第5話


「…………何で、居んの……」



 少年に声をかけられた茉莉那がやっとの思いで声にした言葉は苦しそうだった。

 その声をかけられた少年もバツが悪そうな表情で主人にモカチーノひとつ、と言うとゆっくり話しはじめた。



「いや、さっきマサから佐野のメアド貰ってさ……既視感あったからアドレス帳見たら光川サツキだったんだよ、色々調べたりはしてない」



 少年——————結城浩真はそう言うと、主人が出してきたモカチーノを飲んでから茉莉那に何故援交をしているのか問った。

 茉莉那は自分の事よりも、なぜ顔が整っていて入学からまだ1ヶ月未満にも関わらず女の先輩からよく話しかけられている————モテる浩真がお金を払ってまで援助交際の制度を利用しようとしたかの方が気になったが、まずは自分の話をしないとならないと思って身の上話をし始めた。



「母親が愛人を仕事にしていたの。でも、それがバレて父親から殺された。でも、私は母が好きだったし同じ事をしてみたいと思った。だから、12歳で愛人じゃないけれど援交を始めてみたの。1人でお金も必要だったし……」



 たまに聞かれる援交の理由、その時に話す事実と嘘を混ぜた話を結城にもした。最後のはお小遣いを貰うために同情を誘いたいだけだが。

 いつもの客はここでお小遣いくれるんだけどな……と、茉莉那は予想こそしていたが見た事の無い反応に戸惑った。というのも、結城は質問をしておいてあまり反応をせず、話の途中で主人にエビフライを頼んでいた。同情するつもりなんて欠片も無いらしい。



「ねえ、聞いておいて反応無いの?」

「え、うん。別にあんまり興味ないしどうせ嘘でしょ?」



 平然と結城は茉莉那の話を嘘だと一蹴し、主人が持ってきたエビフライを頬張った。茉莉那はその言動にイラッとしたが一部が嘘なのは事実、言い返すことができずに話を変えた。



「結城くんは、なんで援交使ってるの? モテるでしょ? 援交ってモテないけど不倫する勇気もないくそ野郎が使うものだよ?」

「え、モテるからに決まってんじゃん?」



 茉莉那の疑問に対して結城はエビフライを慌てて噛み飲み込むと、当たり前のように答えた。

 全く持って理解できないと顔に書いてある茉莉那に呆れたのか、ため息をつくと結城は自分で解説をし始めた。その表情は学校でベースを持っていたクールでやや近寄りがたい雰囲気の結城とはまるで別人だった。



「僕、モテるから。自覚あるし、近づいてくる人は沢山居る。だからさ、自分に魅力を感じてない人と色々したくて金払って援交使ってる、それだけ」



 卑劣な笑みを浮かべて結城は言った。学校と雰囲気や話し方が違いすぎて————親しいわけではないが、それでも茉莉那は怯えた。

 確かにこれが結城浩真の本性ならば援交する少女も魅力を感じないだろうな、と茉莉那は思ったが言うと面倒だと思ったし、関わるのも面倒だと思った。だから、バンドは小泉顧問に言って変えてもらおうと思った。けれど、結城はそれを認めなかった。



「ああ。学校では黙っててね。言ったら佐野が援交してることバラすから」

「わ、分かった。でも面倒くさいしバンドは抜け……」

「抜けてもバラす、っていうか逆らったら多分バラす」



 もう脅しにしかなっていないが、高校生活も始まったばかり。バラされるのは困ると茉莉那は弱みを握ったとばかりに笑う結城に従うしか無かった。

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