③
――秋。
私は、緑色の葉が散り始めた桜の森を眺めていた。
5ヵ月と27日。
彼が私の側からいなくなって、もう半年近くが経とうとしていた。
桜の森の木々たちの変化は、否応なしに、私に時間の経過をもたらしてくる。
ちなみに私は、今も同居人と暮らしている。
でも、相手は変わった。
今度も男性だ。
前と同じく、管理人さんの紹介だった。
誠実でいい人だけど、恋愛感情はもちろんない。
なぜなら、私が恋をする相手は彼以外にいないから――――
最近、こんな噂話を聞いた。
都会に出て行った彼。
彼はどうやら、華々しい世界に飛びこんだようだ。
誰もが羨む憧れの世界。
彼はその世界で、アイドルになっていた。
みんなから、キャーキャー言われる存在。
見る者に、夢や希望を与える存在。
まさに、今、人気絶調のアイドルになっていた。
本当は、私も祝福してあげたい。
すごいね。
頑張ったんだね。
と、笑顔で拍手をしてあげたい。
でも私は、その気持ちとはうらはらに、胸がチクリと痛んだ。
彼は、華やかな世界で活躍している。
みんなの憧れの的として、頑張っている。
これからも応援するのが当たり前なのだろう。
でも、できない。
私にはできないよ。
あなたが、遠くへ行ってしまう。
どんどん、遠くへ行ってしまう。
あなたが活躍すればするほど、私の恋心は増すばかり。
叶わない恋――
やっぱり、あの時の約束は嘘だったの?
エイプリルフールの軽いジョークだったの?
でもね、それでもいいんだ。
私は待ってるから。
だって、私はあなたが好きだから。
あなたに恋をしているから。
葉っぱの落ちた桜の森は、冷たい風に揺られて、なんだか寂しそうなダンスを披露していた。
私は待っています
桜の森の満開の下で
私は、あなたを待っています
ずっとずっと、待っています
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