一幕 童子
「やーっぱり、そこにいたのは吉法師さね。にしても、大丈夫かい?」
そっとしゃがみ、出雲は蹲る信長を伺う。
「……大、丈夫……だ」
「こんな状態で気丈にふるまうなんざね。……あんまり良くない状態だよ」
「お前に、何が……分かる」
「自覚がないのかい?」
「……」
無言を貫く信長に、出雲は溜息を吐くと背中をさすった。
瞬間、びくりと信長は身体を震わせたが、さすられ続けると痛みが遠のいていくことに気づき、そのままにさせる。
大して時がかからず、痛みは完全に引いた。
その奇跡に、驚きのあまり信長は目を白黒させる。
「……お主、何者だ」
「その問いかけには、既に答えたさね。私の方こそ、聞きたい。吉法師、お前さんこそ何なのさ」
「どういう意味だ?」
「どういう意味も何も……どこぞの良い家の出であろう坊ちゃんが、何故そのような黒い靄を身体中にまとわりつかせているのかを聞いてるのさね」
「黒い靄、だと?」
「自覚はなかったのかい?恐らく、何度も今のような痛みに襲われた筈。坊ちゃんほどの家なら、祈祷師ぐらい呼べたであろうに」
「生憎、無神論者なんでな」
「ははあ……そういうことか。ただ、今のは応急処置に過ぎないさね。早く元を絶たねば、吉法師の身が危ない。思い当たる節はあるか?」
出雲の言葉に、段々と苛立ちが募る。
「……って、吉法師に問うのもおかしいことか……」
そして、ついにそれは爆発した。
「あり得ぬ!」
「……は?」
「あり得ぬ、と言うた!我が呪いを掛けられていることなど……あり得ぬ!」
「あり得ぬと言うても、実際……。いや、吉法師。お前さん、心当たりがあるんさね?」
「……心当たりなんぞ、ない!我は呪いなどかけられておらぬのだからな!」
苛立ちをそのまま、出雲にぶつける。
「よしんば本当に呪いというものが存在し、我にかかっているというのなら……お主がかけたのではないか?」
「……はあ?」
予想だにしなかった言葉に、出雲は呆けた。
「そのような奇抜な格好は怪しいことこの上なく、その上、先ほど我に触った途端痛みは遠のいた。さては、我に取りいり金をせしめるためか?」
「あーいや、この格好か。まさかそんな風に捉えられるとは……」
吉法師の推論と呼べぬ暴論に、出雲は考えることを放棄した。
「できれば教えて欲しかったのだけど、まあ……無理にとは言わないさね。呪術は、完成しておらん。気持ちが落ち着いたら、教えてくれれば良い。ただ、明日の夜が山だからねえ……その前に教えてくれるとありがたいね」
その言葉に、信長は傷ついた幼子のような表情を浮かべる。
それに、出雲は憐れむような申し訳無さそうな表情を返した。
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