欠片 谷口久士
はあ……。まーた、やっちまったなあ。どうしてもうまくいかない。安全見込んで、かなりシンプルなトリックにしといたんだけどなあ。それでもダメかあ……。
一万円札を畳んで、鋏入れて、切り刻んで。破片を開いたら、元の一万円札が出てくるってやつ。どうしようもないくらいのオヤクソクだよなあ。
でも、広げて出てきたのは漱石さん。やってる俺が思わずどん引いちゃった。お客さん、カンカンだったなー。もちろん弁償したけど、雰囲気台無しにしちゃったよ。この前は、本当に本物の万札を切り刻んじゃったから、それよりゃまだマシか。
師匠にも、またこっぴどく怒られちゃった。お前の芸はクソみたいなもんだって。そうだよなあ。言い訳のしようもない。
はあ……。自分でも情けない。本当に情けない。ギャラもらって、プロとしてやる仕事じゃないよな。もう止めようかって何度も思ったけど、ここまで好きでがんばってきたのに放り出しちまうのもなあ。
でも、本当にどうするかなあ。このまんまじゃ、お声がかからなくなるか、際物で売るしかなくなっちまう。それはちょっとなあ。一応、魅せるってのが目標だしなあ。
はあ……。それにしても、どうしてうまくいかないんだろ。今回のネタだって、今まで散々やり古したネタだよ。小ネタで中に組み入れてる時には、一度も失敗したことなんかない。でもキメで使うと、たちまちこの有様だもんな。
練習では絶対失敗しないところで、必ずとちる。別にあがってるわけでもない。キメ直前までは、ばっちりうまくいってるんだから。でも、ここぞって時には、なぜか大失敗すんだよなー。なんでだろ?
うーん。うーーん。うーーーん。
あーもー、考えたってしょうがない。とりあえず、半月で愚痴ってこよっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます