2-8-3 羊狩り?シロのおねだりスキル?

 得意魔法を禁止されたハティは、羊の群れに囲まれて一目散に逃げてきた。シープドッグのように追い立ててもらう予定だったが、群れを引き連れてきたので結果は同じだから良しとしよう。


『……マスター、どうやら上位種も数体混じってますね。上位種はビックホーンという羊の魔獣です。上級魔法の雷魔法を角から撃ってきますので、後ろの仲間にも範囲シールドを張った方が良いですね』


『王種か?』

『……いえ、ビッグホーンはサンダーマトンの上位種ですが、王種ではないです』


 もうすぐ羊たちの射程に接触するので範囲シールドを張って仲間を守っておく。


 ナビーが羊毛が高値で売れるというので、凍らせて倒す事にする。首チョンパは血で汚れるので禁止された。

 雷は耐性が高くあまり効かないそうなので、仕方がないな。


 目視で範囲を決めて、【寒冷地獄】を発動する。


『……それは禁呪と言ったのに! そんな危険な魔法ポンポン撃たないでください!』


 ナビーに怒られた。

 着弾と同時に着弾地点から円状に急速に全てが凍って行く。


 うわ~~……我ながら凄まじい威力だ。


 死亡した羊は順次【インベントリ】に回収されていく。すぐに誰かのレベルが上がって例の白黒世界に景色が変わる。料理部以外は1レベル上がると即パーティーから外しておく。レベル上げは、街に着いた以降に自分たちでやってもらうつもりだ。何回か誰かがレベルアップし、全ての羊が回収され、今、目の前に見えるのは凍った草原だけだ。


「龍馬先輩……今、何やったのですか?」


 魔法使いの沙織が聞いてくる……あれ? この魔法1回使ってるのに?

 ああ、そういえば蟻塚の時は巣の中に発動したから、実際見るのは初めてか。


「俺のオリジナル魔法なのだけど、危険なので教えられない」

「龍馬先輩、危険なのは理解できているんだね。街中とかで使っちゃダメですよ?」


「当たり前だろ、何人死人が出るか考えただけでも恐ろしい」



 【クリーン】獲得組もやってきてお礼をいってきた。どうも早速【クリーン】の魔法を自分に使ったみたいで、かなり喜んでいる。


「小鳥遊先輩ありがとうございました! 凄く快適です! 私、先輩の他のお薦めの【アクア】【ファイア】【ライト】も今回獲得してきました」


「うん。それらは最悪の場合でも命を繋いでくれる可能性の高い魔法だから。水と暖さえ取れれば人は10日は食べなくても死なないからね。コールで救援を呼び、救助隊が到着するまでの間その魔法を使って凌げば、助かる確率が上がるよ」


