第397話・『ゲロハンカチ』

人のいない場所で魔物に襲われる機会が増えた、グロリアとの合流まであと少しなのに厄介事を抱え込んでしまった。


理由はわからない、あの洞窟の件がずっと尾を引いているようなそんな感覚、魔物の血はファルシオンに良く馴染む、俺も喜びファルシオンも喜ぶ。


グロリアに説明したら涼しい顔で『それで?』と言われそうだ、魔物が襲って来ようが襲って来なくても彼女にとってそれは関係無い、旅の障害にはならない。


洞窟の時もそうだったけど人目を避けているのならその裏に誰かがいる事は容易に想像出来る、人間に気を使う魔物って珍しいよな、だとすれば魔物を使役出来る特殊な人間?


首を傾げながら魔物を蹂躙する、って終わりか、前回と同じく蛞蝓型の魔物、食欲はそそられ無いが奪った命は吸収する、ずるるるるるるるる、麺類を啜るかのような効果音、美味しく無い。


「こらこら、変なモノを拾い食いしては駄目なのだ」


「勿体ないだろう」


「え、餌は土岐国栖(ときくず)のお仕事なのだ」


「へへん、拾い食いしちゃうもん」


「あ、あーーーー、あーーーー、だ、ダメ」


「もぐもぐもぐ、うえぇええ、まじぃ」


「言わんこっちゃ無いのだ」


「おろろろろ」


「………あーもー、ほら、お口拭いて上げる」


「に、睨むな」


「そりゃ睨むのだ」


美しい色合いの瞳が細められる…………瞳の色は御空色(みそらいろ)で澄んだ色合いの秋空のような薄く儚い青、御みは人間の範疇を凌駕した神や自然を讃えるためのソレだ、神聖なものや人間の力ではどうしようも無い存在を表すために使う接頭語の一つ。


尊称として使われるソレを名に含んだ色。


「可愛い瞳で睨まれても怖く無いぜ、うげ、にがい」


「ふきふきふき」


「ほ、褒めたのにそれを無視して顔拭きつかゲロ拭きかよ」


「キョウは汚物に塗れても綺麗だゾ」


「なにそれ、あんま嬉しくねェ」


ゲロ塗れで綺麗って矛盾してないか、汚くて綺麗って事だろ?意味がわからずに土岐国栖の腋に手を差し込んで持ち上げる、クロワッサン状の尻尾がだらりと垂れ下がる。


良く見ると小刻みにピコピコ震えている、え、捕食されんの俺?


「どうしたよ、ゲロ塗れの主を見てご機嫌とは頂けないぜ」


「綺麗に拭いたゾ、ほら」


ゲロ塗れのハンカチを差し出されて即座に顔を背ける俺、べちゃ、ハンカチが地面に落ちる……下品な音、嫌悪感を煽る音、俺のゲロの音。


こんなにも汚い俺と、その汚い俺を綺麗にしてくれる綺麗なお前。


「そろそろこの魔物狩りも飽きたな、殺すか」


「後ろにいる奴を?」


「そう、後ろにいる奴を正面からぶち殺す」


「あのハンカチ洗ったらまた使えるかな?」


「や、やめてください」


「キョウに汚い所は無いのに」


ゲロは流石に汚いぜ。

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