2-9-5 【クリスタルプレート】の機能?ハティのストーキング?

 いろいろ問題はあるが、まずは現在進行形で魔獣に追われている、逃げ出した護衛の男どもが先かな?

 距離的にここから2kmほどあるので、このまま放っておくと、ここに辿り着く前に魔獣に追いつかれるだろう。


『……マスター、逃げ出した男たちはそこの女冒険者たちとは違うパーティーのようです。死んだ冒険者は彼女たちを守ろうと最後まで戦ったみたいですが、薫の倒した元上級冒険者の男と助っ人の傭兵盗賊に殺されたようですね』


『仲間を置き去りかと思ったが、パーティーが違うから平気で逃げたのか。じゃあ尚更助ける義理はないな。他の盗賊に助っ人してる危険な強い奴はどうなっている?』


『……三田村が1人、未来が1人倒しています。元上級冒険者は盗賊のボス以外はもういませんね』

『そうか、三田村先輩も剣術に極振りしているだけのことはあるんだな……』


 そのとき女の怒声が響き渡った。


「冗談じゃないわよ! 私たちを盗賊に差し出して逃げておいて、よくコールしてきたわね!」


 声の方をみたら女冒険者の1人が、なにやら覗き込んで叫んでいる。

 近づいてみたら、【クリスタルプレート】の画面に話しかけていた。


 どうやら、俺たちの世界を参考にしている世界だけあって、この世界の住人も【クリスタルプレート】を出せるみたいだ。


『ナビー、この世界の住人の仕様も俺たちと同じモノか?』

『……いえ、大体同じようですが、決定的に違うのはAPポイントを利用できないことですね。コール機能やフレンド登録、チャット機能や写真や動画も保存できますが、マスターのようにステータスを弄ったりはできません。勿論ポイントを振ってスキルや技能を獲得するなんてチートもできません』


『分かった。で、彼女はなに怒り狂ってるんだ?』

『……逃げ出した男共がフレンドリストをみて、彼女たちがまだ生きてると知って、藁にもすがる思いで救助要請をしてきたようです』


 ナビーの補足説明では、多人数通話もできるし、キャッシュカード機能に討伐記録も自動カウントとか、優秀すぎてびっくりだわ!



『そりゃ、彼女も怒るわな。それにしても、フレンドリストも使えるのか……ある意味厄介だな』


 この世界の国王や国の重鎮にフレンド登録されて、良いように呼び出されて使われたらたまったものじゃない。


 通話をぶった切ってお怒り中のお姉さんに一応聞いておく。


「さっき逃げた奴らからコールがあったのよ。私たちを見捨てて逃げておいて、逃げた先で魔獣に遭遇して、私たちがまだ殺されてないからもしやと思ってコールしてきたみたいだけど、『助けてくれ』はないでしょ?」


「もしやと思ってとは、どういうことです?」


 どうやら、こう考えたんだと彼女は推察したようだ。


 1、現在フレンドリスト上では生きているが、時間的に盗賊たちが凌辱中

 2、盗賊たちを返り討ちにできて、生き残った

 3、第三者により助かっている


 こう考えて、1でないのなら助けてくれ的にコールしてきたのだろうと予想して、あまりにも腹が立って会話途中でブチ切ったようだ。



「では、救出に向かわないってことです?」

「助ける義理はないわ。それどころか、あいつらそのまま何食わぬ顔で護衛報酬まで寄こせって言い出すかもしれないしね」


「救助要請があった場合、それを見殺しにしてもギルドからはペナルティとかはないのですか?」

「ペナルティーとかはないわよ。だって、冒険者というものは契約で成り立っているのだからね。さっきみたいに命がけで助けても、報酬はありませんとかじゃやってられないでしょ? 事前にちゃんと契約が書面でなされない限り、助けるも助けないも自由意志よ。口約束なんか信じちゃダメよ。そこの宝石商みたいに狡猾な商人は多いからね」


「確かに……助けてくれと請われて、命懸けで助けてあげても『お金は持ってないです、ごめんなさい』じゃ、やってられないですね。ましてその際に仲間が怪我や死亡したりしたら、目もあてられない」


「そういうこと。特にあいつらは私たちを置いて逃げたやつらなのよ。それに、こっちだって余裕があるわけじゃないわ。盗賊たちの見張りもしないといけないし、商人や奴隷の娘たちを護衛しなきゃいけないでしょ? パーティーを分けて助けに行く余裕なんかないわよ?」


 彼女の言ってることはごもっともだ。奴隷の権利は俺にあるのだから、依頼料は俺持ちになるのかな?


