第33話 学期末対抗戦 3

 

『Aクラス模擬戦の翌日』


「改めて、対抗戦のルールを説明するわよ。判らない事があったらしっかり質問する様にね」

 アイナが魔力板に文字を浮かび上がらせて、説明を開始する。


 生徒達はノートに内容を書き込みながら、真面目にルールを覚えようと授業に取り組んでいた。対抗戦に出ない者達も、サポートをする必要があるからだ。


 __________


 ・各クラス王を一人選定する。その者は王冠を被り、奪われない様にしなければならない。


 ・アタッカーとディフェンダーは、二人一組でペアを組んで行動する。


 ・アタッカーは『剣』で攻撃を、ディフェンダーは『盾』を持ち防御を担当する。


 ・一定量の魔力や衝撃を受けて『剣』、または『盾』を破壊された時点で、その者は失格となる。


 ・王は冠を奪われないかぎり、『剣』と『盾』で攻撃も防御可能。


 ・魔術の使用はシン級迄とする。メル級は詠唱禁止。


 ・相手の身体に魔術を放っても、そのダメージは全て『剣』と『盾』に収束される。


 ・制限時間内に勝負が付かなかった場合、残った生徒数で勝敗が決まる。


 ・一度決めて提出した生徒の役割は、負傷などやむを得ない理由が無い限り、変更を認めない。


 ・学院側が決めた結界のエリアを出る事は禁止する。


 __________



「ざっとこんな所ね。質問はあるかしら?」

 生徒達は一番気になった事を質問した。

「アタッカーもディフェンダーも、攻撃を受けたら剣と盾が吸収してくれるんですよね? 役割を分ける意味は一体何ですか?」

「単純に強度が違うのよ。剣は魔術を放つ媒体にもなっているんだけど、その分脆くて壊れやすいの」

 アイナの話を遮る様に、ベルヒムがソウシヘ語り掛ける。


「ソウシ君。おら達のクラスのハンデが大き過ぎる理由はそこなんすよ。五人中一人が王、アタッカーとディフェンダーは二人一組、つまりアタッカー二人、ディフェンダー二人に絞られるっす。つまり、敵は必然的に、先にアタッカーを潰しに来るっすよね?」


「そうか……アタッカーが居なくなれば、攻撃の出来ないディフェンダーが残るだけだもんね」

「そしてその状況に持ち込まれた時、攻撃出来るのは王であるソウシ君だけになるっす」

 この時ソウシは漸く王の重要性と、ハンデの重さを理解した。


「誰か……王を変わって下さいませんか?」ーー

 ーー「「「「絶対嫌です!」」」」

 生徒達は怯える王の提案を声を揃えて全力で否定する。

「大丈夫にゃ。ソウシが逃げてる間にあたいが敵の王冠を奪いとって圧勝にゃ!」

「サーニア、今日ほど君の事を頼もしいと思った日は無いよ」

「えへへっ! 照れるにゃよ〜」

「はいはい注目! 話が逸れたけど、取り敢えずうちのクラスはアタッカーをメルク、サーニア。ディフェンダーをドーカム、ベルヒム。王をソウシが担当するのよ。異存はある?」


「はいっ! 僕のポジションに異議を申し立てます!」

「誰も居ない様ね。じゃあ、授業に戻りましょうか」

「はいっ! はいっ! ほら、手を挙げてますよ先生!」

「今日は魔術の等級についての授業を行います。実践を踏まえて変化を見せるので、訓練場に移動しましょうか」

「あれ? おかしいな、聞こえてない?」

「……ソウシ? いい加減にしなさいね」

 アイナは微笑んでいたが、一切目が笑っていなかった。

「は、はいぃっ! すいませんでした!」


 その日から、放課後にはクラス内での模擬戦が繰り返された。ソウシは逃げるだけだが、悪い意味で目立ち過ぎている。

 各クラスの偵察は模擬戦を見た瞬間、Aクラスへの対策を練り始めた。そして、それこそがベルヒムの狙いでもあったのだ。


 __________


「模擬戦を敢えて見せつけるっすよ! 他クラスの注目をソウシ君に集めて、サーニアとメルクの実力を隠すっす!」

「なるほど……やっぱりベルヒムは頭が良いな」

「……問題は彼がそれを了承するかね」

「メルクさん。言う必要がない事は言わなくて良いんすよ。だから二人にだけ話してるっす」

「……了解」

「下手すると逃げ出し兼ねないからなぁ。あいつの性格を良く分かってるじゃないか」

「……ずっと観察してましたからね」

 ベルヒムは一瞬視線を落として真顔になったが、すぐさま元に戻る。


 三人は悪どい顔をしながら密談を続けていた。食事の為にも絶対に負けてたまるかと、固い決意を胸に秘めたままに。


 ソウシはサーニアと共にひたすら山を駆けていた。その速度は並みの生徒達の比ではない。

 模擬戦自体がクラスメイト達にとって、図らずも良い特訓になっていたのだ。


 __________



『えぇ、勇者の封印は解けておらず、聖剣も沈黙したままですね』

『対抗戦とやらの最中を狙うのを貴様は否定するが、一体何故だ?』

『今下手な真似をして勇者を刺激すれば、きっと我々に対して牙を剥くでしょう。聖剣が目覚める様な事があれば、眼も当てられない』


『ふむ、取り敢えずは引き続き報告を続けてくれ。こちらでも、レイン様が勇者ヘの対抗策を考えている』

『絶対に生徒達を巻き込む策は認めちゃいけない。確実に彼が目覚める。それに不確かな情報ではあるが、妖精の巣穴を消し去ったという話を聞いた。これは眉唾だけどね』


『はははっ! ダンジョンを消し去って無事な訳があるまい。それは誤情報だな』

『そうであって欲しいね。では、また情報が集まり次第報告するよ』

『あぁ、宜しく頼むぞ』


 念話石の光が失われた後、学院寮の窓際に佇みながら魔族は一言呟いた。


「ソウシ君……時間はあまり無さそうっすよ……」


 __________



「いい加減に、捕まれぇ!」

「そっちに逃げたわよ、アタッカー! 回り込んで!」

「い、いない⁉︎ 確かにこっちに来た筈なのに!」

「あれ? 反応が消えたぞ?」

「もうあいつを人間だと思うな! 猿だと思え!」

 ソウシは逃げ続ける。何日経っても捕まえられない生徒達のフラストレーションは、限界に達しようとしていた。


「猿とか……みんな酷いよ……」

 ソウシは遠い目をしながら、木陰に気配を隠して座り込む。

「一回位、捕まった方が良いのかなぁ?」

 わざとでも気を使った方が良いのか、答えを出せないまま黄昏ていた。こうして日々は過ぎ、いよいよ本番を迎える事となる。


 ーー学期末対抗戦が、始まりを告げた。

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