3-4 奴隷事情?元家令の男?

 現在俺は奴隷商に向かっている。国側の間者を受け入れない為の事前策として、自分で必要な人材を確保することにしたのだ。


 正直あまり良い気分ではない。金で人の一生を買うとか、日本人の感覚からすれば考えられないことだ。エリスは奴隷商に向かうと言ったあたりから落ち着きがなくなっている。どうやら売られるんじゃないかと内心ビクビクしてるようだ。偶然街で会わなかったら、そのまま売られていたのだから仕方ないのかもしれない。ある意味、運の良い娘なのかも。


 奴隷商は繁華街の裏路地にあるらしく、現在表通りを歩いているのだが、煌びやかでウキウキする。綺麗な露出度の高いお姉さんが一杯いて、建物の窓から笑顔で手を振っているのだ。営業スマイルと分かっていても、美少女の微笑みはいいものだ。


 雰囲気は日本の古い時代の遊郭って感じかな……でも女性の方から声を掛けるのは禁止なようで、声掛けは呼び込み専属の男が各店に一人いるみたいだ。


 俺がキョロキョロ女性を物色しているのに気付いている菜奈と雅の視線が痛いが、こういう場に初めて足を踏み入れた俺からしたら興味が尽きない。


 高級そうな店に並んでいる女性は、やはり綺麗どころを揃えているようだ。


「エリス、お前ならあの高級店に並んでもダントツ一位だな」

「ご、ご主人様お許しください! 心を入れ替えて一生懸命働きますので、娼館だけはお許しください!」


 冗談のつもりだったのだが、冗談になってなかったようでマジ泣きされてしまった。


「兄様……今のは酷すぎます」

「ん、龍馬は時々シャレになんない」


「エリス、ごめん冗談のつもりだったんだ……人並みに働いている限り売ったりしないから、そう心配するな」




 気まずくなったので、さっさと奴隷商に行くことにした。


「いらっしゃいませ。どのような御用件ですかな?」


 恰幅の良い50代ぐらいの男が店番をしていて話しかけてきた。俺をチラリと見た後、後ろにいる菜奈と雅とエリスを舐めまわすように見ている。


『……マスターのことを買い手ではなく、同業の若い売り手と思ったようですね』

『つまり、女の品定めを既に始めているってことか』


「ああ、奴隷を見せてもらおうかと思ってね」

「どのような奴隷がご必要でしょうか? 条件に見合ったものをお連れ致しましょう」


『……買い手と分かると、今度はかなりの金持だと思ったようです。エリスの首の奴隷紋を見て、菜奈と雅も奴隷と思ったようで、美少女を三人も所持している、かなりお金持の好色家と判断したようです。しかもマスターのことをロリっ子好きな変態だと思っていますね……くくくっ』


 どうやら貴族のボンボンが金にモノを言わせて美少女を買い漁っているのだと思ったようだ。しかも俺の事はロリ専と判断されたみたいだ。


『ムカつく奴だな。奴隷の条件はどうしようか? セシルの母親を名指しで呼び出すか?』

『……それはお止めください。欲しい相手がいると思われたら、相場より高めの金額を提示されてしまいます』


『そりゃそうか……』


「条件か……。そうだな……礼儀作法がしっかりした者を取り敢えず何人か見せてもらえるか?」

「礼儀作法でございますか? もう少し具体的な情報がほしいですね。男性か女性か、あと年齢とか、体型、性対象の女性なら処女か非処女とかでも随分お値段が変わってまいります」


 どうやらアバウトすぎたようだ。やっぱり俺を好色ロリと思っているようだ。


 ・男女、年齢は問わない

 ・貴族の礼儀作法に詳しい者

 ・終身奴隷であること

 ・借金奴隷は良いが犯罪奴隷はNG

 ・処女性は問わない


 『おや?』って顔をしてやがる……ムカつく。俺が男を買うのがそんなにおかしいか!


