第4話 勇気を出して物語を進めるのだ ~【NEVER ENDING STORY WRITER】~
「チッ、またこれか」
曇った表情で言葉を吐き捨てた隊長は、何かを諦めたかのように花壇の縁に腰を下ろす。
遠くを見つめ、胸ポケットから取り出した煙草に火を付け、虚空に一筋の線を描く。
「デジャブもここまで明確で、こう何度も巡って来ると笑えねえな」
薄曇りの空は今にも泣き出しそうではあるが、隊長は雨の心配をしていない。
「雨は降らねえ、そしてあいつが……ほら来た」
独り言を呟く自分に何処か滑稽さを感じながら、隊長の視線はここへ向かう隊員に向けられていた。
「隊長~! 雨が降りそうですよ……って、これ、さっきもやりませんでしたか?」
自分で声をかけておきながら、隊員はキョトンとした顔を向けた。
「バカヤロウ。何度もやっている。このままじゃダメだ。物語を動かすには、勇気ある行動が必要なのかもしれん」
「勇気ある行動……ですか」
隊員の目の奥が光り、持っていた傘を強く握りしめた。
「隊長! 日頃の恨みです!」
いざ勇気を振り絞るとなれば、そこに躊躇いがあっては逆に命取りになる。
隊員はその事を十分に理解していたのか、まるで何度も練習を積み重ねてきたかのようなフルスイングで隊長の頭部を狙った。
「甘い! 終わりだ!」
傘の軌道を難なく躱した隊長は、見事なまでのカウンターで隊員のコメカミに右の拳を沈め込んだ。
脳震盪を起こして倒れ込む隊員は、既に意識を手放している。
ぐったりとした隊員の姿に、隊長は新たな展開を期待した。
「これで動くか、物語が」
そして背を向け、咥えていた煙草を指でつまんだ。
「おかわりは……自由だぜ」
泣き出しそうだった空は、ついに地面を濡らす。
「変わったよ、流れが」
隊長は摘まんでいた煙草を投げ捨てると、ズボンのポケットからくしゃくしゃになった一枚の紙を取り出した。
雨粒に濡れるその紙は、隊長の手の中で丁寧に広げられていく。
「これが、新しい展開か」
その紙には、新たな感想が記されていたのであった。
◆本日読んだ作品を紹介します
タイトル:NEVER ENDING STORY WRITER
ジャンル:SF
作者:ペイザンヌ様
話数:13話
文字数:49,346文字
評価:★39 (2016.11.08現在)
最新評価:2016年8月28日 20:52(評価と最新評価は、私の評価を除いています)
URL:https://kakuyomu.jp/works/4852201425154957230
検索時:作者様のPN『ペイザンヌ』で検索しましょう
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さあ、物語を始めよう。
感想★★★
仮想現実空間というSFならではの題材。
設定そのものに目新しさは無く、よくある感じだと言ってしまえば間違いなくそうだと思います。
ただ、物語は全くそうではないと断言出来てしまう。
思春期の恋を中心に展開されていく物語が、主人公とストーリーライターによってどう描かれていくのか期待しながら読み進めていくと、終盤から畳みかけるように凄い量の伏線が回収されていきます。
そして切なくも暖かいラスト、それは新たな物語へ。
さあ、物語を始めよう。
ぜひご一読下さい。
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