3
「……ヤ? ミヤっ!?」
軽く揺さぶられ、遠い記憶の旅から美夜は強制的に帰還させられた。
マクシミリアンが急に黙り込んでしまった美夜の瞳を心配げに
普通の女性であれば極上の外見をしたマクシミリアンの顔に
ただ、美夜は違った。
「マックス、近い」
「うっ!」
マクシミリアンの顔を手で押しのけ、
「あのね、いつも笑顔でいなさいとは言ったけど、さすがにこういう場では怒るなりなんなりしてもいいのよ?」
「ううん。どんなことされても、ミヤならいいんだ」
「……」
(そうだった)
美夜はあまり嬉しくないことを思い出させられた。
先程のマクシミリアンの言葉をそのまま字面だけを
現に、マクシミリアンに恋心を抱いたご令嬢方やあわよくばと王太子妃の座を
つまり、二人分の
「本当に小さい頃から面倒を見てきた子供達を、誰が恋人として見られるというのか」と、再三に渡り弁明したところで効果はあまり見られず、それならばと街で出会った薬師のまだ年若い
(その時のクリストファーから向けられた視線といえば……私ごと師匠を
さすがにマズいと彼ら二人にはこれがフリだということを話した時のホッとした感は
「あのね、マクシミリアン」
美夜が愛称ではなく名前できちんと呼ぶと、マクシミリアンはスッと姿勢を正した。
「あなた達が小さい頃は私に何を言っても良かったのよ。でも、もうダメ。特に周りに人がいる時は気をつけること」
「どうして?」
「世話係でしかない私があなた達二人に
「そんなの、当たり前じゃない。ミヤは僕達の特別だもん……いった! 痛い!」
言い聞かせてる
しばらくその感触を
「酷い」
「言って分からない子には鉄拳制裁です」
「うー……分かった。気をつける」
「約束よ?」
そう言って、はたと気づく。
自分がここから去れば彼らを取り巻く環境に
だって、前に自分が飛ばされた時はまだ彼らが幼く、世話係が必要だったからで。無事に大きく成長し、立派になった今ではもうそれは必要ない。
前回と同じであれば、また十年経たないと元の世界には戻れない。
幸いにして、前回とは違い、外にも知り合いは大勢いる。その人達を
しかし、それにはどうしても聞いておかなければいけないことがある。
思い立ったが吉日とばかりに、美夜は前のめりになって口を開いた。
「ねぇ、マックス。あなた達は今、どういう立ち位置にいるの?」
「え? 僕はまだ王太子で、クリスは宰相補佐だよ」
「そう。ちなみに婚約者とかは?」
「まぁ、立場上仕方ないよね。僕は隣国の姫で、クリスは国内の
「それなら少しは安心できるわね」
「え?」
「ううん、なんでもない。ただの
決まった相手がいるならば令嬢関係は安心だ。
そんな思いを女性側にさせるような
それを考えると言い方はアレだが、立場を利用して
(そうなると、やっぱり訪ねる相手は近場にいる相手かしらね)
街には例の薬師の師匠がいるはずだ。美夜は彼を一番初めに訪ねる相手に選んだ。
「マックス。私、ここから出て過ごそうと思うの」
「……え」
美夜がそう切り出すと、マクシミリアンの表情がみるみるうちに曇っていく。フルフルと首を横に振り、悲しげな表情を浮かべている。
「ミヤ、
(……恐ろしいこと言わないでよ)
けれど、その恐ろしいことがあながちマクシミリアンの
そうなれば、やることは一つ。
「マクシミリアン、私と手を組みましょう」
美夜はがっしりと両手でマクシミリアンの両手を包み込み、しっかりと彼と目を合わせてそう言った。
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