1-6-5 桜の恋愛観?桜欲情中?

 桜のいきなりの告白で場が騒然となっている。

 ついうっかりってな感じだったが、確かに桜は俺のことを好きだと言った。


 気にならない筈がない……学園一の美少女の告白なのだ。

 桜に告白して振られた男は数知れずいるが、桜の告白は茜が言うには初めてのようだ。


 学園一の美少女と言ったが、俺的には知ってる女の中で一番と言っていい。本当の一番はフィリアなのだが、あれは人外的な美しさなので例外とすれば、実質桜は人族一美しいと俺の中では思っている。


 婚約云々の話さえ聞いてなければ、間違いなく惚れているだろう。


『ナビー、桜の奴本当なのか?』

『……他人の感情や思考を、マスターにはあまり教えないことに致します』


『なんでだよ? プライバシー云々とか言うんじゃないよな?』

『……それもありますが、一番はマスターが自分で考えないでナビーの意見を何でも取り入れようとするのが危険だからです』


『だって、お前の意見は間違いないじゃないか』

『……それが危険だというのです! 特に人の感情というのは、ビックリするほどコロコロ移り変わるようですので、今の桜のこの感情が持続するとも限りません。それなのにマスターはさも永続的に捉われてナビーの意見を採用しようとします。二日前までのマスターはハーレムなんか考えてもいなかったのに、たった一晩で考えが変わってしまっています。ましてや菜奈のことを受け入れるとはナビーもびっくりです! それほどすぐにコロコロ変わる人の感情をナビーが教えて、その時の相手の感情だけで物事を捉えては危険だと判断しました。今後はご自身で相手の将来のことも配慮しつつ行動してください』


『女心が俺に分かる訳ないだろ! 意地悪言わないで、ちょっとは協力してくれよ~』


『……マスターは決して鈍感な男じゃないですので大丈夫です。ラノベやアニメの鈍感主人公のように、ヒロインたちをバカ丸出しで振り回してヤキモキさせるようなことはしないでしょう。敵意や害意など、マスターにとって不利になる感情を向ける相手のことは逐一報告しますし、逃しては惜しい女子の情報もちゃんと与えますのでご安心を……ちなみに桜はナビー的にお薦めです。逃すときっと後悔するでしょう!』


『う~っ、ナビーのいけず~』




「桜? 俺のこと好きって?」


「あぅ、勢いで言っちゃったけど、好きなのは本当よ。だから変な誤解で避けられるのはちょっと辛いし嫌なの」


「誤解っていっても、桜が言ったことだぞ。お互いの恋愛に対する価値観の違いだから仕方がないんじゃないか? 俺的には会ったこともない奴と婚約して、それを仕方がないの一言で割り切れる女の気が知れないっていうか……理解ができないから受け入れられないんだよ」


「そもそもそれが誤解なのよ! 婚約したから、その人を受け入れたとかじゃないのよ?」

「婚約したならいずれ結婚するんだから、同じようなものだろ?」


「全然違うわよ! 婚約は勝手に親同士が決めただけで、中学生の私にはどうすることもできなかっただけよ。だからといって私は会ったこともない彼を頭から拒絶もしないわ」


「親が勝手に決めたとか言いながら、拒絶しないとか……訳分からないんですけど」


「龍馬君は、向こうの世界では菜奈ちゃんと結婚する気はなかったんでしょ?」

「ああ、そうだな。できれば可愛い妹として見ていたかった。でも菜奈のことはこの話に関係ないだろ」


「仮になんだけど、向こうの世界で龍馬君が誰かと結婚しても菜奈ちゃんは諦めきれずにずっと独身でいるとするね。それを見かねた両親が、龍馬君にお見合い相手を探してくれと言ったら、どんな相手を探してくる?」 


「それは勿論、菜奈を幸せにしてくれるような良い男を……あっ!」


「流石ね、皆まで言わなくても自分で気付いたようね。私の両親も龍馬君が菜奈ちゃんを想うように私のことを想って探してくれている筈なのよ。特にお父さんは私のことを溺愛してるし、嫁ぐのではなく婿取り、後継のこともあるから城崎財閥の総力を挙げてお相手を探し出した筈よ。お父さんのお眼鏡にかなった人なんだから、歳は3つ上だけど良い人なんだと思う。だからと言って父の薦めだけでその人と結婚するって話じゃないのよ? 一度その方とちゃんと会ってみて、自分の目でじっくり判断しようと思っただけなの。もし結婚とか考えられないような相手なら、家を捨ててでも全力で拒否するつもりだったよ。貯金も1500万ほどあるし、いざとなったら家を出て自活するくらいの気でいたわ!」


