閑話237・『乳離れをしない勇気』

母親では無い、まあ一部であるから血は繋がっている、この身はキョウから生み出された。


キョウの体を構成する細胞の一つが自身の細胞である事も自覚はしている、自覚はしているがそれでもなぁ。


まさか授乳係に任命されるとは思わなかった、灰色狐が凄まじい目で睨んで来たな、キョウの『中』でも具眼化は可能だ。


湖畔の街に似た互いに干渉出来る場所もある…………しかしそこで灰色狐にあんなにも……母親のプライドとはあのようなものか。


問答無用で『グーパン』が飛んで来た、この身は最弱、精神世界の出来事は現実にも直結する場合もある、特に自分のような脆弱な身ではな。


そこは見事にキクタが足払いをして顔面から灰色狐が地面に『着地』して終了したなあ、あれだな、大根おろしだ、うん、鼻血も出てたし、紅葉おろしか?


「と言うわけだ、些か状況がまずい」


「ちゅー」


「擬音で答えられると凹むな」


「んー、しかし美味い、お腹たぽんたぽんになる」


「つまりだな、早く灰色狐にも同じ事をしてやりなさい」


吸われる、奪われる、生産される、エルフライダーの能力で変化したのかそれとも学者業で今まで封じてた『母性』が爆発したのかそれはわからない。


だけどキョウが求める限りは与えよう、しかし胸の膨らみに変化が無い事が少し怖いし少し残念だ、まあいいか、そもそも自分の体に期待した事は無い。


餌やり係の彼女からも睨まれるし、しかも彼女の場合は『中』でまだ具現化出来無いから現実世界で睨まれる、傷付きはしないが今更母乳とはと流石に思う。


「乳離れまで待つしか無いか……気の遠くなる話だな」


「ちゅーちゅー」


「くすぐったい」


「灰色狐はなぁ、しても良いけど……ここにあるし」


「ああ、それでもしてあげたほうがいいな」


「ええー、飲みかけがあるぜ」


「まさか自分の胸が『飲みかけ』と言われる日がくるとは思わなかったよ」


「飲みかけだろ?ちゅー」


「あん」


「王子様の祟木も卑しく鳴くんだな、おもしろい」


「そ、そうか」


キョウが喜ぶなら何でもいいか、しかし灰色狐だけはどうにかしないと……襲われるのは素直に嫌だな、しかも涙目でプルプルしてたし。


あれはな、心が痛む。


娘を奪われた小動物。


「うまーい、くふふ」


「はは、好きなだけ飲め」


その為のモノだから。

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