2-9-6 奴隷たちの事情?要らない娘たち?

 ハティが帰ってくる前にいろいろ考えないといけないことがある。


 とりあえず一番厄介なのが、ハティが連れ帰る男性冒険者たちだ。彼らが逃げ出さなければ、ひょっとしたら先に殺された2名以外は死ななくても済んだのかもしれないのだ。つまり生き残った女性冒険者たちと、逃げた男性冒険者たちがもめるのが目に見えているので面倒なのだ。


 今回の護衛依頼で冒険者は2PT(1PT7人)雇われたのだが、2PTの中で強い2名が真っ先に殺されたのを見て、1PTがまるまる逃げ出したのだ。仕方なく残った方のパーティーメンバー5名で守りにあたったのだが、多勢に無勢……俺たちが到着するまでに更に2名殺されて、残留したパーティーの男は全て殺されてしまったのだ。


 女性冒険者が殺されずに生きているのは、生け捕りにして裏ルートで非合法の奴隷商に売るためだ。勿論売られるまでに散々辱めを受けることになる。


 ある意味彼女たちが助かったのは商品価値がある若さ故なのだが、逆に年配のベテラン女性冒険者だったら、そもそもこの護衛依頼の危うさを警戒して参加していなかったと考えれば何とも皮肉な話だ。



 俺が女性冒険者たちの気持ちを無視して、逃げ出した奴らを助けるのには一応理由はある。決してフィリアや未来にお願いされたからだけではない。俺は彼女たちほど優しくもないし、善人でもない。


 ナビーに確認しつつ、奴らの言い訳の想定をいろいろ思案しておく。



 次に問題なのは奴隷たちだ。助けたからには売るにしろ解放するにしろ、最後まで面倒をみる必要がある。


『……マスター、そのことでお話があります』

『どうした? なにか問題でもあるのか?』


『……はい。彼女たちを調べたのですが2名ほど仲間にするには問題のある娘がいます』

『問題? 具体的にどんな問題があるんだ?』


『……1人はマスターから見て左の人族の娘です。彼女は農家の娘なのですが、それを聞いて何かお気づきになりませんか?』


『う~~ん……農家の娘にしては日焼けしてないとか?』

『……ふふふ、正解です! 流石です! 一発正解です!』


『で? なにか働けないような持病を持ってるのか?』

『……普通はそう思いますよね。ですが彼女は何度両親に仕事をしろといわれても一切手伝おうとしなかったのです。自分が綺麗だと幼少時より自覚していて、いずれどこかのお金持ちに見初められて嫁ぐから、日焼けなんかしたら価値が下がってしまうと言って、これまでなにもしていません』


『ニートかよ! この世界にもパラサイトっているんだな。俺、学園のみんなにこの世界にニートはいないって言っちゃったよ』

『……家族も彼女の美しさは認めていたので、せめて家の中の手伝いだけでもすれば良かったのですが、洗濯や炊事は手が荒れる。調理は火傷や怪我をしたらどうするの、とか言ってそれも手伝わない。とうとう彼女抜きの家族会議で、全員一致で奴隷として売ることに決まりました。話し合いで売ると決まったその日のうちに商都の奴隷商人に家にくるよう手配し、奴隷商人の到着後すぐに彼女の食事に一服盛られて、寝てる間に終身奴隷として契約されてしまったのです』


『あ、やっぱ売られたんだ。でも本人の同意なしでもいいのか?』

『……寝てる間に契約書に拇印を押されていますが、親の同意書が添えてあるので合法です』


『まぁ、自業自得か。この世界じゃ遊ばせておくほど裕福な家ってあまりないのだろ?』

『……貴族ならともかく、農家ではまずないでしょうね。日本のように農家の地主とかはなく、地主とは領主である貴族のことですからね』


『終身奴隷ってことは、完全に捨てられたってことだよな?』

『……ですね。終身奴隷は何でもありなので、性奴隷として売られることが殆んどです。それを分かっていてそういう契約をしたってことは、家族全員そうとう腹に据えかねるものがあったのでしょう』


『でも、その家族たちはなんだかんだ言っても、やっぱり良心の呵責に今は苦しんでいるのだろ?』

『……いえ、びっくりするほど高額で穀潰しのバカ娘が売れたと、家族で喜んでいます』


『彼女、余程酷かったんだな。そういわれてみれば、なんか嫌な感じの目つきでこっち見てるな』

『……マスターをどんな奴か観察しているのですよ。チョロそうなら誘惑して奴隷解放してもらう気のようですね。悪臭がするほど酷い性格の者ではないのですが、なにせこれまで何もやってこなかった家族に捨てられるほどの穀潰しのバカ娘。一切役に立たないでしょう。ああ、できることが1つありました。マスターのオナペットにはできるかもです』


