③
* * * *
――1ヶ月後。
「はい! ありがとうございます!」
電話を切った俺の顔には、笑顔があふれていた。
今まさに、念願だった広告代理店の会社から内定を貰ったのだ。
全てはあの日から。
行動力の薬を飲んだあの日から始まった。
10回ほど色々な会社の面接を受けて、ことごとく落とされたが、それでも俺は全くめげなかった。
むしろ、次に向けてのやる気に満ち溢れていた。
その結果、今の広告代理店の会社から内定を貰ったというわけだ。
もちろん、俺の希望していた通り、クリエイティブ職。
最高だ。
『行動力』は最高だ。
実は、あの薬を飲んだ翌日、ネットを駆使して調べたことがある。
専門的な難しいことはよく分からないが、あの薬には、出品者の遺伝子に関する情報が入っており、最先端の科学技術で、俺に行動力を植え付けることができるらしい。
出品者は、その薬を作ってくれる機関に依頼する。
料金を支払ったあと、数ヶ月で薬は出来上がるようだ。
すごい。
すごいぞ。
世の中は、どんどんと何もかもが、金で買える時代になってきたな。
「よし!」
俺は、部屋で1人、ガッツポーズをした。
これから、仕事に励む。
俺は前に進むんだ。
『行動力』により結果を手に入れた俺の瞳は希望に満ち溢れ、キラキラと輝いていた。
――2週間後。
「くそっ……」
今日の気温は、36度。
何もしなくても汗がダラダラと流れてくる。
そんな炎天下の中、俺はカバンを抱えスーツ姿で歩き回っていた。
実は、入社してすぐ、営業職に移動になった。
全く予想外だ。
俺は、クリエイティブ職で能力を生かし、出世していくつもりだった。
何の疑いもなく、そういう未来を描いていた。
なのに、なんでこんなことに?
「暑い……もうダメだ……」
俺は通りがかった喫茶店へ、吸い寄せられるように駆け込んだ。
「あぁ……気持ちいい……」
空調の効いた涼しい店内は、まるで冷蔵庫の中に飛び込んだかのごとく、最高に居心地が良かった。
そして、席についてチョコレートパフェとコーラを口にしながら、俺はあることを考えていた。
それは、どうして俺は営業職になってしまったのかということ。
俺は考えた。
考えに考えた。
幸い、冷房と甘い食べ物のおかげで、俺の頭は回転も速く冴え渡っていた。
「あっ……もしかして……」
そして、やがてこういう結論に辿りついた。
それは、あのオークションの出品者のメッセージ。
「確か……」
出品者は、プロサッカー選手を目指してブラジル留学をしていたが、結局は、スポーツ用品店の経営者に落ち着いたって書いてたな。
それはつまり、裏をかえせば、ブラジルまで行き自らアグレッシブに行動したが、結局はプロ選手にはなれなかったということ。
『いいとこまではいくが、結果的にはダメだった』
という意味にも取れる。
「ということは……」
もっと、強力な行動力じゃないとダメなんじゃないだろうか。
「そうだ……絶対そうだ……」
結果も伴っている行動力じゃないとダメだということに違いない。
「よし……」
俺はチョコレートパフェを口にかきこみ、コーラを飲み干したあと、すぐに喫茶店から外に出た。
夏の容赦ない日差しに熱く照らされながら、俺は拳を握りしめた。
そして、この日の夕方。
俺は、会社に辞表を提出した。
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