「う~ん、そういう考え方もあるんだな。確かに、家の事情があるとはいえ、可愛い娘に変な男を見繕ったりしないよな。俺、ちょっとラノベやゲーム脳的思考になっていたみたいだ。相手が良い男という可能性を考えてなかったよ。ちなみに桜はこれまで男の子を好きになったことはないのか?」


「あるわよ。私の初恋は保育園の時ね。同じ緑組の『みつお君』が初恋だと思う」

「その、『みつお君』とはどうなったんだ?」


「え? なにもないわよ? 私、小学校に上がる時と小学5年の時に転校しているの。お父さんの会社が大きくなる度に自社ビルの場所が変わるものだから、それに合わせて住居も変わったんだよね。『みつお君』とは告白すらなく、卒園以来会ってないよ。と言うより……『みつお』って名前に漢字があるはずなんだけどそれすらどんな字か知らないぐらいよ? 保育園児の恋とかそのくらいのレベルでしょ?」


「確かにそうかも……物心ついてからはないのか?」

「中学2年生ぐらいからかな……最初いいなって思っても、話してるうちに嫌になるのよね。ちらちらと胸ばっかり見て、ちゃんと目を見て会話しろ! って思うともう駄目。恋愛感情にまで発展するような人はいなかったわ」


「ご、ごめんなさい! でも仕方ないと思うのです。あなたのそれは、【チャーム】の魔法が付与されているのではないでしょうか? 男に見るなと言われても、厳しいかと?」


「チャームの魔法とかそんな訳ないでしょ!」

「てか、俺も結構見てるけど、それはいいのか?」


「あなたの場合、チラ見とかいうレベルじゃないでしょ! ガン見じゃない……恥ずかしいってのはあるけど、そこまで堂々と見られたら嫌って視線じゃないのよね」


「それは桜が龍馬に気があるからじゃのぅ。好きな男に見られても悪い気はしないが、好きでもない男がチラ見したら見るなと思うのは当然じゃ」


「う~ん。桜の好きってレベルがどのくらいなのかがさっぱりなんだよな。他の娘と違ってそんな気配なかっただろ?」


「兄様が気付いてないだけで、桜先輩はチラチラ見ていましたよ。好きっていうより興味津々って感じでしたので、先日の婚約者騒動でもう桜先輩ルートはないと思って無警戒でした。まさかここで敗者復活してくるとは……学園アイドル恐るべし!」


「誰が敗者よ! もう……」


「で、桜は龍馬のことが実際どのくらい好きなのじゃ? なんとなく好きって程度じゃ妾たちのハーレムに入れるのは拒否させてもらうぞ。妾もできれば独占したいというのが本音じゃからのぅ」


「う~ん、龍馬君見てたら、押し倒したいとか、抱かれたいとかいうくらいのレベル?」

「桜それって……お前そういえば排卵日じゃないのか! 単に一人しかいない男に欲情してるだけだろ!」


「違うの! 違わないけど、違うのよ! もともと白石龍馬って人の名前には興味があったの。茜に聞くといいわ。私は理知的な人が好きなの、1学期の中間テストと期末テストの成績貼り出しでいつも私のすぐ後ろにいたでしょ? 2学期の中間テストで急に名前が見えなくなってたので、どうしたのかなってぐらいには興味あったのよ。決定的だったのは『もしもフォルダ』。私と同じような思考回路している人がいるとは思っていなかったので、あの話を聞いてからはどんどん惹かれていったの。そのなんて言うか、私がオタク気質なことは表には出さないようにしていたから、龍馬君との会話って凄く楽しいの……」


「そういえば桜との会話は、オタク全開で俺も楽しい」


「それは本当ね。実際テストの校内ランキングの貼り出しの時に桜が言ってた言葉だからね。急にランク外になったからどうしたんだろうねって言ってたわ」


「ああ、事実は佐竹たちに蹴られて、ろっ骨をやられて熱で苦しんでいたんだけどね。全身打撲による発熱だね。正直テストどころじゃなかったんだ。あれ、下手したら死んでたよ」



 俺の話を聞いて菜奈や雅たちから殺気が漏れ出したが、フィリアが上手く逸らしてくれる。


「龍馬よ、どうするのじゃ? 桜も其方の嫁に加えるのか?」


「正直嬉しい。婚約者云々で桜を好きにならないようにと、ちょっと避けてたけど、さっきの話を聞いた限りでは、俺が勝手にゲーム脳的に忌避してただけのようだし。でも、ちょっと保留かな。今はダメな気がする」


「どうして今はダメなの!? 私は即断できるあなたが好きなの! ちょっと理屈っポイとこもあるけど嫌味にならない程度だし、今回も好きか嫌いかはっきり決めてよ! 待たされるのは嫌よ!」


