一幕 傾奇者
「……では、最後に。この地で出会うた若者に捧げる一曲を踊ってみせましょう」
彼女はそう言うと、周りは見守るように静まり返った。
静かに、舞い始める。今度は踊りではなく、舞のようだ。
舞扇は腰に刺したまま、ゆっくりとした動作で舞う。
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」
彼女の澄んだ歌声が、場に響く。
「夢幻の如くなり」
「夢幻の如くなり」
口遊む度に、調子が早くなる。
ピタリと、一瞬彼女は止まった。
けれども次の瞬間、足を地面に叩きつける。まるで太鼓のように、調子をつける。
「なればこそ、かぶかん」
そう言った瞬間、太刀を振るった。剣舞のようで、それではない。
相変わらず跳ね、時に周り、剣を軽やかに振る。
それは舞であり、踊りでもあった。
男のようで、女のようでもあった。
彼女が魅せる、唯一彼女のみの踊り。
それは人を沸かせ、信長の心をも沸かす。
先ほどまで渋っていた平手すら、彼女に魅入っていた。
やがて踊り終えると、周囲に大歓声が沸き立つ。
「……お粗末さまでした」
彼女はいつもの調子でそう言って、ぺこりと頭を下げていた。
人々は彼女に駆け寄り、次々と思うままに感想を伝える。
永延とそれが続くかと思いきや、彼女自身が信長に近づいて行った。
周りは彼女の邪魔をしないようにと、道を開ける。
「一つ、約束を果たすことができて何よりさね」
彼女はそう言って、微笑んだ。
「……かぶくとは、何だ?」
「人の命なんぞ、五十年と少し。なればこそ、自由気ままに、心の赴くままにすれば良いさね。例え他者に謗られようとも、泣きたい時に泣き、笑いたい時に笑い、成したいことを成せば良い。それが、私にとってのかぶくということさね」
「成したいように、成す……そうか、そうか!」
ケタケタと、信長は笑った。彼の機嫌の良さに、平手は驚き目を見張る。
「また、この国に来るのか?」
「さあ?私は自由気ままに踊るだけさね」
「そうか。この国がもっと栄えていたら、その時にまた来い。お主の舞は、もっと大勢の者たちに見てもらうべきだ」
「考えとくよ」
彼女は、そう言って笑った。
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