第34話 学期末対抗戦 4
『対抗戦当日』
学院長室でドールセンと共に水晶球から映し出される対抗戦の映像を見ているのは、聖騎士長ガイナスとソウシの姉、セリビアだった。
そして、何故か本来不正が無いかを見張る為に、フィールドに出ている筈のアルティナがいる。
対抗戦の様子はフィールドに浮かんでいる水晶球から、学院で観戦出来る様になっているのだ。不参加の生徒達も自らのクラスで映像を眺めながら、始まりを待っている。
「あぁ……ソウシったら大丈夫かしら? あの子、臆病だからきっと緊張で震えてるわ」
「まぁまぁ、彼の成長を見る良い機会なのですから、楽しみにしてましょう」
「ほっほっほ! あの子の顔付きは日に日に精悍さを帯びておるよ。クラスメイトとも漸く打ち解けた様じゃし、最近は一年生の女子の間で人気まで出てきておるらしいぞ?」
「えぇ⁉︎ あの子がですか? 姉としては正直信じられないのですけど……」
「大丈夫ですわお姉様? 未来の夫に近付く邪魔な虫は、私が燃やし尽くして消し炭にして差し上げますから」
「ところで、どうしてお主がこの部屋におるのじゃ? 呼んだ覚えも無いし、二年と三年のAクラスの生徒は監視と水晶球への魔力補充も含めて、フィールドにおる筈じゃろうが」
「あら! 私も散々迷ったのよ? ソウシの勇姿を直ぐ近くから眺めるか、お姉様に挨拶するかね。結果として、偶にしか会えないセリビアお姉様が優先されただけよ」
自信満々に胸を張って答えるアルティナに対して、ドールセンは目頭を手で抑えながら溜息を吐き、セリビアはーー
(一体何の事を言ってるんだろう? どうしていきなりお姉様とか呼ばれてるの?)
ーー首を傾げながら、困惑していた。
「まぁ良いじゃろう、他ならぬ孫の我儘じゃからのう。」
「ありがとうお爺様! その私に甘い所が大好きよ」
「おや? その女性はドールセン学院長のお孫さんだったのですか。それにしてはエルフの特徴がない様な気が……」
「この子は儂の娘の子供じゃ、夫は人族じゃからハーフエルフなんじゃよ。顔も身体も魔力も、我が血族の良い所ばかりを最大まで受け継ぎよった」
「ほえぇ〜! どうりで綺麗な子だと思ったわ」
「ありがとうございますお姉様。弟さんの将来の妻として、励む所存に御座います」
セリビアとガイナス、更にはドールセン迄もが、その台詞に目を見開き愕然としていた。
突然妻になると言い出した眼前の美少女と、我が弟はどういう関係なのか、と。
「そ、ソウシとは一体どんな関係なのか、教えて貰って良いかしら?」
「口付けを交わし、将来を誓いあった仲ですわ?」
ーーパキィィィンッ!
ガイナスが口に運ぼうと手にしていた、紅茶のカップが突然割れる。
「は、はははっ、はははははっ! 猫耳少女の次は、ハーフエルフの美少女……だと」
突如、聖騎士長の身体から怒りの闘気が巻き起こる。
セリビアは逆に目を細め、遠い過去の憧憬に想いを馳せながらーー
(私の弟は、随分遠い所まで行っちゃったんだなぁ……お姉ちゃん……寂しい)
ーー脳内で自分に甘えてベッタリだった、可愛い弟の面影に浸っていた。
話題の中心人物は自らのあずかり知らぬ所で、そんな事が起こっていたなど想像だにしていない。
映像には、緊張に身体を震わせたソウシが映し出されていた……
__________
「何でだろう? 凄く嫌な予感がする……」
「緊張してるにゃ? あたいに任せておけば平気にゃよ!」
「各クラス、事前に決めていた地形で陣形を整え始めたな」
「うっす。大体おらの予想通りっすねぇ」
「……ベルヒムの頭の良さには敬意を表するわ」
Aクラス代表のソウシ、サーニア、メルク、ベルヒム、ドーカムの五人は、フィールドの中でも木々が多い地形で、最後の作戦会議を立てていた。
一年生のAからFクラスまでの代表生徒も、各々が事前までに行ってきた模擬戦で、最も適していると思う場所へ陣形を敷いている。
対してこちらは五人しか居ないのだから、陣形の必要すら無い為準備に時間は掛からなかった。
「さぁ、ソウシ君。ルートは覚えたっすか?」
「アレだけ叩き込まれれば、流石に大丈夫だよ!」
「サーニアさんは遊撃、メルクさんは遠距離魔術、ドーカム君は詠唱中に無防備なメルクさんのディフェンス、おらは各クラスの戦況を確認しながら指示を出すっす!」
「「「「了解!」」」」
「万が一にも、サーニアさんとメルクさんがやられた時はソウシ君、君だけが頼りっすよ!」
「だが断る!」
「「「へっ⁉︎」」」
メルク、ベルヒム、ドーカムの三人は、突然の王の宣言に目を丸くする。サーニアだけがドヤ顔で頷いていた。
「今こそ教えてやるにゃあ! ソウシは元々あたいとメルクがやられたら降参するにゃよ! みんなが怒ると思って、今日まで黙っていたにゃ!」
「代わりに僕の想いを伝えてくれてありがとう。そういう訳だから宜しくね!」
爽やかな笑顔を向けるソウシに対して、三人は深い溜息を吐いた。
確かに本番前に言われてしまっては、ソウシの性格上説得は間に合わない。
ーー『してやられた』と感じてしまったのだ。
「はぁ……取り敢えずはアタッカーがやられなければ問題は無いっす。予想だとBクラスは様子見、Cクラスは真っ先に王を狙って来るから、第一目標にするっすよ」
「分かった! ソウシは対抗戦が終わったら説教だからな!」
「……きついお仕置き決定」
「うっ! 捕まらない様に頑張るから許してよ〜!」
こうしてソウシ達は打ち合わせを終えた後、対抗戦の開始を待っていた。
ベルヒムやAクラスの待機生徒達は、D、E、Fの下位クラスは一つでも食事のランクをあげる為に、こちらには向かって来ずに、潰し合うだろうと結論を出している。
そして戦うべきはB、Cクラスになると思い込んでしまっていた。
ーー予測は、大きく外れる事になるのだ。
__________
対抗戦開始の魔術が上空放たれた瞬間、各クラスのアタッカーはあろう事かソウシにのみ標的を絞り、一斉に駆け出した。
模擬戦で王を目立たせて、各クラスの注意を惹きつけるという作戦は間違ってはいなかったのだーー
ーー対象が、ソウシでさえ無ければ。
各クラスの偵察は、Aクラスの生徒達が全力を出しても捉えきれ無い王の姿見て、驚異だと感じ過ぎた。
己のクラスだけでは絶対に勝てないと判断したその時、他クラスとの同盟を組む事に成功していたのだ。
『先にAクラスの王を全クラスで潰す』
開始直後にその事実を理解したベルヒムは、宙を見つめながら呟いた。
「やり過ぎたっす……どうしよう……」
そんな事を何も知らないソウシは、自分に迫る数が多過ぎる事に戸惑い、最早半泣きだった……
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