「それでは、こちらの椅子にお掛け下さってお待ちください」 

「おい。妹とその友人にも椅子を用意しろ。お前、こいつらを侍女や奴隷と思っているのか?」


「失礼いたしました! そちらの美しい女性の奴隷紋が見えたものですから、てっきり他の方もそうなのだと誤解しておりました。お許しくださいませ!」


 もし俺が貴族だとしたら、その家族を奴隷と同じ扱いをしたとなると侮辱罪にあたる行為だ。少し横柄な喋り方をして、貴族っぽく振る舞ってみてはいるが、どうやらそれっぽく見えているようだな。相手の思い込みだが、これで少し交渉がしやすくなった。



 部屋の広さから、一度に見せるのは10人ずつのようだ。

 最初に連れてきたのは全員女子、しかも5歳児から16歳ぐらいの比較的可愛い少女ばかりだ。


 あからさまで腹立たしかったが、それよりもこんな幼女が既に一生を奴隷として決まってしまっていることが不憫でならなかった。


 菜奈や雅も声にならないため息を出していた。二人を連れてくるんじゃなかったな。


「おい、俺の出した条件を忘れたのか? 貴族の礼儀作法に詳しい者だと言っただろう」

「ええ、承知しております。その子は元子爵家のご令嬢で、幼いながらも最低限の貴族の振る舞いは承知しているようです」


 例のセシル一家を破産させた子爵家の者だったか……。親の借金のせいでこんな子供まで――


「俺は後ろにいる元農家の娘に、貴族の侍女のような礼節を指導できるような人材が欲しいのだ」

「その娘が農家の娘なのですか? 日焼跡すらないので、とても農業に従事していた者には見えませぬが……健康そうに見えますが、病弱だったのでしょうか?」


 エリスは、家族に売られてから自分の愚かさを痛感させられている。行く先々で農家の娘に見えないと言われれば、自分がいかに怠惰に暮らしていたか、そして家族に負担を掛けていたか……また涙目になっている。


「この娘のことはいい。それより条件に見合った人を見せてくれ」

「ええ、承知しています。お時間が宜しければ、是非見ておいて損はしないお薦めの子たちなのです」


 商人は彼女たちを見て手を2回叩いた。

 そしたら、彼女たちは着ている貫頭衣のような物を一斉に脱いだ。下着はつけておらず、全員素っ裸だ。


 おお! パラダイス!


「兄様、見てはなりません!」

「ん、みちゃダメ!」


「妹様、失礼ですが、奴隷の品定めの為には必ず行うものなのですよ?」

「ああ、当然だ。人材を買うのに、怪我をしていたり、痩せ細った不健康で病弱な使えない者を買わされてはたまったものじゃないからな」


 ここで奈菜の『あにさま』呼びが役に立つとは……平民が兄様とか言わないからね……完全に俺のことを貴族の者と勘違いしたようだ。


「ええ、そのとおりでございます。健康状態は勿論、性の対象にするなら火傷や傷の有無、好みによっては乳房の大きさや、乳首や乳輪の色やサイズまで拘る方もいらっしゃいます。買った後に脱がせてみて気に入らないと、不当に甚振られては可哀想ですからね。当店では事前にしっかりと品定めをしていただいております」


 お触りは禁止のようだが、両手を横に広げさせて前、後ろ横と、奴隷商人の指示に従って全身をくまなく見せてくれる。


 5歳児の子と8歳ぐらいの子以外は、羞恥に頬を染めていた。菜奈と雅には鬼畜を見るような目で睨まれてしまったけどね。


 奴隷商人は順番に年齢と簡単なプロフィールを、手に持った紙を見ながら説明していき、首に数字の入ったプラカードを下げさせていく。後で気に入った子の番号を言えば再度ゆっくり検討できる仕組みのようだ。


「この中にお好みの子はいなかったでしょうか?」

「いないこともないが、他の者も見たい。条件に見合った者は後何人いるのだ?」


「女性が7人、男性が6人でございます。実は半月ほど前に、ある子爵家が開拓事業に失敗して結構な人数の者が借金奴隷になりまして、今うちでも良い人材が揃っているのですよ。お手頃の子は何人か既に売れてしまいましたが、この子たちはわたくしのお薦めでございます」


