閑話 聖剣アルフィリアによる『勇者改造計画』
『ベヘモットの事件から三日後』
『黒曜の剣』とソウシは、スト村で報酬と共に頂いた馬車に乗りながら、マグルへの帰路に就いていた。
切り離されたハピーの腕は再び結合する事に成功し、最も重傷だったロングイテは未だ目を覚まさないが、一命を取り留めている。
MP回復薬を全て使い果たし、ステインも魔力欠乏に陥った為、馬車の内部で身体を休めていた。
「お疲れ様! 御者は私に任せて休んでなよ」
「自分か思うに……もう限界だ……」
横たわったまま、治癒術師は眠りに落ちた。その様子を見つめながら、ピエラは視線をずらす。
(まだ、起きないかぁ)
そこには泥のように眠ったまま、目を覚まさない少年の姿があった。
冒険者達は仲間の回復も含めて、本当はスト村で休息を取ってから出発したかったのだが、ベヘモットを倒した日の夜、ソウシの様子が変貌した事から王都に戻る事を決めたのだ。
ーー外傷は無い。だが、明らかに肉体の内部から襲う激痛に苦しんでいるのだと外目から理解出来る程に、身体中に血管が浮かび上がっていた。
今にも弾けて血液を噴出させそうな痛々しい姿。
(一刻も早く、国の上級術者に診てもらわなきゃ……)
ハピーはそんなピエラの哀しげな表情から、好奇心を刺激される。
「ねぇ〜? 本気なの〜?」
「ーーーーッ⁉︎」
「今は私達しか起きてないし〜? 本音を言っても良いと思うけど?」
「い、や、よ! あんたに言ったらみんなに暴露するも同然じゃない」
「ブーブー! 酷いよ〜! 私だって秘密にして欲しい事は黙ってるんだからね〜?」
「……じゃない……」
「え〜? 何て言ったの〜?」
躊躇い半分に、ガールズトークの雰囲気にのまれたピエラは、つい本音を滑らしてしまう。
「お姉ちゃんと同じ歳なんて言い方されたら……無理じゃない?」
「それは……グサッとくるね……」
からかうつもりだったハピーは、自分ならと想像した時に『冗談じゃない』と苦笑いした。
「行きには意識してなかったから何も感じなかったけどさ……今は重くのしかかってるわ」
「現実って時に女に対して残酷だよね〜」
「分かってくれる?」
「分かるよ〜! 私は気絶してて殆ど見れなかったけどさ〜、魔獣にとどめを刺した最後の一撃凄かったもんね〜!」
「だよね⁉︎ あの時のこの子、めっーーーちゃ格好良かったよね⁉︎」
「うんうん〜! ピエラが惚れるのも分かるよ〜!」
ーーその後、女冒険者は胸を高鳴らせて、幼い頃に読み聞かされた各々の英雄譚を語り出した。
現実に存在した『勇者』、そしてまるで物語のヒロインの様に命を救われた事実。そこへーー
「でしょう? マスターは格好良いんです!」
「「えっ??」」
ーー突如話に割り込んだのは、人化したシャナリスだった。ソウシと同じ艶やかな黒髪を靡かせた美姫は、ウットリとした表情のまま頬に手を添える。
「あ、あんたはスィガの森で会った人よね?」
「あの時は申し訳御座いませんでした。Sランク魔獣との戦いに貴女を連れて行けないというマスターの想いから、多少厳しく言わざるを得なかったのです」
「もう気にしてないよ。逆に感謝してる位かな。私が無事でいられるのは、えっと……シャナリスさん? のお陰だって思う」
「全てはマスターの御心に従ったまでですよ」
女性ですら美しいと見惚れる程の妖艶な色気を放つ女性を見て、ハピーは生唾を飲み込んだ。
「そ、その胸には一体何が詰まっているのですか〜?」
「あら? 殿方の夢と希望ですよ」
「な、なんと⁉︎」
漆黒の剣の貧乳二人は、一瞬だけ自らの胸を掌で滑らせて崩れ落ちる。
「私達には夢と希望を抱かせる力が足りないのか……」
「言っちゃだめ〜! まだ伸び代はある筈なのよ〜!」
儚い想いに縋り、顔を上げた直後に絶句する。今度は見知らぬ幼女が増えていた。
「ふああぁぁぁ〜! 漸く終わったよ〜!」
「ご苦労様。無事にマスターの改造は終わりましたか?」
「まぁまぁかな! ビッチもステータス見る?」
「是非!」
「ほいほい! こうして僕が人化出来る様になったのも、レベルが一定以上まで上がってくれたからだしね」
「「………………誰?」」
首を傾げる女冒険者に自己紹介すらせず、一仕事を終えたかの様にあくびをした白髪銀眼の幼女は、ツインテールをクルクルと回しながら、くたりとシャナリスの太腿に横たわった。
「うん! 良い枕だな!」
「…………」
黒髪の美姫は黙ったまま、差し出された羊皮紙に夢中になっている。
両隣から覗き込む様に、その内容を見たピエラとはハピーは青褪めた。
__________
【名前】
ソウシ
【年齢】
15歳
【職業】
勇者
【レベル】
76
【ステータス】
HP 6310 (15310)
MP 4720 (13720)
力 5231 (14231)
体力 4965 (13965)
知力 4220 (13220)
精神力 2012 (11012)
器用さ 5108 (14108)
【スキル】
闇夜一世
聖剣召喚
魔剣召喚
身体強化
限界突破
見切り
守護
天剣
ゾーン
逃走
共鳴狂華
【魔術】
アポラ→アポラセルス
セイントフィールド
ダークフレイム
デスブリザード→デスデアルブリザード
ナイトウインド
テラアースブレイク
【称号】
選ばれし勇者
聖剣を宿す者
魔剣を宿す者
最速の逃げ脚
絶望に囚われた光
無人島の王
巻き込まれ体質
奪われし唇
枯れぬ涙
お姉様キラー
天然ハーレム製造機
天を貫きし者
_________
「な、何このステータス……」
「レベル70越えとか……初めて見た……」
顎が外れそうに驚愕した女冒険者を無視して、聖剣と魔剣の打ち合わせが始まる。
「中々良い具合ですね? 私としてはもう少し力に振って欲しいものです」
「ん〜! それは僕も同意見なんだけどね。ご主人の場合はまだ基礎が危なっかしいからバランスは保ってるつもりさ」
「それにしても……この精神力の数字は……」
「僕も頑張ってるんだけど……上がらないんだよね。封印のチョーカーは元々僕の力を封印するものだから、ご主人のステータスに影響は無いって盲点を突いた所までは良かったんだけど……」
「元々のマスターの上昇率が低すぎると?」
「その通りなんだよ。まぁ、こればっかしはねぇ」
「えぇ、しょうがありませんか……」
アルフィリアとシャナリスは、寝ながら呻いている主人を見つめて溜息を吐いた。
「レベルが90位になったら、ご主人のムキムキ計画を始めよっか」
「良いですねぇ〜。肝心の本人はステータスなんて見ないから、自分の変化に気づいて無い所が好都合です」
「「ふっふっふ!」」
悪巧みを企む幼女と美姫の背後では、ハピーとピエラが震え上がっている。
こうして『勇者改造計画』は手に入れた経験値の変換と共に、聖剣の思惑通り着々と進んでいるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます