伴奏曲9

 それがこの島の繰り返しだ。

 病院は一応ある。

 予防接種もしっかりとこの島にはある。税金がない代わりにすべてが自腹だ。

 しかしこの島は上流階級のリゾート地だけあって裕福だ。

 貧困に困るものがいたら誰かが手を差し伸べる。それでも駄目なら神父がいる。

 ただ急患であった場合はヘリポートがないため、向こう岸の島まで搬送となる。こちらの島に渡るための向こう岸といってもいい島は違う意味で潤っている。この島に比べたら治安が悪いが考えは、あずさの指針そのままにある。

 重き裁きがあるとしたやはりそこも追放のみ。この楽園を追い出される。まるでアダムトとイブだ。

 誰もがその裁きを恐れている。

 死してもなおその考えにそうのが安藤には少し不思議でしかたがない。

 もしかしたら、あずさは生きているのだろうか。

 ジェスチャー混じりの安藤は片言でしか日本語が通じないときはどたばたとした鶏のようだ。手振り身振りであずさのことを聞こうとする。

 仕事の邪魔をしようものなら片手で追い振らわれてしまう。

 この島民の気質は日本人に近い。

 その気質とあずさの考えが重ねあっただけなのだろうか。


 ―-―-過ぎし日々を綴ること、この島に再び悲劇が起こらないことを祈る。



 安藤はまだ完全に体力が戻ったわけではない。

 なんとかしてこの島民達と仲良くなりたいのだが皆忙しいときている。

 夕食時は母親が忙しければ日中は力仕事で夫は日々の暮らしを支え続けていた。

 少しでも休んでいるものがいたら安藤はすかさず話しかけるが「なぜ、働かないのか?」言い返される。

 療養が必要ならば寝ていればいい。元気があるのなら洗濯でも釣りでも軽労働は探せばある。

 ここで安藤は一つ溜め息をついた。

 この島民達と仲良くなるには先ず働くしかない。

 労働は嫌いではないが、この島に来るだけを念頭に生まれてはじめて安藤は重労働に就いた。

「働け」と島民達に言われてもなにをどうしていいのかわからない。

 安藤は老夫婦に「どうしたらいいのか」

 高齢である神父にあれこそと取材をしたいが島民達から村八分にもされたくもない。

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伴奏曲 necropsy @you758

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