②
――夏。
彼と別れてから、もう4ヶ月が過ぎた。
あれから変わったことがひとつある。
私に同居人ができた。
今は、その同居人と2人で住んでいる。
ちなみに、相手は男性。
と言っても、別に恋愛感情なんかはない。
実は、部屋を引っ越した時、管理人さんの紹介でいま流行りのルームシェアってやつを体験している。
桜の森の満開の下で逢いましょう――――
私は、今でもその言葉だけは忘れられない。
私と彼は、以前、同じアパートで隣同士に住んでいた。
壁1枚を隔てた部屋で隣同士だった。
だからかな。
距離が近かったからかな。
仲良くなるのに、時間はかからなかった。
きっかけは、そのアパートに隣接する、緑が生い茂る公園。
そこで、私たちはよく出会い、お互いのことをもっと知りたくなった。
恋。
それは、明らかに恋だった。
でも、私たちは恋をするには、お互いが幼すぎたのかもしれない。
私は、彼が好きだった。
おそらく、彼も私が好きだった。
でも、別に体を求め合うことはなかった。
ううん、違うか。
ただ、一緒に居られればそれでいい。
それだけで幸せだったのかもしれない。
私たちは、その公園でよく待ち合わせをした。
時には、芝生の上に寝転んで、じゃれあったり空を見上げたりもした。
それは、決まって、大きな桜の木の下。
1本だけじゃない。
5本か6本の桜が密集していた。
春になると、とても美しい。
淡いピンクの花ビラが、日光を浴び風に揺られて、それはそれは、私と彼の心にとても素晴らしい癒しと輝きを与えてくれた。
ある日、その桜を見ながら彼が言った。
ここは、まるで『桜の森』みたいだね――――
と。
私は今日も1人、この公園に来ている。
そして、芝生に寝転がり、桜の森を眺めていた。
でもそこに、ピンクの花びらはなかった。
変わりに、緑の葉っぱとセミたちのオーケストラが君臨していた。
そうなんだ。
時間は、私の気持ちとは関係なしに、とめどなく流れていく。
そして、その移り変わる光景が、あなたと別れてからの月日を物語っていた。
私は、待っています
桜の森の満開の下
もう一度
あなたに逢えることを
ずっとずっと待っています
いつまでも、いつまでも
ずっと、あなたを待っています
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