はぁ~

「あいつを頼む・・・」

「・・・はい」

病室のベッドで男は静かに息を引き取った。



「ツンちゃん、私、ヒロくんと再婚しようと思う・・・」

「好きにすれば・・・ジュンちゃんの人生なんだし!」

「お継母さんにおめでとうは?」

「お継母さんって・・・」



「ツトム、父さんな、ジュンコちゃんと結婚しようと思う!」

「は?・・・結婚て?サワキ先輩と?」

「そうだ!」

「いや、待ってよ!有り得ないでしょ!」

「ツンちゃん実はね・・・」

突然ジュンコが口を開いたので、ツトムは嫌な予感がした。

そして、脳裏に“妊娠”の文字が浮んだ。

少し間があってジュンコがツトムを笑顔で見つめた。

「てか、実はもう籍入ってるから!ちなみに妊娠はしてないよ!!」

早口で言い放って左手の真新しい結婚指輪を見せ付けてきた。

2人並んで左手を立て、悪戯な笑顔で微笑んでいる。

「マジかよ・・・」



「オヤジちゃんと話せよ!もう結婚したってマジかよ?」

「あぁ本当だ!」

「何冷静に答えてんだよ!それに年の差考えろよ!サワキ先輩ってまだ18とかじゃ?」

「19!ツトム~中々2歳差の継母っていないぞ!よかったな!」

「よかったなじゃねぇよ!突然サワキ先輩と結婚したって・・・サワキ先輩と・・・」

「サワキ先輩じゃなくて、お継母さんだ!」

「お継母さんって・・・マジでサワキ先輩が母親」

「お継母さん!」

「・・・」



「ツンちゃ~ん!そろそろ起きてよ~!」

遠くでジュンコがツトムを呼んでいる。

その声はどんどん大きくなる。

静かになったと思ったら突然ドアが開けられた。

「なんだ起きてんじゃん!返事ぐらいしなさいよね!お継母さんそんな子は嫌いだぞ!」

「ノックしてって言ってんじゃん・・・」

机に向かい振り向きもしないツトムに、エプロン姿のジュンコがそそくさと近寄っていく。

「何見てんの?エロ本?」

「んなわけないでしょ!今日ある授業の教科書準備してるだけ!」

「そんなの置き勉してくればいいのに・・・ツンちゃん真面目ぇ~!」

「先輩は学校に置いてたの?」

「先輩?」

ジュンコが無表情でツトムを見ている。

「・・ジュンちゃん!」

「ヨシっ!」

不気味な笑顔に変わった。

「私の学年はゆるかったからね!でも担任磯部先生だったら大丈夫じゃないの?」

「担任は問題無いんだけど、学年主任が五十嵐!」

「げ!そういうことね!」

「ん~・・・そういえば今日オヤジは?」

「早出だからってとっくに出ていったよ~ん、ツンちゃんも早く降りといでよ!」

「すぐ行く・・・はぁ~(慣れねぇ!!)」



全力で走っているツトム。

廊下のベンチに座るジュンコが遠くに見えた。

ジュンコの元まで急いだ。

「ジュンちゃん・・・はぁ・・はぁ、オヤジは?」

息を切らしながら、なんとか言葉になった。

ただ俯き、ただ無音で涙を流しているジュンコ。

ツトムはゆっくり病室へ向かい、ドアを引いた。

そこには、父親の寝顔が薄暗く照らされていた。



「ツンちゃん、私、ヒロくんと再婚しようと思う・・・」

「好きにすれば・・・ジュンちゃんの人生なんだし!」

「お継母さんにおめでとうは?」

「お継母さんって・・・」

「ヒロくんと再婚するの反対?」

「反対なんかしないよ!マスダ先輩は良い人だし、カッコイイし、でも・・・」

「お父さんのこと?」

「何ていうか・・・ジュンちゃんとオヤジの結婚って何だったんだろうって・・・」

「・・・うん・・・」

「それにさぁ、ジュンちゃん再婚したらこの家出て行くんでしょ?」

「え?何で?」

「何でって俺と血繋がってないんだし、ジュンちゃんにはジュンちゃんの人生が・・・」

ポカンとした表情でツトムを見つめるジュンコ。

「ツンちゃんそんなこと気にしてたの?」

どこかほっとした表情で微笑むジュンコ。

「え?」

「3人で暮らすのよ!」

「え?」

「ツンちゃんと私とヒロくんと」

「え~!!マジで?」

「マジ~!」

「じゃあ名字とかどうなるの?俺マスダになるの?」

「なんないよ!今のまま!」

「え?どういうこと?」

「夫婦別姓ってやつ?なんかかっこよくない?」

「えっ?」




俺の名前はツトム。

幼い時からオヤジと2人で暮らしてきた。

高校2年のある日、高校の先輩だったジュンちゃんとオヤジが結婚してた。

俺には突然2歳年上で19歳の継母ができた。

高校3年になってすぐの頃に、オヤジが交通事故でポックリ逝ってしまった。

ハタチになった継母との生活が始まった。

高校生活も残すところ半年となったある日、ハタチの継母が再婚すると言いだした。

そして、数日後にあっさり再婚した。

相手はこれまた高校の先輩だったマスダ先輩。

俺はてっきりジュンちゃんは家を出てマスダ先輩と一緒に暮らすと思った。

いや思うでしょ?

継母だし!血の繋がりないし!まだハタチだし!

そしたらマスダ先輩も、ノリノリで我が家に引っ越してきた。

・・・こうして俺にはハタチの継母とその再婚相手のハタチの継父ができた。

俺の名前はツトム。18歳。

俺の両親は共にハタチ。



「ツトム!そろそろ起きろよ!」

言葉の途中で突然ドアが開けられた。

「おぉ起きてたか!朝飯だぞ!」

「ノック・・・」

「また忘れたか?悪い悪い!」

机に向かい振り向きもしないツトムに、エプロン姿のマスダがそそくさと近寄っていく。

「何見てんだ?エロ本か?」

「・・・はぁ~(なんだこれ!!)」



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