ストーカー被害

「突然、すみません。カバンに赤いハンカチをつけていたのであなたが村咲さんだと思いまして」私の目の前の椅子に彼女は座った。はにかんでこちらを見ていた。

そんな彼女を緊張していた私は、さっき店員が持ってきた水を少し、飲んでから

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも今日は来てもらってありがとうございます!」そういって、お辞儀をすると彼女は目の前で小さく手を振り、そんなことないですよ、と言っていた。


カフェの店員が、2人の前を過ぎようとした時、彼女は

「すみません、ミルクティーのホット1つ」そう言って、

私に、何か飲みますかと聞いて来たので、コーヒーと伝えたてから慌ててホットでと付け加えた。

店員は、かしこまりましたと私たちの席を後にした。


「今日はどのうようなご用件でしたか?」優しい声だなと思った。

そんな大層なことでは、そう言いながら、私は話し始めた。


それは最近誰かに監視されている、そんな気がした。というのも、帰り道で視線を感じるのだ。

私は、今カフェの店員をしている。一応正社員という形で働いている。

働き始めてまだ1年もしていない。


私はいつも21時になると締めの作業を始める。だいたい15分程度で終わらせる事ができる。


そんなある日、最後のお客様の帰りが遅くなってしまったため、私の帰りも遅くなった。ちょっとイライラ。

「なんであの人、ギリギリまでいたのかな。もう営業時間終わるの分かってたくせに。」と同僚の斎藤麻由さんに愚痴をこぼした。


麻由さんは本当にいいお姉さん。と言うのも私のくだらない話をいつも笑って聞いてくれる。実際ひとりっ子の私は、こんなお姉さんが欲しかった。


「確かにね、おかしいと思うよ。だってお店の放送でも呼びかけてたし。それにあの、さっきのお客、時計とか見てたのに時間に気づかないわけないしね。」

ただ、と麻由さんは私の顔に少し近づき「一応、お客さんだから怒っちゃダメ。」

としっかりと指導してくれる、大人の優しさ。

私は少しふてくされながら「はーい。」と返事をする。

「有紀は顔に出やすいから、気をつけないと心の中見透かされるぞ〜?」

そんな麻由さんの笑った顔は、少女のように幼かった。



愚痴を散々言った2人は帰る支度をして、タイムカードを切り、店長に「お疲れ様でした〜」と軽く挨拶をして、麻由さんと外に出る。出口はお店の入り口と反対側にある従業員専用の出口を使用する。まだ少し冷えるので2人とも手袋をはめて、歩き出す。

私はいつも駅を使って帰宅する。その途中に麻由さんの住んでいるアパートがあるのでそこまではいつも世間話をして、アパートの前でお別れをするのが日課となっていた。そして今日も、他愛もない話に花を咲かせ、アパートの前でさよならをするのだ。


そんな時、’’あ!’’と思い出したように麻由さんが私に向かって「今日のあの人!あぁいうのってもしかしたら、有紀に興味持ってたのかもよ?」「絶対、ないですよ〜」

そう言う私に「ほら、有紀、可愛い顔してるから。だから帰り気をつけなよ。もしかしたらストーカーだったりするかもしれないんだからさ。じゃ、おやすみ〜。」

そう言って麻由さんはアパートの方に歩き出してしまった。

私も駅のある方に歩き出す。


さっきの話、少し気になる事があった。

そういえばあの客、いつだったかも最後まで残っていたことがあった。

その時も対応したのは私だった。その時は何か話したいような素振りをしていたが、私の態度がキツかったのだろう。会釈をして帰っていった。

見た目は、かなり怪しい格好をしていた事は覚えている。帽子にマスク、服装はあまり目立たない格好。今思い出すと、かなり怪しい。


…さっきから後ろが気になって仕方がない。

麻由さんが最後に言っていた、ストーカーというのが引っ掛かっていた。

もしかしたら…そんな事を考えてしまう。周りの灯りといえば薄暗い電柱の明かりしかない。あと、10分くらい駅までかかる。


そのとき、後ろの方から音がした。

私は、驚き後ろを振り向いてしまった。


何もなかった。と思った。

人影が見えた瞬間、私は驚きを通り越して恐怖に変わった。声が出ない。

そして徐々に人影が近づいてくる。さっき通った電柱の所にその人影が来る。

その人影の風貌が薄暗い電気に照らされて、見えた。


目の前にいたのは、今日のあの客だ。

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