第17話 襲撃③

―学校の屋上にて―


「ふふふ、未来の魔道士を潰せたぞ。これで俺らは安心していろいろできるってもんだ」


屋上にある人物がいた

入学式の日、ある女子生徒にナンパを働きかけたチャラ男Aである

チャラ男Aは新入生ではない

将来、確実に邪魔となる魔道士の芽を積むために生徒になりすましていたのだ

Aは裏社会では割と名の知れた魔獣使いであった。今までに何人もの魔道士を手に掛けてきた

計画は完璧に進行していたはずだった

しかし


「な、放った魔獣が2匹ともやられただと!?」


Aは動揺したが、その原因はすぐにわかった


「あの女か…」


自分をボコボコにしたあの男の妹

トーナメントで試合を見て、警戒はしていたがまさかこれ程とは思わなかった


「クソ、もっと強力な魔獣を使うしかないか…」


魔獣の召喚に入ろうとしたその時


「やらせませんよ」


後ろから声をかけられた

反射的に後ろに飛び退いて声の主を確認した

黒い髪に黒い外套。顔は見えない


「だ、誰だお前は!?」


「私ですか?そうですね。あなたがさっき言った

と言ったら?」


「なっ…」


男のかぶっていたフードが取られる

そこに出てきたのは自分をボコボコにしてくれた憎らしい顔


「お前、どうしてここがわかったんだ!?」


そんな問いに男は呆れた声で


「だって、あなたずっと魔力垂れ流しにしてますよ。それをたどった迄です」


「クソが!」


そう言うとAは詠唱を開始した


「地獄の守護者たる番犬よ。我の声に応えたまえ」


「へぇ、なかなか早いですね…」


男は特に動こうとはしない

Aは最後の式句を唱えた


「ここに権限せよ。《獄炎三頭獣ケルベロス》!!」


Aの声と共に空に巨大な魔法陣が浮かび上がった

そこからおぞましい雄叫びが聞こえてきた


「耳障りですね…」


男は聞きたくないと言わんばかりに耳を塞いでいる

そんな男に構わず魔法陣から1頭の獣が姿を現した

地獄の番犬として知られる魔獣


「あれがケルベロスですか…。やっぱり可愛くないですね」


男がそんな呑気な事を抜かしている

Aは構わず命令を飛ばした


「いけ!《獄炎三頭獣ケルベロス》!ヤツの肉体を喰いちぎれ!」


その指示に従い、禍々しい獣は一直線に男へ突っ込んでいった


「やれやれ、しょうがないですね」


男はそう言うと何かを取り出した

銃だ。それも何の変哲もないハンドガンである


「バカめ!そんなオモチャでコイツが倒せるわけないだろう!死ね!」


Aは構わず獣を突進させた

獣を静かに見据えながら男は


装填リロード氷結弾アイシクルバレット》」


謎の詠唱を唱えると男は獣に向けて銃を構えた


獣が男の手前まで近づいた

そして、飛び上がり首に噛み付こうと口を大きく開いた


パァン!獣が噛み付くと同時に乾いた発砲音が響いた


「やったか!」


Aは勝利を確信した

だが、獣の様子がおかしいさっきから動こうとしない

よく見ると、体がジワジワと氷で覆われていくではないか


「な、何がどうなってやがる…」


そんな言葉を漏らすと


「教えて差し上げましょうか?」


気がついたら男がAの後ろに回り込んでいた


「私は魔法を行使するのに決まった魔道具は必要としません。今、やったように銃でもできます。もっとやると、指を鳴らすだけで僕は最上位の魔法を使えます」


「な…」


Aは呆然とした。

(まさか、指を鳴らすだけで最上位の魔法を使えるだって?そんなのでまかせに決まっている。隙を見てコイツにありったけの魔力を注いだ一撃をくらわせてやる…)


「わ、わかった!わかったから殺さないでくれ!頼む!このとおりだ!」


Aはそう言って男に許しを乞うた

すると、男はいとも簡単に


「わかりました。殺すのだけはやめて差し上げましょう」


そう言ってAから距離をとった


(しめた!コイツまんまとかかりやがった!)

Aは今度こそ勝ちを確信し


「喰らいやがれ!」


全ての魔力を込めた一撃を放った

しかし


「ふっ…」


男は左手をかざすと、放たれた渾身の一撃を握り潰した


「な…」


「なかなか無様な演技でしたね。その演技を見せてくれた礼に跡形も無く殺してあげますよ」


男はそう言うと左手で指を鳴らした

すると男の前に一瞬で魔法陣が現れた


「冥土の見上げにあなたに贈ってあげましょう。火炎系最上位魔法を」


魔力が魔法陣に集中していく


「待って、なぁ頼む。お願いだ、謝るから許してくれよ…」


Aは懇願したが、男はそれを聞くと冷たい目で

こちらを見据え


「焼き払え 《炎帝煉翼レーヴァテイン》」


魔法陣からとてつもない威力を持った炎が放たれた。やがて炎は鳳凰の姿を形取り、Aへと向かった


「待って!頼む!死にたくない!死にた―」


最後の救いの言葉は炎の鳥によって焼き払われた。死体を跡形も残さず


男はAが完全に消えたのを確認すると


「もしもし燈華?こっちは終わったよ」


優しい声音で最愛の家族に電話をかけた

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僕は何のために 清桜 いのり @Inori168

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