探偵とカフェにて。

わたしの名前は村咲 有紀(むらさき あき)。

もう25歳になろうとしている。20代はあっという間に過ぎ去っていくと、誰かが言っていたが本当にその通りだなぁと思った。


卒業して、1年は泣き言を言わずにしっかり働いていた。

就職してから思うが、大学生というのは本当に遊んでしかいないなぁ

と、実感し、反省もしていた。


今日わたしは、とある私立探偵の『鈴木 里央(すずき りお)』という方に依頼をしようとしていた。

「ほんとうに大丈夫かなぁ。」そんなことを思いながら、ふと時計をみる。

予定の時間は正午と約束していた。まだ、4時間と25分もある。

とりあえず準備だけしてしまおう。そんな私は1番時間のかかる化粧をはじめようとしていた。


わたしのスマホが振動と共にデフォルト設定されていた音が鳴る。

電話番号が画面に表示されていないので、壊れたかと一瞬思い込んだ。

画面の表示をスライドさせ、電話の向こう側の声に注意を払う。

すると聞いたことのない男性の低い声だ。「もしもし。この電話番号は村咲様のお電話でしょうか?」丁寧な言葉づかいだが、変に気難しい印象はうけない。

「はい、そうですが。お名前伺ってもいいですか?」すると向こうの電話口から、よかったとボソッとつぶやいたようなそんな気がした。

「取り急ぎなので、予定だけお伝えします。今日の予定の時間通りで。場所は駅の二階にあるカフェに。もしもの為に目印として、カバンに赤のハンカチをつけてください。では後ほど。…」


プッツ。会話の終了をお知らせするプープーという音が

耳の中に響く。どこにも行くあてのない音が訳もなくただただ流れ出していた。


鈴木里央という探偵をしったのは、つい最近だ。

その日は何年かぶりに東野さんにあった日のことだった。

私の仕事終わりに合わせて、20時すぎ。春になったのに2月の夜は肌寒かった。ピンクのカーディガンがやけに頼りなかった。

待ち合わせ場所は、居酒屋チェーンの個室になっているところだった。

「おう、こっちこっち〜!」ちょっと大きな声でこっちを呼びかけ手を振っているのが少し気恥ずかしかった。東野さんは1時間まえくらいから呑んでいたらしい。店員さんに生もう1つと注文していてくれていた。

「いやぁ、久しぶりだね。元気にしてた?」全体的に筋肉質だった体には贅肉と言う名の重りがついていた。

「はい、なんとか生きてましたよ〜。」少し元気のない声だったのか

大丈夫?と心配させてしまったみたいだ。

大丈夫です!といって店員の持ってきた生ビールを一気に、三分の一ほど呑んで見せた。

「いや、今は全然元気になった方なんですよ?東野さんのあの事から立ち直るのにやっぱり時間かかりましたから…それにあの頃は好きだったし憧れていたから尚更でしたよ。」どうやらもう酔っていたみたいだ。東野さんはと言うと、真剣に、だけど顔つきはにこやかに聞いてくれていた。

「そうだったのか…申し訳ない。みんなには迷惑をかけたね。」と言って頭を下げた。

「そんな、責めてる人は誰もいませんでしたよ。みんな東野さんのこと好きでしたから。」私は店員にもう一杯注文をした。


すると東野さんは何かモヤモヤしていた心のつっかかりが取れたようにこちらを見つめて言った。「あの事件、実は、解決したんだ。」



ちょうど正午にはまだ時間があったので私はウィンドーショッピングをしていた。

2月と言うのは、寒いのか暖かいのかわからない日が多い。その為みに私はいつもピンクのカーディガンを着ている。

「あ。赤いハンカチあったかな?」そう思いカバンを探るも見つからない。

仕方ないので、近くのファッションショップに置いてある

赤のペイズリー柄のハンカチを買った。


時間もそろそろだったから、早めに

指定されていたカフェに入った。

中は、15人入れたら十分くらいの大きさで、カウンター席とテーブル席、あとは1人でのんびり過ごせるようにだろうスペースが

いくつかあった。

とりあえずあまり人目につくのも嫌なので端の奥に腰をかけた。

ガラス越しに見える世界は、さっき自分の通っていたところが一望できる場所だった。


カツカツ。ハイヒールだろうか、こちらに近づいてくるような気がした。

その足音は私の席の近くで立ち止まる。

「村咲さんですか?」女性の声ははっきりと、そして透き通った

声で、耳に残る。私は緊張して口ごもる。

「はい。鈴木さんですか?あの。探偵の。」


目の前の彼女は頷き、席に着いた。

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