第2話

「じゃあ、何コピーする? それともバンド名先考える??」



 茉莉那は、弘太郎の自己紹介に笑うとずれてきたギターストラップを直しながら言った。なで肩は大変だ。

 男子達はオリジナルの曲をやろうかと先ほどまで――――小泉が茉莉那を連れてくるまで言っていたし、仮とはいえバンド名も中学生の頃から決めていたからか顔を見合わせ、アイコンタクトを取り始める。意思は全く通じていないようだが。

 茉莉那は何をしているのか分からなかったが、十数秒経つと雅樹がゆっくりと口を開いた。



「えっと……佐野さんは何の曲コピーしたい? 好きなバンドとかある?」



 アイコンタクトでレディーファーストの結論でも出たのだろう。逆に茉莉那に問いかけた。

 問ったはずが問いかけられて茉莉那は一瞬ぽかんとした表情になったが、すぐに笑顔に戻って好きなバンドを言った。



「Dream of indigoがいいかな! うち、藍夢Dream of indigoめっちゃ好きなんだぁ。ファン歴もうすぐ10年!」



 Dream of indigo————……その名前が出た瞬間、男子達は固まった。

 まあ、メンバーになるはずだった少年の父親のバンドなのだから仕方が無いとも言えるが。


 しかし、当たり前かもしれないが誰もDream of indigo――――――――そして、内川皐のことには触れない。


 けれど突然黙り込み、アイコンタクトをとる素振りも見せない男子達に茉莉那も不信感を覚え、「も、もしかして……藍夢Dream of indigo嫌いなの……?」と問った。

 慌てた表情も美人だ、と考えてしまった結城と弘太郎は自分を恥じた。

 もちろんそんなこと全く考えていなかった男子達は首を横に振ったが、茉莉那の不信感を拭うことはできなかった。

 茉莉那も男子達がDream of indigo嫌いなら仲良くしないとかそういうのは別に無かったけれど。



「そういや佐野、LINEやってる? 一応交換しとこう」



 話がかなりズレて、結城がスマホ片手に聞いた。スマホの画面にはチャットアプリのQRコード。

 しかし茉莉那はポケットから古い形体のガラケーを出し、答えた。



「ごめんうちガラケーなんだわ。メールと電話番号でよければ教えるけど……」



 都会っぽい雰囲気を振りまく茉莉那だが、スマホではなくガラケー、しかもデコレーションが凄かったりルーズソックスを履いていたりと若干古いものが目立つ。

 不思議そうに見る雅樹の視線に気が付いのか、茉莉那は苦笑いして言った。



「うちさぁ、あんまりお金無いんだよね。スマホ代払うの辛いし。古いけど使えるから困らないよ、別に」

「……へえ。じゃあとりあえずメアド貰っていい?」

「スマホって赤外線いいの? 赤外線無いって聞いたことある」

「あるよ。まあ、機種によるだろうけど」



 赤外線通信、という近年は中々見ないものを使って雅樹と茉莉那はメアドを交換し始めた。

 ちなみに雅樹以外の3人のスマホには赤外線通信機能がない。

 雅樹とのメアド交換を終えると、茉莉那はそそくさと帰ってしまった。

 どうやらバンドメンバーとなった男子と親睦を深める気はないらしい。





「…………佐野のことどう思う?」


 結城が問いかけた。既に茉莉那が出ていった足音は全く聞こえない。軽音楽部なのに楽器の音もほとんどしない。



「いや、美人だけど裏ありそうだよ。なんであんな一昔前の服装に携帯?」と、聖。暇なのか置いてあったカスタネットを叩いている。


「可愛いけどさぁ、なーんかいけすかねぇ!」と、弘太郎。いけすかねえ、を変な声で言った。話の最後の方を変な声で言うのは彼のマイブームらしい。


「マサは?」

「いや、普通。特に何も……?」



 マサ、こと雅樹は茉莉那に対し何もないと言った瞬間に床に落ちているキラキラと光る欠片を見つけ、拾い上げた。

 猫の絵が描かれた少し大きなラインストーンのようなもの。茉莉那の携帯電話から落ちたと考えれば辻褄が合うのだが、雅樹は眉をしかめて誰にも聞こえない程度の、いや聖のカスタネットにかき消される程の大きさの声で呟いた。


 「――――――――サツキ?」

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