 まぁ、こうやって何回か説明してやっても、未だに取らない剣道部の小山先輩みたいな人もいるけどね。


「小鳥遊君、そういえば羊って草原にもいたんだね?」


 その小山先輩が何気なく聞いてくる。


「そういえばそうですね。羊って高い山脈の岩場にいそうですよね」

「え? それは羊じゃなくてヤギじゃないの?」


「あれはヤギか……」


 茜が話に割り込んできた。


「羊って元々野生種ってあまりいないのよ? 毛を刈るために品種改良された種なの。ビッグホーンっていう羊は数少ない野生種だけどね。生息場所は高い高地にいるそうよ」


 やっぱ高地で合ってるじゃないか。


「茜はなんでそんなこと知っているんだ?」

「部活でジンギスカンをやる時に、どの羊が美味しいか色々調べたのよね。主に桜が」


 どこまでいっても変態料理部でした。


「茜のレベルもそれなりに上がったな。もうちょっとほしいけど、今回はここまでだな」

「十分よ、ありがとう龍馬君。それより早く帰ってジンギスカンの準備しなきゃ! 血抜きとか本当に任せて良いのね?」


「ああ、血抜きも肉の熟成も魔法で超完璧にできるようにしてあるので問題ないよ」

「魔法でって、あなたって本当に規格外よね」


 早速帰る事にしたのだが、ジンギスカンという言葉を耳にした小山先輩のおねだり攻撃が炸裂した。


「小鳥遊君! ジンギスカン私も食べたいです! ほらあなたも!」

「小鳥遊先輩! 食べたいです!」


「小山先輩、下級生を使うの止めてくださいってば、それに料理をするのは茜です」


「竹中さん! あの、私もジンギスカン食べたいです!」

「街まであと実質2日だし、食材に余裕はあるので別に良いですけど……」


 桜にコールしたら、料理部総出で作ってくれるそうだ。今晩の夕食はジンギスカン大会になったようだ。

 横でちょっと拗ねてるハティに、先にさっき狩った羊のレバーを食べさせてやる。


『ご主人様~ありがとう♪ おいしい!』

『牛とどっちが美味い?』


『う~~ん、やっぱり牛さんが一番かな……』


 やっぱA5牛には敵わないか……確かに旨いもんな。




 拠点に帰ると既にお祭り騒ぎになっていた。

 学園にも届けたいというので、何個か錬金魔法で大きめのジンギスカン鍋を作成した。


「茜、鍋はこんな感じで良いか?」

「ええ、バッチリね。それを後10個ほど出来るかしら?」


 一度作った物は材料さえあれば数秒で複製できるので、多めの15個追加で渡した。


 学園には今から行きたいというので、優・綾・茜の3人を向かわせる。


「ハティ、お前も行くか? 時間的には1、2時間ほどだけど会いに行ってきていいぞ。お土産に羊を8頭持たせてあげよう」


「ミャン!」


 尻尾を振って嬉しそうだ。




 3人と1匹を連れて学園の茶道室に転移する。


「じゃあ、ハティは呼ぶまでは自由にしていいからな。大体2時間ほどかな」

「ミャン!」


 一声吠えて、走り去っていった。

 むちゃくちゃ速いので、帰る時に呼んでもすぐ帰ってくるだろうと自由にさせることにしたのだ。


 3人はジンギスカンを振る舞いに教員棟に向かった。

 もうレベル差がかなりついているので、彼女たちが襲われる心配はないだろう。


 俺はMAPを見て、学園の近くにきている熊と猪を間引きに出る。オークなら倒せるだろうが、教員棟にいる男子ではまだ熊は無理だからだ。


 食材集めに森に入って、万が一熊に出会ったら終わりなので間引いてやっているのだ。正直に言えば、熊の肝が薬になるのと、毛皮が高値で売れるって理由もあるんだけどね。ついでに木材の補充もナビーにお願いされている。 





