3
思想
いじめグループのリーダー格、眞辺理沙はスマホを操作しながら傍にいる原まりえと校内の中庭にいた。
「はいきたー、大物釣れたわ」
「マジ? 流石理沙♪」
「ほんと男って面白いくらい簡単に釣れるよなぁ」
眞辺理沙は裕福な家庭に育ち、お金に困っている訳でもなかったが、遊びの一つとして特殊な性癖を持つ男性達の為のコミュニティサイトで、下着や尿等の売買のやり取りをしていた。
「つーかアイツまだ来ないの。やっぱ少しやり過ぎたか…」
「だ、大丈夫だよ!多分…これまでだって懲りずに平気で登校してきたんだから」
「まぁ、このまま不登校になられたとしても新たに獲物探せばいいんだけどさ」
そこに後から新井遥と宮田愛が、理沙のところに飲み物を抱えてやって来た。
「サンキュー」
「どう上手くいった?」
「勿論!理沙だもん」「早速今日にした?」
「遥と愛が直ぐに金必要だって言うからそうしたよ」
「やった!ありがとう理沙♡」
***
「来た、多分あの男だ。銀縁眼鏡のスーツ姿の奴」
駅の改札を出て目の前にある、みどりの窓口前で待ち合わせる指定をした。
人通りも多く、近くには交番もある為、万が一危険な目にあったとしても逃げられるようにと理沙の考えだった。
「じゃあ後は、二人で行ってきな」
「頑張ってね〜」
「うん、行ってくる」
「理沙ありがとう。また明日ね〜」
そういって遥と愛は男性が居る方へと歩いていった。
理沙とまりえは二人を見届けることなく行きつけのファミレスに向かった。
そこでドリンクバーとフライドポテトに小ぶりなパフェを一つ注文した。理沙は直ぐにドリンクを用意しに席を立つと、慌ててまりえも後をついてきた。
理沙は氷を入れてジンジャーエールのボタンを押しながらぼそっと呟いた。
「保健室って面白いもんあんのかな?」
「え?保健室?なんで?」
「
「あ〜、でもあそこに行くのはあの車椅子くんが居るからじゃないの?」
「そうだとしても別に保健室に入り浸る必要はなくないか?イチャつきたいなら二人きりになれるとこ探すだろフツー」
理沙は席に戻るとジンジャーエールを一口飲んだ。
向かいにまりえが座ってメロンソーダにストローを揷して飲む。
「じゃあ目当ては車椅子くんだけじゃないって事だ。保健の先生に逢いに行くんじゃないのかな?」
「……あぁ、そうか」
理沙は一人で考えていた。
いじめを始める前から最悪な状況も既に考えてはいた。万が一、いじめ問題に協力的な大人が居たらどう対処するかを。
佐藤茜が確実にいじめにあっている事と、いじめた人物はもう既に知られていると確信した。だが、保健の先生が一人で教論や校長に伝えた所で、学校がいじめぐらいじゃ動くはずもない。生徒が亡くなったり事件沙汰になればやっと動くレベルだろうと。
程なくしてフライドポテトとパフェが運ばれてきた。まりえは嬉しそうにパフェを頬張る。甘い物が苦手な理紗には良さが分からなかったが、まりえの幸福そうな表情を見ているだけで十分、奢る価値があった。
***
翌日、佐藤茜が教室に現れた。
上半身はブレザーを着ている為、傷の状態は分からなかったが、スカートから下を見ると左足に包帯を巻いていた。
まだ完璧には治っていないのに登校してきたのだ。
あいつらしいといえばあいつらしいが。
「嘘!来た!茜が来た!!」
興奮気味に声を張り上げて茜に近づいていくまりえ。
「何があったの?もう大丈夫なの?!」
「う、うん…」
理沙は大きく欠伸をした。
退屈な日常だったが、遊び相手が戻ってくれば状況も少しは変わってくる。
既に心の底では、いじめたくて堪らなく、うずうずしていたが必死にそれを抑えた。まだ傷が癒えていない内の、暴行は控えたい。
何か、精神的に追い詰める方法を考える。
しばらく茜を観察するが、いつも通りの陰気な雰囲気で何も変わった感じはない。
あれだけ怪我を負わせたはずなのに、平然として見える態度に理沙は憎悪の念を抱いた。
「どうする?」
遥と愛がやって来て、理沙の発言を待って耳を傾ける。
「アレやりたい衝動に駆られてるけど、今は辞める」
「今は、何もやらない事に決めたー」
それを聞いた二人は案の定、驚いた顔をした。
「は?マジ?何も?なんで?」
「そんなこと言うの初めてじゃん!どうしたの?」
「別に、気分が変わったんだよ」
まりえも二人の反応に気づいて戻ってきた。
「何何?どうしたの?」
「理沙が何もしないって!」
「…そうなの?まぁ、あの状態だしねぇ」
「そういう事で、この話はおしまいな」
休み時間が終わっても、お昼が終わっても、四人は一度も茜にいじめをすることはなかった。
それは茜自身が一番驚いているはずだろう。
だがこの後、更に茜以外の人物達にも驚愕させる出来事が起こった。
放課後になって、生徒達が部活や帰宅を始める頃、茜は普段通りに保健室へと向かう途中だった。
その時、後ろから声をかけられた。
「あたしも連れてってよ」
振り向くと、理沙だった。
「えっ……!」
突然の事に茜は焦りと困惑の表情を浮かべてしまった。
「これから保健室に行くんでしょ?」
「茜のことが、心配だったし、あたしも保健室、一緒に行くよ」
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