証拠写真
橘ホープは自室にて、先程デジカメで何枚か撮った写真を見返していた。ホープはかなり疲れていたが、それよりも興奮が上回っていた。
本物の探偵はこんな感じなのかと、緊張感がサッカーよりも凄まじかった。達成感があった。
はやく皆にも知らせたい──。
豊田先生に電話をしようかと携帯を手に取ったが、少し考えて辞めておいた。サッカーに行っていなかった事で叱られそうだし、実際に驚く顔が見たいと思ったからだ。
ホープは明日が楽しみだと、胸が高鳴るのを抑えて眠りについた。
***
今日も佐藤茜は豊田先生と一緒に登校をした。
自分の下駄箱を確認すると、悪戯はされていなかった。茜は少しほっとした。
教室に入ると、また原まりえが近寄って来るかと予想したけれど、彼女は来なかった。自分の席でスマホに夢中みたいだった。
…そこで何か教室内に違和感があった。
よくよく周りを見てみると、新井遥と宮田愛の二人は変わらず一緒に居て、私と原まりえを交互に見ながら何か話をしていた。
この違和感の原因は直ぐに分かった。
…眞辺理沙が居ない──!
今まで私と同じで、欠席など一度もした事がなかった人が。所謂教師が好む、表では優秀で礼儀正しく真面目にやっていた人が?何故?ただの体調不良か?
何にしても私は、驚きと困惑と歓喜と安堵が入り交じった気持ちでいっぱいになった。
もしかして昨日、豊田先生の車をパンクさせたから、そのバチが当たったんだろうか。だとしたらざまあみろだ。
朝礼の時間になり、担任の杉野が入ってきて出席を取り始めた。その内眞辺の順番がくると、杉野がこう言った。
「眞辺─、は午後から来るそうです」
…え、午後から来るの?!
それを聞いた私は一気に気持ちが沈んでしまった。
…なんだ、やっぱり休む事なんてしない奴だった。
まぁ最悪の場合、保健室に逃げれば良いかと思った。
でもお昼が終わっても、眞辺理沙が学校に来る気配はなかった。五時間目が始まろうとした矢先に、突然慌てて鞄を持って原まりえが教室を飛び出して行った。新井遥と宮田愛は困惑しながらも、一緒に出ていくことは無く授業が始まった。
それきり原まりえが学校に戻ってくる事はなかった。
放課後、保健室に行くと、その出来事を皆に伝えた。
「結局何だったのかしらね?杉野先生は何か言ってなかった?」と豊田先生。
「全く何も…」
「そう…」
「何はともあれ、今日も茜ちゃんが無事で安心したよ」と三木先生。
「そーだね。理由は不明だけど、いじめのリーダーが休んだとなればこっちは勝ったも同然」とホープ。
「まだ油断は禁物よ」
「それが実はね、皆に知らせたい事があるんだ」
そういってホープは鞄からデジカメを取り出した。
「昨日、あの後眞辺理沙をつけたんだ。そして証拠を撮ってきた」と誇った表情で皆を見つめた。
「証拠?」と三木先生。
「ちょっと待って、ホープ君、昨日サッカー行ってなかったの?全く…」
「それは本当にごめんなさい。でもこれを警察に届け出たら、確実にあいつは終わりだよ」
…凄い、橘君。
いつの間にホントに探偵してきたんだ!
デジカメの画面を皆で見た。どれも全部、眞辺理沙が鮮明に写っていた。
「これ、パンクさせてる所まで上手く撮れてるね」
「嘘でしょ…びっくり」
「…これ凄いよ橘君!」
「煙草吸ってる姿のは、マジで僕も驚いたよ」
「探偵を頼んだのは私だけど、まさかここまでしかも気付かれずにやり遂げるなんて、素晴らしいわ」
「よっしゃー!褒められた♪」
「見た感じ
「ええ。悪い雰囲気がプンプン漂ってたもの」
…これで今までの地獄だった日々が、遂に終わるのかな。毎日登校に気を張って、いじめに怯えて、耐えながら過ごすことも、なくなるのかな──?
そう思ったら、自然と涙が溢れていた。
「茜ちゃん?どうしたの?」
「えっ佐藤さん?何処か痛いの?大丈夫?」
「大丈夫。茜ちゃん、安心したんだよね。スッキリするまで泣いていいからね」
そういって三木先生が抱き締めてくれた。それも嬉しくて、涙が止まらなかった。
「あはは、三木ちゃんの服びしょびしょ」
「ごめんなさい。。三木先生」
「大丈夫!後でどうせ洗濯するんだから」
黙っていた橘君が口を開いた。
「それでさ、話戻すけど、この証拠写真はいつ警察に届ける?」
それを聞いた三木先生が申し訳なさそうに、私をみながらこう答えた。
「それなんだけど…茜ちゃんの気持ち蒸し返すようで悪いんだけど、それはあまり効果はないかもしれない」
「えっ!何で?!」
橘君と同じ気持ちで私も驚いた。
「友梨ちゃん確か、その子の家庭はかなり裕福らしいのよね」
「ええ。調べたらそうだったわ…」
「それだと多分かなりの確率で、お金で解決されてしまうと思う」
「マジか!うーわ、そうか…だからアイツ余裕かましてたのか」
「そんな…」
でもよく考えてみたら、納得がいくと思ってしまった。眞辺理沙は何も恐れず、いつも堂々としていた。それは悪さをしても全て揉み消してくれる親が居たからだったのだ。
不意に絶望感が押し寄せてきた。やっぱり無理なのか……。狡すぎる、不公平すぎる!なんでお金持ちなんだ!どうして…大人が嫌いだというのも、親以外だったって事?腹が立つ。アイツは何もかも、初めから分かっていたんだ。
私の方が全て不利だった事に今更気付かされた。
……でも、それでも──。
「じゃあ、あの作戦も全部無意味なのか?」
「そんな事はないわ、少なくともいじめは終わるはず、三木ちゃんも居るから」
「もう、大丈夫です。全部解りましたから…」
「茜ちゃん…?」
「認めたくはないけど、最初から眞辺理沙が
「…本当に、茜ちゃんは成長したね。そう言えるなんて凄い事なんだよ。もっと頑張った自分を褒めてあげて」
「三木先生…はい!」
「茜ちゃん〜!私感動しちゃった!ほんとに嬉しいわ!凄いよー」豊田先生が目を潤ませて喜んでくれた。
「そうだね。もうアイツなんかに負けないくらい佐藤さんは、強くなってるから大丈夫か。僕もついてるしね☆」
「ありがとう。橘君」
……私はもう絶対に、自分に負けない──。
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