一幕 傾奇者

次の日の夜、信長はフラフラになりながらも外に出た。


痛みの間隔は、既にだいぶ短くなっている。

歩いている最中も、気の遠くなるような痛みが何度も襲ってきた。


闇夜の中、通り道には人っ子一人いない。

倒れたら、それまで。

その緊張感の中、けれども信長は興奮と共に『楽しい』という感情が沸き立っていた。


行けども、死。止まれども、死。

一生に一度の大勝負。

否……勝ちの目はない。

持つ手札は負けることしかない。

だとういうのに、そこに信長は楽しみを見出していた。


「……何故、お主がここにいる?」


ふと、目の前に出雲が現れた。よくよく考えればこの三日でよくも会うものだ。


「否……何故、我がここにいることが分かった?」


問いかけ直した言葉に、出雲は苦笑いを浮かべる。


「それだけ黒い靄を撒き散らしたら、誰だって分かるさね。さて、吉法師。お前さんは、どこに向かっている?」


「確かめようと、思うてな」


「そうか……。ならば、共に行っても良いかい?」


「……。最期にお主の舞で送ってくれるのであれば」


一瞬、出雲は驚きに目を丸くした。

けれども、やがてケタケタと笑い始める。

初めて会った時と、同じように。


「良いさね。じゃあ、行こうか。吉法師」


二人は、山道を登る。

闇夜の下、木々の生い茂るその道はまるで常世に続く道だと信長は思った。


不思議と、信長の手を引く出雲は迷った様子が見当たらない。木の根を器用に避け、ずんずんと進む。

おまけに、出雲に手を引かれてこの方、痛みは全く感じられなかった。


「吉法師が大凡の場所を掴んでくれて、助かったさね。どうにも相手は呪術が下手くそなようでねえ……お前さんにかける筈が、この国全体に呪いを振りかけていた。おかげであちらこちらに黒い靄が立ち込めて、場所が特定できなんだ」


「お主は、最初から全て知っておったのか?」


「初めは、分からんかった。でも、一層濃い靄を漂わすお前さんと会って全てを理解したさね。相手は単にお前さんに呪術を掛けようとしていたのだということが」


「……そうか」


「呪術は掛けられる側の気の持ちようという側面もあってな。だというのにお前さんときたら、知らず知らず呪いを受け入れている始末」


「は?……我は、そんなの知らんぞ」


「知らず知らずの内に、と言うただろ?この世に未練などないと言わんばかりの陰鬱な気配を撒き散らしておっただろうが」


「……それで、お主は我に声をかけたのか」


出雲は、信長の呟きに肯定も否定もしなかった。

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