第17話 耳 20100514





歩いては抜けないような山道を


軽装の私が後ろ手に腕をくんで

のん気に歩いていた




道の脇で工事をしていて


行き会うといつも挨拶してくれる近所のお兄さんの

眩しいような笑顔が見えたけど


気づかれないように目を伏せて行き過ぎた






部屋には男の人が2人いて

1人はテレビかパソコンの画面に向かっていた



会ったことはないけど知っている人だと

振り向いた顔を見てわかった




もう1人は背が高くて

クリーム色の帽子を斜めにかぶっていた



やっぱりクリーム色の

おっきい柔らかな素材のTシャツと


同じ生地でできたゆるゆるの裾がひろがったズボンをはいていた




ちょっと木のような印象がする手足がのびていて

素足にシューズを履いていた


脛がきれいだった






私は柔らかい毛布にくるまって


眠くて眠くて背を向けて眠っていた




そばに背の高い男の人が来て


しゃがむのが

背中ごしにわかった



しゃがんでも見下ろされてるような気がしたけど

こわくはなかった




眠くて眠くて目をつぶっていると


その人が私の耳朶をつまんでまるで

『夕飯なぁに?』とでも言うように



『ねぇ、       。』と言った



言うときは直球なんだなと思って


笑ってしまった





だけど眠くて眠くて


一回くらい聞き返したかもだけど



自分も

『そうかい、そうかい』ぐらいな感じで


にやけながら背中で聞いていた





卵のように大きく

紅いルビーが


しわくちゃの新聞紙から顕れるように



幸せが溢れ出すような夢





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