第19話 移ろう季節に抱かれて ~【和尚さんの春夏秋冬】~
――春は桜を抱く。
人でごった返す公園ではなく、ひっそりと佇む一本の桜の木がいい。
ゆらりゆらりと舞い落ちる花弁を、ひらりと受け止めた杯で、冷酒を味わうのが春の楽しみである。
――夏は海を抱く。
ビーチで大はしゃぎする人々を遠目に、海の家でゆったりと過ごすのがいい。
潮風を感じながら、どこの浜で取れた物かも分からないイカの丸焼きを肴に、ビールを煽るのが夏の楽しみである。
――秋は紅葉を抱く。
朱に染まった山々を愛でながら、その山々の合間に沈む夕日に涙を流すのがいい。
秋の夜は冷えるけれど、あまり厚着はせず、秋の味覚を肴に熱燗で腹を温めるのが秋の楽しみである。
――冬はコタツを抱く。
寒いのは嫌いなので外には出ず、じっと動かず無駄な時間を過ごすのがいい。
部屋を温め、コタツに足を突っ込んで、それでいて少々薄着で、アイスでも食べながらテレビを見るのが冬の楽しみである。
「ちょっと隊長、冬だけ雑すぎません?」
隊員の意見に、隊長はあからさまに嫌な顔をしてみせた。
「これは手記だ。俺の好きに書き、俺の好きに残す」
この日二人が訪れているのは、とある寺。
かなり古い寺ではあるが、それなりの規模を持った宗派の寺である。
聞くところによれば
「噂に聞いて遠路はるばる来ましたけど、和尚が不在じゃあやる事ありませんね」
隊員の言う通り、二人はこの寺の噂を聞きつけてここまで掘り進んできた。
だが残念な事に、その目的である和尚に会えなかったのだから残念である。
「まあそう言うな。貴様も何かを書き残しておけ。和尚の目に留まれば、何か連絡をしてくれるかもしれん」
隊長のその言葉に、隊員は首をひねる。
「だったら普通に書置きでよくないですか?」
だが隊長は小さく首を振った。
「貴様は阿呆か。由緒正しい寺の、噂にまでなる和尚だ。書置きや手紙など山のように寄せられるだろう。その中から俺達の書き残した物が目に留まるかどうか、生き残れるかどうか、そこが問題なのだ」
――今日は書置きを抱く。
未だ会えぬ人への想いを乗せ、ここに気持ちを書き……
「ちょっとまった、隊長、そんな変なポエムで字数を稼ぐのはやめて下さい」
「何っ!? 貴様、俺の手記を変なポエム呼ばわりとはいい度胸だ! 表に出ろ!」
いきり立つ二人は一触即発。
「ええいいですよ。下らない。実に下らない。大体なんなんですか和尚って」
隊員は眼光鋭く言い放つ。
「いつからカクヨム界は仏教ブームになったんです? 隊長のポエムなんて下らないですよ! そんな下らないポエムが絡むような仏様が出てくる物語は、直ぐに昇天する小僧の話が書籍化決まったからもう十分でしょ!」
「ばっかもーーーーーーん!」
隊長はすさまじい剣幕で怒鳴る。
「確かにそうだ! お前の言う通りだ! だがその下らん坊主がいいのだ! だから態々ここまで掘りに来たのだ! 下らん坊主の何が悪い! 下ネタ小僧がアリで、下らん坊主はナシだとでも言うつもりか!」
「下ネタ小僧、最高に下らなくて面白いじゃないですか!」
「そうだ! その通りだ! 故に霞んでしまう!」
隊長は寺の庭に佇む一本の桜の木を指さした。
「さくらさんが見ているここで、争うのはやめよう。だがな……聞いてくれ」
そして熱い想いを握りしめるように、拳を握って言葉を続けた。
「作られた時代が悪かったのだ。あの下ネタ小僧と同時代に生まれし不運、それによって及ばなかった下らん坊主を、俺は掘り起こしたいのだ」
隊員はさっぱり意味不明な隊長の言動に困惑した。
「まあ……そんなに掘りたいなら掘りましょう? 自分も頑張りますから!」
こうして二人は、この寺でスコップを握りしめるのであった。
◆以前読んだ作品を紹介します。
タイトル:和尚さんの春夏秋冬
ジャンル:現代ファンタジー
作者:よろしくま・ぺこり 様
話数:29話
文字数:101,233文字
評価:★25 (2017年9月9日現在)
最新評価:2017年1月20日 20:58
URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054882133400
検索時:『和尚さん』で検索しましょう。
キャッチコピー
和尚さんの不思議でおかしな毎日
感想★★★
最初に申し上げておきます。
下らないです(笑)
そして、心温まります。
下らないネタをベースに、しっかりと物語を添えて、其々を短辺として一話完結型で連載されています。
まあ、その、こんな言い方が適正かどうか分かりませんが、サザエさんを見ているような感覚で、ゆるく読んで頂きたい作品です。
ただただ下らない面白エピソードもあれば、心温まる骨太エピソードも。
隊長も言ってますが、生まれた時代が悪かった。
イックーさんと被りまくってるというか、内容は全然違うのですが、坊主が、下らないお話で、一話完結。
願わくばこの作品が打ち上げられて、カクヨム二大坊主として語り継がれる事を望みます(笑)
いやまぢで!
そんな感じで、緩く読んでください!
面白いですよ!
ぜひご一読下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます