犯人と私
目の前には確かにあの男がいる。
驚きと恐怖がごちゃ混ぜになっている。
動けない。
すると、目の前の男はこちらに手を伸ばそうとした。その瞬間、次に私はどうなるのか悟り、背筋がゾッとした。
逃げなくちゃ!そう思い、一歩下がることが出来た。
だが、そのことに気づいた男は慌てたように、さらにこちらに手を伸ばしてきた。
その男の手が、私に触れそうになると、私は反射的に男の手を弾いた。よろめいて男は前に倒れこむ。その時、怖くて固まっていた私の足は、動かすことができるようになっていて、すぐに駅の方に向かう。
ぎこちない小走りで、心臓もバクバクになり焦る。少し歩くと人が、ちらほらと歩いている。怖くて後ろを確認しながら走ってきたが、彼が追いかけて来る事はなかった。
駅に着き、ほどなくして、電車も到着する。電車のドアが、プシュ〜という音と共に開き、アナウンスが流れてこの電車の目的地を告げるとまた、プシュ〜といって、ドアが閉まる。ほっと、胸をなでおろす。と同時にため息が出てしまう。
まだ少し怖いせいか、立っている方が安心する。
電車が揺れ、走り出す。電車に乗っていて、周りに人がいるとすごく安心する。
あぁ、よかった。そう心の中で思い、どっと疲れが押し寄せる。そういえば、明日は休みをもらっていてお店に行く必要がなかったのだ。
ピロンっと軽い音が鳴り、メールが来る。麻由さんからだ。
『お疲れ様。もう無事に家着いてるかな?そういえばさっきさ、あんなこと言ったけど、怖がらせちゃったかなーと思ってさ( ´Д`)ごめんね!勝手な憶測だからあんまり気にしないでね。それじゃ、遅いからもう寝るね、おやすみなさい。』
と書いてあった。彼女なりに心配していたのだろう。私は今は返信する余裕がなかったので後で返そうと思った。麻由さんの優しさは嬉しいけど、起こってしまったのでもうどうでもよく感じていた。
電車のドアに反射して、疲れ切った顔をしている私が映っている。
仕事終わりに、あんなに恐ろしい体験をしたら、疲れるのも無理ないかな。
窓の外には遠くの家の明かりや、街灯がキラキラしている。少し気持ちが癒される。
車掌さんの独特の声とともに私の住むアパートのある、駅の名前が呼ばれた。
「ドアが、開きます。御乗車の方は…」ドアが開き、私はすぐに降りる。
アパートまでの道は明るく、隣にコンビニエンスストアもあるので今の私には心強い。
私は、アパートの1階に住んでいる。外観は新築ほどじゃないけど新しい感じのアパートで、女の子が好きそうなそんな雰囲気だ。
ガチャっという音とともにドアを開ける。
そして、すぐに閉める。カチっ。
部屋に入ると、倒れるように座り込んだ。
ホッとしすぎて全身の力が抜ける。
ブルルルっと、突然スマホが震えだす。
え?っと思いスマホを見ると、東野さんから電話が入っていた。
…
彼女の話をしっかりと聞き漏らすことのないように、聞いていた。
「それで、私にそのストーカーらしき人物を探してほしいということですね?」
彼女に依頼の内容を確認する。
「…はい、毎日怖いです。なんで私なのかなっていう疑問があるんです。」
彼女は恐怖の中、誰にも相談をすることが出来ずにいたのだろう。
苦しかったに違いない。
私自身、同じ女性という立場から、彼女をこの窮地から救いたいと思っている。
しかし…
「私は警察ではありません、もし見つけたとしても逮捕は出来ないので、物的証拠、例えば家の周辺を見回しているその男の姿を撮るか、直接接近して来たところを抑えるということしかできません。多少リスクはともないますし見つけたとしても逮捕はできません。」
探偵は犯人や、証拠を探すのはできるが、逮捕する事はできない。物的証拠や現行犯以外でない限りは。そもそも警察も同じようなものだ。証拠がない限り任意同行になってしまうし。さて、どうしようかな。
目の前に座っている、里央という探偵は何か考えている気がした。
真剣に考えている姿は本物の探偵ってこんな感じなんだなと思い、関心していた。
きっと作戦を立てているに違いない。
すると探偵さんは私に、「犯人逮捕は置いといて、とりあえず、身辺調査も含めて行いたいので、あなたの職場まで行って見ましょうか。」
どうやら、ひとまず探偵さんは協力してくれるようなので、私はホッとしていた。
日曜日探偵 イトサ @itosa
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