エピソード9【贈り物】②
「おい! 落ち着けよ!」
赤川さんは、冷静に俺の言葉を遮った。
「おまえ、何を言ってるんだ!?」
そして俺の肩をつかみ、必死で落ち着かせようとする。
さらには、首をかしげキョトンとした表情を見せ始めた。
「岡本さんとかペンションさくらとか、不思議な椅子とか……いったい、何を言ってるんだ……?」
「え……?」
何って……あなたのほうこそ、何を言ってるんですか??
そう。
俺からすると、赤川さんの言葉が理解できなかった。
「だって……」
俺は呆れ顔で言った。
「俺は刑事を辞めてから1年間、このペンションさくらに住み込みで働いて……」
そう言いながら、部屋をグルッと見渡してみた。
――すると。
「あれ……?」
え??
ど、どういうことだ??
それは、目を疑うような光景――
「あ、あれ……?」
俺が驚くのも無理はない。
そこは、ペンションさくらではなかった。
使い込んだ家具。
テーブルに置きっぱなしのパンやペットボトル。
乱雑に脱ぎ散らかされた衣服のかかったソファー。
全てが見慣れた光景。
そう。
そこは、俺が住んでいたマンションの一室。
ヒトミとずっと暮らしていた部屋だった。
「え……?」
俺は、赤川さんの肩に再びつかみかかる。
「赤川さん!」
そして、もう1度、同じ内容を繰り返す。
「俺は刑事を辞めてから1年間、ペンションさくらに住み込みで働いていたんですよね!?」
「え?」
すると赤川さんは、
「何を言ってるんだ?」
呆れたように喋り始めた。
「おまえ、ヒトミちゃんが亡くなってから1週間、休職してただけじゃないか。何を言ってるんだ?」
え……?
1週間……?
「夢でも見てたんじゃないのか?」
赤川さんは、少し笑いながら軽くそう言い放った。
な、何だ?
どういうことなんだ??
俺は、キツネにつままれたような感覚で、全く状況が把握できなかった。
だが、この見慣れた部屋。
明らかに、今でも俺が住んでいるような空気感。
そして、赤川さんの言葉の1つ1つ。
これらのことが、否応なしに俺に現実を訴えかけてくる。
夢――
俺が見ていたことは全部、夢。
ペンションさくらも、そこで出会った人も、誰も存在していない。
全部、夢なのか?
え?
あ、あれ?
じゃあ、ちょっと待てよ。
今日は、何日なんだ!?
俺は、急いでカレンダーに目をやった。
「あっ……」
12月26日――
壁にかかっているカレンダーの日付けは、12月26日。
でもそれは、ヒトミが亡くなってから1週間しか経っていない12月26日。
ペンションさくらで経験したあのトュルーチェアーの出来事は、ヒトミが亡くなってから1年後の12月25日と26日。
日付は一緒でも、1年のずれがある。
つじつまが合わない。
そうなると、やはりこの考えしか浮かばない。
全部、夢――
この考えしか浮かばなかった。
あぁ。
夢か。
全部、夢だったのか。
何だよ。
何なんだよ。
まるで、マンガみたいだな……でも……なんてリアルな夢だったんだ。
俺は、そう思わずにはいられなかった。
そして数秒ほど経過したあと、俺の頭の中に1つの疑問が浮かんだ。
じゃあ、犯人は誰だったんだ?
もちろん、そのことだ。
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