「そういえば、お姉さんたちはこの後どうされるのですか?」

「君たちは王都の方から来たってことはフォレストの街に向かっているんだよね? 申し訳ないんだけど、便乗させてくれないかな? 謝礼はちゃんと払うので、お願いします! 私たち3人だけじゃ、魔獣が出たら対処しきれないの!」


 彼女たちの方が助けてほしいから、謝礼を出してくれるのか。

 まぁ、ついでだしお金は別にいいや。対価として今から行く街やこの世界の情報を色々教えてもらおう。



「それは困る! 契約時に言った通り、納期があるんだ! 王都まで私を護衛するのが君らの仕事だろ!」

「そうは言っても、私たち3人だけじゃ迂回路の方でも無理だよ……ましてあの森を通ってとか、死ににいくようなものだから、一度帰って人員補充しなきゃ。それに盗賊の引き渡しもあるでしょ?」


「盗賊はそっちの子らのモノだろう! 君たちは契約通り、何が何でも私を王都に届けなさい! 納期に間に合わないと、私の宝石商としての人生が終わってしまうのです!」


 そのことはナビーから聞いて知っていたが、宝石商人のおっさん、めっちゃ必死だな。


「そう言われても、現実的に無理なのはバグナーさんも本当は分かっているのでしょ?」


 どうやら分かってはいるようだ。めっちゃ悩ましげな渋い顔をしている。


「そうだ! 君らが護衛についてきてくれればいいじゃないか! 盗賊らはここで殺してしまえばいい! 盗賊を奴隷として売却する差額と、護衛料金は通常の倍額だそう!」


 切羽詰っているのだろうが、こっちの都合を無視した身勝手な話だ。命だけは助かると思っていた盗賊たちもそれを聞きつけ騒ぎ出した。


「あの? レイラ? 本当にダリルたちパーティーは見捨てちゃうの?」

「ミラは腹立たないの? あいつらのせいで、ラエルたちは死んじゃったのよ!?」


「そうだけど、彼らが残っていたとしても、同じ運命だったと思うよ? そこの彼らがきてくれなかったら、全滅していたと思う」


「でも! あいつらが逃げていなかったら、彼らがきてくれるまで一緒に戦ってくれていたら最後に殺されたジルは助かっていたかもしれないよ?」


 どっちの言い分も分かるんだよな。でも、ダリルという奴らを助けるとなったら結局動くのは俺たちの方になる。彼女たちでは、力不足だしね。


「龍馬よ。其処の者の助けたくないという気も分からぬではないが、妾は助けられる命なら助けてあげてほしいのじゃが……どうじゃ?」


 ハイ! 女神様キター!


 この娘に偽善とかそんなもの一切ないです! 素で言ってます! だよね? 元とはいえ、慈愛の女神フィリア様が見殺しできるはずないよね~。


「龍馬先輩、私も見殺すのはどうかと思います。あまり良い気分ではないです。龍馬先輩なら簡単に助けられるのですよね?」


 まぁ、そうだけどね。三田村先輩や三月先輩が何も言わないのは、俺と気持ちは同じなのだろう。正直、男としては助けたくない気がする。でも、フィリアと未来が嫌な気持ちになるのなら、助けに向かうのもやぶさかではない。


「ハティ! 隠れてないで出てこい! ちょっと頼みたいことがある……」


 木の陰からひょっこり顔を出して、耳を項垂れている……あざといくらい可愛い。


『ご主人様……怒ってる?』

「勝手についてきたことなら別に怒っていないぞ。ついてくるなと指示してないからね。それより、この道を進んだところに魔獣に襲われてる男たちがいるので、ちょっと行って助けてきてあげてくれるかな」


『魔獣を倒せばいいの?』


「そうだ。倒した魔獣はハティの【インベントリ】に入れて持ち帰るように。上手くできたら、なんかお礼をあげるよ? 欲しいものあるか?」


『牛さんのレバー!』

「よし! それを食べさせてあげよう! 桜に頼んで、胡麻油と塩でちゃんと味付けしたヤツだ!」


『ヤッター! 行ってくる!』


 超ダッシュであっという間に行ってしまった。俺の足じゃ間に合わないかもしれないけど、ハティなら余裕そうだな。


「おい! 今の白狼の子か? お前、あれを従魔にしているのか? ひょっとして凄いテイマーなのか?」

「あなた、さっきも言ったけど奴隷の分際で口のきき方をわきまえなさい! 今度、主にお前とか言ったらぶん殴るわよ!」


「うっ……すまない。俺は少し前まで君らと同じ冒険者だったんだ。奴隷の口のきき方など当然知らん。慣れるまで大目に見てほしい……」



 冒険者のお姉さんが注意してくれたけど、彼に同情してしまう。


『……マスター、彼女は元上級冒険者だった彼に善意で言っているのです。犯罪奴隷の扱いは酷いものです。今のような彼の言葉使いではすぐに鞭で打たれてしまいます』


 これがこの世界の常識なのなら、お姉さんの言い分の方が正しくて、矯正できなきゃ今後彼が苦労する羽目になるんだよな。



 なんだか盗賊退治より、事後処理の方がめんどくさい……。

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