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救い
……あの机は、橘くんのだった。
なんて事しちゃったんだろう、私のせいで…。
とにかく返さないと、困ってるはずだ。
茜は傷ついた身体で多目的室から出ると、教室の方へと戻った。
まだ授業中らしく、学校内は静かだった。
廊下には放置してあった机がそのまま置いてあった。茜は腫れている両手で机を持ち上げると、A組の教室まで運んだ。
茜は戸を開けるのを少しだけ躊躇したが、すぐに身体は動いていた。
「───失礼します」と茜は言って、机と共にA組の教室にお邪魔した。一斉に注目を浴びる。
誰?なに?とクラスの生徒達がざわつく。
「ん?何だ君は?どうしたんだ?」数学の先生が黒板に向かっていた手を止めて、茜に声をかけた。
「授業中にすみません、橘くんの席は何処ですか?」
「え、あぁ、橘の席はそこだが……」と先生は一番後ろの窓際の方を指さした。
茜はそちらに視線を向けると、ホープの姿は無く、ぽっかりと一席分の空間が空いていて、広く床が見える状態だった。
茜は無言で机を持ったまま、全身の痛みに堪えながら奥の窓際まで行くと、机を元の場所に戻した。
そして踵を返すと一言「失礼しました」と告げ、戸を閉めた。この後茜は自分の教室には戻らず、保健室へと向かった。
「佐藤さん?!何その傷!」
保健室に現れた茜の姿を見た豊田先生は驚愕した。奥にいたホープも何事かと近づいてきた。
茜はホープの姿を見た途端、目に涙を浮かべて謝り続けた。
「橘くん、ごめんなさい…私のせいで、ごめんなさい…」
「佐藤さん?何があったの?謝らないで」
「佐藤さんとにかく観るからこっちへ!」
豊田先生はすぐに茜をベットの方へ座らせると、手当を始めた。
「何これ…ちょっと全身痣だらけじゃない!酷すぎるわ」
豊田先生は茜の現状の深刻さを目の当たりにした。
至る所に打撲がみられる。幸い頭部には損傷はなかったので一先ず安心するが、この状況は極めて危険だった。
彼女が死に追いやられてしまうかもしれない。
何とかして彼女を救わなければ。
本来であれば、こういう事態があった場合、校長に報告したあと全校生徒にアンケートを取って、いじめが発覚したとして教育委員会へ伝わり、改善へと向かうはずだが、ここの学校はいじめ問題を揉み消す可能性があった。
信用ならない事を豊田先生は知っていた為、唯一頼りになる人を頭の中で浮かべると、すぐさまスマホを取り出して、スクールカウンセラーの三木に連絡をした。
「もしもし?三木ちゃん?」
「はい、友梨ちゃんどうかしたの?」
「今日こっちの学校に来てくれないかな、一人見てもらいたい子がいるのよ」
「そう、分かった、じゃあ放課後までにそっち行くね」
「うんありがとう、待ってる」
豊田先生は電話を切ると、茜の手当を終わらせて、ベットに寝かせた。
すると、近くにいたホープがこう言った。
「豊田先生、佐藤さんについててもいいかな?」
「ええ、そばにいてあげた方がいいかもね」
***
───私が生きているせいで、良くない事が起こる。やっぱり私は死んだ方がいいのかな──。
茜はゆっくり目を開けると、頬に涙が伝って流れたのが分かった。
私は寝ながら泣いていた……。
気づくとそばにはホープがいて私を見つめていた。驚いたと同時に、申し訳ない衝動に駆られた。
ホープは安堵した顔をして、声をかけてきた。
「目を覚ましてくれて良かった、でもまだ動かない方がいいよ」
「う、うん……あの、私のせいで橘くんにも迷惑かけてしまって、本当にごめんなさい…」
「迷惑?全然大丈夫だよ、それよりも佐藤さんが無事で本当に良かった…僕がちゃんと気づいていれば、こんな事にはなっていなかったかもしれないのに…本当にごめん」
橘くんが私に謝った。悔やんだ顔をしている。
「…なんで?こんな私に心配なんてするの?」
ホープは驚いた顔をして茜にこう言った。
「なんでって、友達が酷い目にあってたら助けるに決まってるだろ?!あと、自分を卑下したら駄目だ!」
ついホープは興奮して大声を出してしまった。
「…ごめん」
私はこの時、橘くんは本気で私に接してくれているんだ、向き合ってくれているんだと思った。
「ありがとう…」
茜は素直に感謝をした。
「あいつらが佐藤さんをこんな目に合わせたの?」
茜はこくりと頷いた。
「人としてやってはいけない事だし、集団だからって甘く見てるんだろうけど、これは歴とした犯罪だよ」
会話を聞いていた豊田先生が近づいてきてこう言った。
「そうね、暴行罪になるわ。犯人がわかってるならすぐに懲らしめてやりたい所だけれど、まだ証拠が必要だわ」
ホープが豊田先生に問いかける。
「証拠はこの痣だけでも十分じゃないの?」
「もう一つあれば確実なんだけど、それは佐藤さんにやってもらわないといけないから」
「え?佐藤さんにまた危険な目にあわせるの?そんなのは反対だからね」
「分かってるわ、ちゃんと安全な方法で証拠を掴むのよ」
すると戸をノックする音が聞こえて、誰かが保健室に入ってきた。
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