 オナペットって……性処理は彼女以上に可愛い嫁が一杯いるので間に合ってます。


『よし! あの娘は可愛いけど、俺も要らないな。で、もう1人の問題児は?』

『……マスターから見て、右側にいる猫族の娘です。彼女は犯罪奴隷として売りに出される予定の娘ですが、手癖が悪く嘘吐きなのです。【奴隷紋】で縛ることはできますが、元の性格の悪さは【奴隷紋】ではどうにもできません。マスターなら臭ってみればすぐに理解できるはずです』


 性格が悪いと個人香が悪臭になる。


『犯罪奴隷ってことは何かやったんだよな?』

『……彼女は貴族家に契約奴隷として奉公に出ていたのですが、その貴族家から家財を時々盗んで売っていたのです』


『そういう犯罪行為は【奴隷紋】で縛っていたのじゃないのか?』

『……嘘が上手く、貴族の主人から信用されていたようで、縛りを殆んどかけられずに自由にされていたようです。容姿が可愛いので、少し甘えただけでコロッと騙されたようですね。売り払った物が高額なため、その補てんに彼女も終身奴隷です』


『盗んだ品を売った現金はどこにいったんだ?』

『……家族に仕送り……とかなら可愛気があったのですが、服やアクセサリーを買って所持していたようです。それを全部売って貴族家に返済し、足らない分の3倍額が彼女の返済金になります。約9千万ジェニーです』 


 ジェニーはこの国の通貨単位だったな……多少物価は違うが、1ジェニー約1円で換算していいそうだ。


 彼女は相当な額の盗みをやらかしていたようだ。上手いこと取り入って言葉巧みに奴隷から解放された時に、それを持って速攻でトンズラする気でいたようだが、解放される前に盗みが見つかってしまったというオチだ。


『なるほどな、この娘も要らないな。それにしてもみんな可愛いよな。桜ほどではないけど、あの白い白狼族の娘とか、穂香や沙織ちゃんレベルで可愛いな。この世界って結構可愛い娘が多いのか?』


『……彼女たちは、年に1回年始に王都で開催される、この国最大規模のオークションに出品予定の娘たちです。年始のこのオークションは、厳選されたレアな商品しか出品できない規則があるようで、国内外から貴族や商人がお宝や美人な高級奴隷を求めて沢山集まってくるようです』


『だから、これほど粒揃いなんだ。彼女たちは年始用に厳選された特別品なんだな、納得だ』




 彼女たち二人に、このまま期待を持たせたままにしておくのはあまりよろしくない。


「ちょっと奴隷の娘たち、こっちにきてもらえるか」


 俺の呼びかけで奴隷たちが俺の前に集合する。


「俺の名前はリョウマだ。今から君たちの主人になるわけだが、先に【奴隷紋】の縛りを幾つかかけておく」


 1、身の危険を感じない限り、許可なく逃げ出すな

 2、犯罪行為をするな

 3、自傷行為をするな


 もう1つあるのだが、今はあえて組み込まないでおく。


「以上たった3つだ。それと灰狼族のあなたから順番に名前と年齢を言って自己紹介をしてくれるかな。あっ、先に君と君はこっちにきてくれ。じゃあ、順番に自己紹介よろしく」


・アレクセイ 26歳 灰狼族 レア種族

 元冒険者で貴族に騙され犯罪奴隷に落ちる


・セシル 17歳 人族

 商家の娘だったが、家族全員借金奴隷として奴隷落ち


・ミーニャ 16歳 黒豹族 レアな猫種族

 母親の高額な治療費の為に奴隷落ち


・アルヴィナ 16歳 白狼族 超レア種族

 盗賊に襲われ、裏ルートで奴隷商に売られる


・リリー 15歳 犬族

 村で保護されていた捨て子だったが、大不作でこの秋に売られてしまう


・ベル 15歳 犬族

 農家の娘 リリーと同村で仲良し 同じく不作で家の為に身売りする


・ルフィーナ 18歳 兎人族 超レア種族

 森でキノコ狩り中に奴隷狩りに遭う           



『やっぱ、奴隷になった理由が色々重いな』

『……身売りさせられるような奴隷は、大抵個人が抗えないような大きな理由があります』


『……マスター、人狼族は偶然かもしれませんがロシア語名が多いようですね。男性のアレクセイは『護る』という意味です。アルヴィナは『白』とか『純粋な』という意味があります』


『へ~、彼女にぴったりだな! 凄く良い名前だ』

『……アレクセイも必死で女子を守っていましたよね? 彼にピッタリな良い名前だと思うのですが……』


「あの! 私の名前は―――」

「あ、君たちの名前は言わなくていい。明日商都に行ったら、君たち二人は奴隷商に売りに出す」


「「どうして私たちだけ売られるのですか!?」」

「俺が言わなくても、自分たちが一番分かっているでしょ?」


「「分かりません!」」


『……マスター、他の娘たちが結局自分たちもすぐ売られるんだと不安になったようです。ちゃんと説明してあげてください』


 確かに……いきなり売るとか言っちゃったから、他の娘たちまで俺を蔑んだ目で見てるな。


「そこの人族の君は、農家の娘なのに17年間仕事もせず、親に寄生して家族に見捨てられて売られたのだろ? 農家の娘のくせに一切日焼けもなく色白なのはおかしいだろ? 同じく農家出のリリーとベルはこんがり小麦色な肌をしているだろ。手も鍬で耕すからマメだらけ、働き者の良い手をしている。何もしない怠け者のお前はいらないんだよ。何もしてこなかったから、一切家事もできない役立たずだろ?」 