 最初に見た者のうち4名が子爵家の関係者だった。そこで働いていた終身奴隷も、子爵家の家財として売られてしまうようだ。期間が決まっている契約奴隷として働いていた者は免責されるのだそうだ。



 【奴隷紋】の更新の事もあったので、奴隷について商人から詳しく聞いてみた。

 【奴隷紋】というのは首の周りに、円環状に鎖の刺青が浮き上がる魔法で、この魔法で対象者を縛ることになるのだ。縛る程度は奴隷のランクによって変わってくる。


 終身奴隷A(刑期無期限の重犯罪者)>終身奴隷B(事実上返済不可能な額の負債・弁償・借金など)>犯罪奴隷(刑期年数)>借金奴隷(返済まで期日なし)>契約奴隷(個人によって細かく内容は変わる)


 アルヴィナとルフィーナは本当は盗賊に攫われた子なので、売買は違法なのだ。裏取引から始まって、何箇所か不法な奴隷商を経由され、最終的には正規ルートで高額で売りに出されたのだ。なんだかんだで不当に売り捌く抜け道はあるみたいで、人攫いは後を絶たないそうだ。


 終身奴隷・犯罪奴隷・借金奴隷に基本人権はない……物として扱われるのが普通だ。

 終身奴隷は生きる権利まで購入者に委ねられる。

 主に重犯罪者が多いため、被害に遭った家族が買い取り、家族の手により公開処刑が行われたりもする。


 犯罪奴隷と借金奴隷は、命と寝食の最低保証はされるが、労働に対して何をさせられても文句は言えない。男の殆どは鉱山や土木作業の一番過酷で危険な場所に配属されることになる。女の場合、若くてそれなりに可愛ければ娼館が買って娼婦にされる。可愛くなければ、同じく重労働で長期の労働が待っている。犯罪奴隷は刑期が終えるまで、借金奴隷は職種は選べないうえで返済が終えるまでの期間強制労働する事になる。


 契約奴隷だけはハローワーク的なもので、雇用主と条件が合えばその内容で契約して雇われるだけのようだ。


「ありがとう。大体理解できた。先に男の方を見せてくれるか?」

「かしこまりました」


 6人部屋に入ってきたのだが……1人あきらかに雰囲気の違う異質な存在がいる。どうやらこの人がナビーお薦めの人だろう。奴隷商人の説明を聞いていたのだが、国の制度が理解できない。


「その男は子爵家の家令をしていただけなのだろう? しかも子爵家の奴隷ではなく準男爵の爵位を得ているのに、一緒に奴隷に落とされたのか?」


「家令だからこそです。家令とはその家の取り纏め役みたいな立場の者です。家令がしっかりしていれば、家が傾くこともございますまい。主を支えるとても責任のある立場です」


「では、この者が無能ゆえ、子爵家がお取り潰しになったのだな?」


 奴隷商人は『しまった!』という顔をしている。無能な人材を高くは売れないからね。


「いえいえ、その者は執事としてだけではなく、見てのとおり護衛としても有用です。きっとお役にたつでしょう」


 目の前で裸になっているのだが、この人現役の戦士だ……いや騎士か。


 菜奈たち女子3人には隣の商談室に行ってもらっている。流石にお年頃の娘に男の全裸を見せるのはどうかと思ったからだ。菜奈も雅も裸くらい見ても全然平気だとは思うけどね。


 白髪交じりの66歳のじいさんなのだが、脱いだら筋肉隆々で引き締まった凄い体をしていた。種族レベルはなんと47、ダリルやレイラさんたちより遥かに強い。



 他に子爵家の庭師の男もいたが、貴族の礼節は知らないようだ。


「その2番の者を残して、残りの7人を見せてくれ」



 いよいよ本命が見れそうだ。

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