 熊を間引いて雑用を済ませた後は、茶道室で管理ノートの更新を行った。



 ・白石菜奈  Lv35 1st:大賢者  2nd:魔法騎士 3rd:回復師

 ・フィリア  Lv33 1st:大賢者  2nd:魔法騎士 3rd:回復師

 ・城崎桜   Lv31 1st:大剣士  2nd:魔法騎士 3rd:大戦士

 ・名取雅   Lv31 1st:魔法騎士 2nd:アサシン 3rd:大賢者

 ・栗林未来  Lv31 1st:回復師  2nd:大賢者  3rd:魔法剣士

 ・森里美弥  Lv30 1st:回復師  2nd:大賢者  3rd:魔法剣士

 ・間宮沙織  Lv30 1st:大賢者  2nd:回復師  3rd:魔法剣士

 ・小西穂香  Lv30 1st:大戦士  2nd:大剣士  3rd:拳闘士

 ・長谷川綾  Lv30 1st:大剣士  2nd:大戦士  3rd:拳闘士

 ・山下美加  Lv30 1st:大賢者  2nd:魔法剣士 3rd:拳闘士

 ・大谷薫   Lv30 1st:大剣士  2nd:大戦士  3rd:拳闘士

 ・中森優   Lv30 1st:回復師  2nd:大賢者  3rd:拳闘士

 ・森田沙希  Lv29 1st:回復師  2nd:魔法剣士

 ・有沢みどり Lv22 1st:回復師  2nd:拳闘士

 ・山本愛華  Lv22 1st:回復師  2nd:拳闘士

 ・中屋亜姫  Lv21 1st:回復師  2nd:拳闘士

 ・竹中茜   Lv20 1st:調理師  2nd:拳闘士



 これで街に入っても、大抵は自己防衛できるだろう。



 今回は男子も問題行動を起こすこともなく、感謝しつつ腹一杯ジンギスカンを味わったようだ。


「龍馬先輩ありがとう!」

「優ちゃんの友達もお腹いっぱい食べてたかい?」


「はい。私もちょっとつまんで食べちゃいました」

「俺も夕飯が楽しみだ。茜、綾ちゃんお疲れ様」


「ええ、美味しそうに食べていたからいいわ」

「余程美味しいものに飢えていたのか、凄い食欲でした」


「あ、ハティちゃん帰ってきた! あれ? なんか、後ろにおっきいのが付いてきてる! お母さんかな?」


 茶道室から外を眺めていた優ちゃんが、帰宅中のハティを見つけたのだが、誰か連れてきたのかな?


『ご主人様~、ただいまです~』

『羊のおみやげありがとうね! 凄く美味しかったわ!』


「ハティ、お帰り。シロもわざわざお礼を言いにこなくても良かったのに」

『何言ってるのよ。お礼は大事だと死んだ主が言っていたわよ』


 確かにそうだけどね。

 帰ってきたハティがなんだか元気がない。耳がねて尻尾が項垂れている。


『……なるほど……面白いものが見れそうです』

『ナビー、何のことだ?』


 すぐに分かった。


『あの……後6頭ほど羊さん欲しいな~~』

「8頭もあげただろ! あれ、売ると良い値で売れるんだぞ」



 シロの奴、お肉の追加要求にきたんだな。だからハティはちょっと申し訳なさそうにしているのか。


『……ふふふ、それだけじゃないですね』


「く~~~ん!」


 シロがお座り状態で前足だけあげて、両手で頂戴頂戴のおねだりポーズをしやがった!

 馬並みにデカいシロだが、毛色は長めで真っ白なシロは器量も良く可愛いのだ。


「ハティ、お前が教えたんだな? このあざといくらい可愛いおねだりポーズ……」

『ごめんなさい。シロお姉さんが、もう少しお肉をもらえないかなっていうから、こうやってご主人さまにおねがいすれば多分くれるよって教えてあげたら、群れのためにはじをしのんでやってみるって……』


「お姉さんって、ハァ……シロ、一応恥ずかしいんだな?」

『恥ずかしいわよ! でも、あの羊は私の群れでは、はぐれでもいて運が良くないと狩れないし、あいつら、すんごいビリビリ撃ってくるのよ』


「分かった。可愛かったし、群れの為に恥を忍んでやった心意気に10頭あげるよ。亜空間倉庫に入るか?」

『本当! ありがとう! 本当にもらえるとは思っていなかったけど、10頭も貰えるなんて嬉しいわ! あなたの羊って、毛を綺麗に刈ってくれているのでとても助かるのよ』


「毛が高く売れるそうだから、刈ってあるんだよ」

『知ってるわ。貰ってばかりもアレなので、お礼にこれをあげるわ。これも結構良いものだって私の主だった人から聞いているわ』


「なんだこれ?」

「龍馬君! それトリュフよ! 嘘! こんな大きなヤツ初めて見た! しかもこんなに沢山!」


「へ~~これが白トリュフ? トリュフは桜と少し採ったけど、白いのはなかったな。シロありがとう」


 牛よりは小さいが、それでもかなり大きい羊なのでシロの亜空間倉庫には9頭しか入らなかった。


「あはは、1頭残念だったな」

『問題ないわ! 銜えて持って行くから!』


 そう言って、口でパクッと銜えて帰って行った。


『ご主人様~ごめんなさい』


「ハティ、気にする必要はないんだぞ。貴重な羊のお肉だったから、シロも仲間の為に必死だったんだよ。ハティも群れからは出ているが、親兄姉がいる群れは大事にしたいだろ?」


『うん。お母さんとお父さんには美味しいお肉食べさせてあげたい』

「そういえば、俺はお父さん狼の方には会ってないな……まぁいいか」



 学園から拠点に転移し、俺は茜を個人的に呼び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る