「桜が排卵周期じゃなければ即OKだ。俺も桜のことは好きだと思う。俺も理知的な女が好きだからね。桜に文句のつけようがないよ。でも、排卵中はダメだ。周期が抜けてから冷静な状態でお互いに答えを出した方が良い。俺の相談ってのもそのことに関する案件だ」


「どういうこと?」

「桜はいま俺と夜のテントで二人きりになったとして、我慢できそうか?」


「それは……」

「集団で同じ部屋に女子ばかりでいるから、結構我慢できるんだろうけど。それでもきつい娘もいるんだろうと思う。沙織ちゃんはどうだった?」


「一番きつい日は過ぎましたが、今もまだちょっと先輩を見てたらムラっときます。排卵日と思われる一昨日は相当きつかったです」


「やっぱそうなんだ……そこで提案なんだけど、女子寮のC棟に引っ越すか、排卵周期に入った者に個室を与えるとかの対処がいると思うんだ。でも下級生はみんなで一緒に寝た方が安心なんだよね?」


「私もそのことは考えたんだけど、女子寮の二人部屋で真っ暗な中過ごすのは嫌だっていうのがほぼ全員の意見よ。本当は龍馬君にも茶道室で寝てほしいってのが女子の総意なんだけど、流石に厳しいでしょ?」


「なんだ、そういう話も既にあったのか。やっぱ一緒に寝るのはちょっと厳しいかな。性欲の鎮め方には何パターンかあるんだよね。男子はとりあえず出せば治まる。女子の方は効果が強いものから弱いものまでいくつかあるんだけど。鎮め方はこんな感じだ」


 1、性交により男性の精液を膣で受けて絶頂を迎える

 2、前戯的行為で絶頂させてもらう

 3、自慰で絶頂する

 4、精飲する


「性欲が鎮まるのには個人差があるようだけど、順位付けたらこんな感じらしいんだ。ぶっちゃけ満足度が強ければすぐ治まるんだよね。4番の精飲なんだけど、これはちゃんとこの世界では薬として薬師ギルドや雑貨店でも売っているらしい。精液も個人香のように一人一人味や匂いが違うらしくて、ブルセラショップのように顔写真入りで販売されてるんだって。若くてかっこいい男のそれは人気があって高値で売買されるそうだよ。勿論その精液は加工されていてそれを膣に流し込んでも妊娠とかはしないようにされているようだけど」


「精液飲むの? 苦いとかネバっとして喉に絡んで不味いとか聞くけど?」


「向こうの世界じゃそうなんだろうけど、こっちの世界じゃ安いモノだと一本500ジェニーから薬として売っているようだね。一度の射精で3本ほどの量がでるし、ドロッとしてなくてサラッとした感じかな? 他の人のは知らないけど、飲みにくいって感じはないようだよ。25歳以上の処女の女性は相当きついようなので、結構普通にこの世界では売買されているそうだよ」


 精飲の話は不評だったが、効果はあるのだから、今度誰かに飲んでもらって効果を検証するとしよう。一度皆にも試してもらわないことには分からないだろうし、効果の個人差があるのかとかも気になるので検証は必要だと思う。こっちの世界では、生理痛が激しい人が鎮痛薬やピルを飲むのと同じ感覚らしい。



「桜の話はとりあえず保留で良いのじゃな?」


「嫌よ! 私は今日がイイの! こんな大勢の前で雰囲気も何もない告白になっちゃったのは私の失態だわ! 私にも乙女チックな夢があったのよ! 高層ビルの屋上で夜景を見ながらディナーの時に告白されるとか、サンセットビーチの夜の海で星空を見ながら、波音をBGMにそっと好きだよって告白されるとか、元旦に初日の出を見に行って、昇る朝日を見ながら来年は赤ちゃんを連れてまた来ようねとか言ってほしかったの!」


「「「うわ~桜先輩乙女~」」」


「はぅ! また墓穴を……せめて龍馬君の誕生日の今日って思い出にしたいの!」


 俺の誕生日の日が良いとか……ちょっと可愛いではないか!

 桜の方を見た瞬間、心臓が鷲掴みにされたようにキュッとなった!

 見ればつーっと桜の頬を一滴の涙が落ちているではないか!


「「「龍馬先輩、落ちたね……」」」

「兄様……撃沈!」

「ん! ダメだこりゃ……クリティカルヒット!」

「「この人に敵う気がしない」」



「桜! 俺と結婚してくれ! 俺は欲張りのようだ。こんな良い女、他の男に譲れるわけがない!」


 桜は16歳、婚約ではなく嫁に成れる年齢だ。

 誕生日の夜はまだ終わらない。

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