ただいま、入札中【短編】

②

――３０分後。

「よし！　落とした！」

そして、ついに俺は商品を落札した。

結局、２万１千円で落札という結果になってしまった。

それから俺は、サイトでの『取引ナビ』を使って、出品者と商品の発送方法や振り込み先のやり取りを行った。

なぜだか俺は、とても清々しい充実感に覆われていた。

これからどういう物が送られてくるのか、全く想像もつかない。

でも、俺は満足していた。

ここ最近、何をするのも億劫だった俺が、この商品を落札できた。

俺にそれだけのエネルギーがあったこと、行動力があったことに充実感を覚えていた。

――数日後。

「届いた……」

俺は両手に持った小さな箱を見ながら、ポツリとつぶやいた。

「いったい、中には何が入っているんだろう……」

俺は、ゆっくりと箱のガムテープを剥がしていった。

すると、中にはカプセル状の小さな薬が１つ、大事に保管され入っていた。

「あっ、説明書きがあるな……」

何だ？

これはどういう意味なんだ？

俺はすぐさま、出品者からのメッセージを読んだ。

《このたびは、落札していただきありがとうございました。カプセルは噛まずに水で飲み込んでくださいませ。また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします》

そこには、こんな文章が書いてあった。

「これを飲めば……行動力が手に入るのか……」

俺は、薬を手の平に乗せたまま、いろんなことを考えていた。

もし、俺にもう１度、今まで身につけたことがないような行動力が手に入れば、就職活動に本気で取り組めるかもしれない。

もう一度、人生をやり直せるかもしれない。

「で、でも……」

もし、これが毒だったら？

一瞬で死んでしまうような毒薬だったら？

いや、それはないか。

この薬を送ってくれた人の名前も住所も分かっているんだし。

それに、この人の出品者評価を見ても『非常に良い』という評価ばかりだ。

さらに、その評価から分かることがもう１つある。

それは、この人は過去にも何度か『行動力』を出品してるということ。

そして、それを受けとった落札者から感謝の言葉を貰っているということ。

『おかげさまで行動力が身につきました』

『目標に向かって突き進む気力がみなぎってきました』

などという喜びの書き込みが何件かあった。

だから、大丈夫。

この薬は何も問題ないはずだ。

「よ、よし……」

俺は、コップに水を用意し薬を手に持った。

そして、深呼吸を２回して気持ちを落ち着かせたあと、一気に薬を飲み込んだ。

「これで……俺に行動力が……？」

しかし、薬を飲んだあとも、これといった変化は何も現れなかった。

だが、俺は期待していた。

大きな大きな変化が現れるのを期待していた。

気持ちの問題かもしれない。

薬は、なんら変哲のないビタミン済かもしれない。

でも、俺はこれをきっかけに変わりたい。

変わりたい。

変わりたい。

俺は変わりたいんだ。