「なんで、あなたがそのことを知っているのですか!? さっき会ったばっかりなのに!」


「それと猫族の君は、嘘吐きで手癖も性格も悪すぎる。そういう娘も当然うちにはいらない」

「違うのです! 前の主人の誤解なのです!」


「ほら、またそうやって嘘を平気で吐く。奴隷たちに4つ目の縛りだ! 主人とその仲間に今後一切嘘を吐くな!」


 ここでさっき組み込まなかった縛りを取り入れる。


「………………」


「どうした? もう言い訳しないのか? 前の主人がなんだって? 嘘を吐いたらどうなるか見たいから言ってみろよ」

「くっ………………」


 うわ~可愛かった顔が、めっちゃ睨んでおっかない顔してる。これが本来の彼女の性格がにじみ出た顔なんだな……ナビーに感謝だ。


「それとミーニャ。君の病気のお母さんな、神殿の診療所に行ったんだけど、結局治ってないんだよ。君には『ミーニャのおかげで治った、ありがとう』って言っているだろ? あれ、君を想った優しい嘘なんだ。身売りまでして作ってくれたお金を半分無駄にしちゃったので、君の両親はそのことを言い出せずに、お母さんは今も病気で苦しんでいる」


「嘘! だってお母さんは治って元気になったって……うそ……」

「心配しなくていい。俺はこの世界でもおそらく一番優れた治療魔法が使える。商都に行ったら君のお母さんは、俺が治してあげるから、心配しなくていいよ」


「……本当?……もし、お母さんが治っていなかったら、ご主人様が治してくれるの?」

「ああ、どんな不治の病でも治してあげるから心配しなくていい。それと、不安そうなので他の娘たちに言っておく。この問題児の二人以外は娼館などに売ったりしないから安心してくれ。アレクセイは後で腕を治してやるので、夜までは我慢な」


「ナッ! お前部位欠損も治せるほどの術者なのか!? ウゲッ―――


 はい、女性冒険者にアレクセイは速攻で殴り倒されました。


「私、次は殴るって言ったよね? 主人に対してお前とか! 口のきき方にはもっと注意しな! ところであなた、その若さで上級回復魔法だけでなく、部位欠損も治せるの? それに相当高位の【人物鑑定】のスキル持っているよね? 君、本当にうちに入ってくれない?」



 神殿の診療所では、重度の病気は順番待ちで、緊急に診てもらう為には寄付という名の高額請求をされるのだ。重度の病気を治すには高位の神父に診てもらう必要があり、そうなると人数も限られて必然的に数千万単位のお金が必要になる。利用できるのは高額なお金が払える貴族や商人だけになってしまう。


 ミーニャは自分を犠牲にしてでも母親に生きてほしいと思い、家族に内緒で終身奴隷に身を落としたのだが、用意したお金では治せるほどの高位の神父に診察してもらえなかったのだ。


 ちなみに神父の序列はこんな感じだ。


 教皇>枢機卿>大司教>司教>司祭>助祭となるのだが、今回ミーニャの家族が全財産をつぎ込んで回復依頼をしたのは、これから行く商都の神殿に巡回してきていた大司教にあたる人物だったのだが、結局彼では治せなかったようだ。


 だが、成功しなかったとしても半分のお金は寄付として徴収されてしまうので、結局3千万ほど無駄金になってしまったのだ。


 無駄金と言ってしまったが、神殿はそのお金で孤児院を賄っているので、お金自体は有効に使われている。あくまでミーニャの家族が病気も治らず、ミーニャはそのまま奴隷落ちして大損をしてしまったということだ。


 神父について言っておくが、神殿の神父は神の神託で選ばれ任命されるため、悪人は1人もいない。なので高額なお金を払って治らなくても、神父を詐欺呼ばわりする者はいない。むしろ治らなかったのは神のご意志だとして、生を諦める者が殆んどだ。



 俺の【アクアフロー】と【細胞治療】を使えば治せない病気はまずないだろうから、家族思いのミーニャの為に、商都に着いたら少し時間をつくり、母親を治してやろうと思う。


 決してピコピコ動く耳が可愛いからなんかじゃないからね!


 俺に売ると宣言された奴隷二人が涙を浮かべて何か言いたそうにしているが、ハティが帰ってきたので奴隷たちの話を聞くのはここまでだ。



 既に女性冒険者3名が彼らを見て強い殺気を放っている……さて、あいつらをどう処分するかね。

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