呆気ない死
まりえと朝食を済ませて、家を出る準備をしていたら
内容は一旦午前中に帰ってくるが、また今日も遅くなるとの事だった。昨日のように帰ってくる事さえなく、会社に泊まることも多々あるからあまり気にしなかった。
でも、今日だけは少しでも、ママと一緒に居たい気持ちがあったから、まりえには先に学校へ行ってもらうことにした。
そして学校にも病院へ行く為、午後から授業を受けると連絡をしておいた。
肝心なママにも、何故家にいるのかと問われるだろうから、体調が優れないとでも言って、心配をしてくれる、なんて事は断じてないと分かってはいるけど、寧ろ病院に連れていかれるか、薬を飲んでさっさと学校へ行けと言われるだけだろう。
それでも会いたかった。
リビングでふらふらと落ち着かない状態でママを待っていると、しばらくして玄関が開く音がして、心臓が飛び跳ねた。
帰ってきた……。言われる言葉を予想しててもやっぱり面と向かって話すのは緊張する。
普通親に緊張なんてしない、友達の様な感じって言う遥みたいな奴もいるが、何に対しても正しく、常に厳しく、逆らえない親との距離感は遠くて、とてもじゃないが無理だった。頭の悪い娘だと失望させたくもなかったから頑張ってきた。中学に入ってから遅刻も欠席もしてこなかった。
…今日初めてしてしまったけど、もう良い。
スーツ姿のママが入ってきて、案の定こう言った。
「ちょっと理沙、何でいるの?学校は?」
「…」
ママに会いたくて、とは言えなかった。
体調が悪いと伝えると、思った通りに薬を飲んで学校に行くか、病院に連れていくと言われた。ママには休ませるという選択肢はない。
もし私が重度の病で倒れて入院でもしたら、心配してくれてた?いや、ないか。パパが単身赴任から帰ってきてくれるかもしれないけど、失望させるだけだ。
私が幼い時、閉まった踏切に誤って入ってしまった事があった。その一度だけ、ママは必死になって私を助けてくれた。それからは、危ない目にあっても私を叱るだけになった。
私は薬を飲んだふりをして、ソファに座った。
「効いてきたらちゃんと行くのよ。午後には学校にも電話するから。ママをがっかりさせないでね」
そう言った後、部屋から必要な書類を抱えて持ってくると、そのまま私を見ることなく家を出ていった。
学校に行く気は更々なかった。
私は甘えたかっただけ。
愛されたかったから、頑張ってきた。
期待にも答えてきた。でも一向に愛してくれない。向き合ってもくれない。
この先も、大人になったとしてもそれは続くだろう。
私の存在は何でも従うロボットで良かったんじゃないの──?
私が死んだって、二人とも悲しまないだろう。
もし悲しんでくれたとしても、もう遅いけど。
──まりえ、ごめんね。
***
翌日学校へ登校すると、担任の杉野から生徒達に驚くべき事を知らされる。
「皆さん、騒がずに聞いて下さい──。
昨日、眞辺理沙さんが、ご自宅でお亡くなりになられました」
一斉に教室内がザワつく。
え?眞辺が?死んだ?何で?まじ?
「おい!お前ら、本当なのかよ?何か知ってたんじゃねーのかよ?」と一人の男子が新井と宮田に聞いたが、二人は皆と同じように驚いている顔をしていて、知らないと首を横に振った。
眞辺理沙が……、死んだ?何故?
そして、それを知っていたのか?
一番仲が良かった原まりえは、欠席だった。
「お静かに!まだ、話は終わっていませんよ……。大変優秀だった眞辺さんが、突然命を絶った事に、先生も驚きとショックを隠せませんが…、後日告別式が行われるので、眞辺さんと仲の良かった方達は私と一緒にそちらへ向かいます」
突然命を絶った──。
それって自殺?自殺かよ!嘘でしょ!眞辺さんが自殺?
周りが騒いでいるのをみて、皆裏の顔を知らない表面上の眞辺理沙が好きだったんだなと改めて思った。
そして多分、私だけだった。
私だけ、密かに喜んでいた。嬉し泣きをしていた。
──遂に解放されたんだ…。
どうして自殺をしたのかは不明だけど、これからは、普通に学校生活が送れる…。
お昼に保健室へ向かうと、既に学校中に噂が広まっていたのか、三人とも眞辺理沙が亡くなった事を知っていた。
「茜ちゃん、お疲れ様」
「本当に驚いたよね…まさかこんな事になるなんて」
「遂に終わったんだよ。不謹慎かもしれないけど、僕は良かったと思う」
「橘くん…、私もホッとした……でも」
ずっとクラスの皆は眞辺理沙の話題が尽きなくて、その度私が関わっているんじゃないかと疑われた。
私がいじめられているのも皆知っていて、その腹いせで自殺に追い込んだのでは無いのかとも言われた。私は呆れて何も言えなかった。
自殺をした理由は当の本人にしか分からないのに。
「なんだそれ!ふざけんな、誰が言ったの?僕に教えてそいつら殴りに行くから」
そう言ってくれた橘くんの気持ちが嬉しかった。
「ホープくん、気持ちはよく分かるけど殴るのは駄目よ」
「皆、何故眞辺さんが亡くなったのか知りたいのね。私達もだけど。それで、告別式があるんだよね」
「はい…私も、行かないと行けないですよね…」
「行きたくなかったら大丈夫よ。友梨ちゃんと私が行って何か掴めればと思ってね」
「えっ、それに行って何か分かるの?」
「大体は。親族の会話と周りの雰囲気である程度はね」
正直嫌いな死んだ相手なんかに、皆興味を持つのが気に食わなかった。もうこの世に居ないのに、話題に出続ける。目立つ存在の眞辺理沙が心底羨ましかったし、悔しかった。
「…じゃあ、二人が居るなら、私も行きます」
「僕も行く!佐藤さんの護衛で」
***
携帯に遥と愛からの着信とメールが鳴り止まなかった。
理沙が自殺したって!
まりえ大丈夫?
理沙と何かあったの?
何で連絡返してくれないの?
まりえ!どうしたの?返事して!
:
これから遥と家行くから!
学校が終わると、遥と愛の二人は直ぐに原まりえの家に向かった。
そしてインターホンを何度か鳴らしたが、誰も出てくる気配はなかった。すると遥が門を開けて、家の裏に周り、開いてる窓がないか調べた。愛も後をついていく。
そこで遥が鍵の開いてる窓を発見した。
二階のベランダがある部屋だった。
「愛は玄関とこに居て。上から入って開けるから」
そう言うと傍にある
遥はベランダに入ってゆっくり窓を開けると、部屋の中は暗く、ベットがある為、ここは寝室らしかった。
見た限り、まりえの姿はなかった。
脱いだ靴を持って部屋に入ると、本当に誰もいないのか、家の中はとても静かだった。
慌てて遥は階段を降りて、玄関の鍵を開けた。
そして愛も入ると、何かに気がついた。
まりえの靴が置いてあったのだ。
まりえは確かに家の中に居る。
愛は声を出した。
「まりえー!居るのー?」
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