
「完全に後追い自殺だよね」
やっぱりみんなそう思ってるか。
一番仲が良かったし、眞辺理沙の居ない世界は耐えられなかったのかな…。
新井遥と宮田愛の周りには、何人か集まっていて色々質問責めにあっていた。
私は席に座りながら、聞き耳を立てた。
「第一発見者ってほんと?!」
…え?そうなの?
「原さんの死体みたの?!」
「どんな感じだった??」
いやいや、不謹慎にも程があるって……。
いくら死体に興味あったとしても、発見したっていう人に良く聞けるな…しかも友達だった相手に。
「どんな感じって、とにかくびっくりしてしばらく動けなかったよ。警察にも長々事情聴取されるし、もう本当に疲れたよ……」
新井遥の方はそこまで落ち込んでいる様子はなく、どちらかと言うとうんざりしていた。
宮田愛は俯いて一言、しばらくは何も食べれない…気分悪い……。と本当に嫌なものを見た感じで顔も青白くみえた。
「おい!テレビ局きてるぞ!」
男子が窓の外をみて言った。
校門前に報道陣が数人いて、カメラの前で中継をしているようにみえた。
昨日と今日、立て続けに二人も生徒が亡くなった。
場所が学校ではなかったとしても、地方のテレビ局の報道が流れている今、学校側は頭を抱えているはずだと三木先生は言った。
良くない噂が瞬く間に町中に広まれば、徐々に入学者も減っていくだろう。
逆にそれで、いじめや自殺に対してもっと教師や親が向き合って、取り組んでくれたら良いんだけど。現状それがなかなか難しい。
彼女たちは誰にも相談できずに一人で抱えこんでしまったのが凄く悔やまれる。
悩みや愚痴を吐き出せる場所はちゃんとあるって知ってる子は多いけど、未だに実際打ち明けてくれる子は少ない。彼女たちの死を無駄にしない為にも、これからはもっと気軽に相談できるような空間を作っていかないといけない。
そんな三木先生の言葉を聞いていた私はこう思った。
三木先生のような人が沢山この世に増えてくれたら、少しでも、明日も生きようって思ってくれる人が増えるんじゃないかなって。
現に私もその一人だったから。
私も何か、手伝えないかな…。
そしてこう口に出していた。
「わ、わたし、三木先生の助手します!なんでも、三木先生の役に立てるように、お手伝いがしたいです!」
三木先生は驚いていたけど、微笑んでこう言った。
「ありがとう。凄く助かるよ。でも茜ちゃんは自分の事を最優先に考えてね。お手伝いは気が向いたらでいいからね」
「はい!分かりました」
そばに居て黙って聞いていたホープが口を開いた。
「ほんとに佐藤さんて凄いね。きっと三木先生みたいになれる気がするなぁ。あ、 僕も気が向いたら手伝うね」
わたしが三木先生みたいに?なれるかなぁ……。
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